80 きもちいい彼女の治療
周りの人間が時おり二重に見える。
偽の黒篭手を作る副作用だろう。
何とか城までは来たけど吐き気がする。
王国側の控え室で壁を背にして椅子へと座り込む。
扉のない出入り口からマリエル達がやってきた。
「おっはよーヴェ……ル?」
「おはようございます」
「やだ、ちょっと二日酔い? って冗談は言っていい場合じゃないわね。
コーネリア、ちょっとみてくれる?」
「はいっ!」
そういう病気ではないし、見てもらう事もないんだけど。
断る理由を考えるのも面倒だ。
「ヴェルさん、口を開けてください」
顎を掴まれると強制的に開けられる。
コーネリアはちゅうちょなく指を口に入れてきた。
コーネリアの小さいく暖かい手が僕の下をむにむにと触ってくる。
「舌の色は……平気ですね。
喉も腫れてませんし、熱もあるというよりは、少し低い気もします」
コーネリアとマリエルが、僕の顔を覗き込んでいる。
「ひあいんへす」
痛いですといったつもりでも、舌を引っ張られて間抜けな声になる。
「あわわわっ! ご、ごめんなさいっ!」
「ヴェル今日休んだほうがいいかも」
「僕一人が体調悪いと言って止められるものでもないでしょう。
大丈夫ですよ、無理なら棄権しますので」
マリエルはおでこに手を当てて、ため息を付いている。
「やぁやぁ、お困りのようだね」
今一番聞きたくない声が聞こえた。
アデーレやマリエルが振り返り出入り口を見た。
白い帽子と白衣を着た赤毛の少女が立っている。
ヒメヒナさんだ。
「似合うだろ? 可愛い私は何を着ても似合う、困ったものだ」
「それは良かったですね、で。
ここは王国側の控え室です」
「つれないなー、今更恥ずかしかる事もあるまい。
君が寝ている二日間、下の世話は私がしたんだ」
聞きたくない情報だった。
そういわれると、二日間寝ているときの食事や排泄の事を考えてなかった。
「いやー、中々に立派な物だったよ。
これで正常に機能していれば――――」
「で! なんのよう……ごほん……ですかっ」
強く言うと苦しさのあまり咳き込んだ。
「くじ引きの抽選が近いのに君達が来ないから、呼びに来たんだ。
そしたらグッタリしてるじゃないか。
少し見せたまえ」
三人をかき分けて僕の前へと来る。
コーネリアと同じく、舌や眼球、背中などを触ってる。
耳に引っ掛ける聴診器、それを取り出すと胸の音まで聞きだした。
先ほどまでのお茶らけた顔でなく、少し眉を潜めている。
「魔力の流れが悪いな……。
いや、魔力が少ない?。
こないだあった時より篭手から発せられる魔力も弱い……」
心臓が口から出そうだ。
黒篭手から発せられる魔力が弱いのは、偽の黒篭手をつけているから。
本物は城下町の手紙屋へと特別料金を払い預けてある。
「ヒメヒナ様、ヴェルの容態は?」
「ん? ああ……可愛い私に掛かれば、すぐさ。
数日前の君達二人の戦い、その時に使いすぎた魔力がまだ上手く補充されてないのだろう。
少し私のを別ければなんとかなる、君もそれでいいかな?」
数日前というと、アデーレとの戦いだ。
自分の限界を超えたような戦いだ。
はぁはぁはぁ……。
「断ります」
「は?」
苦しいけど、歩けないわけじゃない。
練習試合だったら、無理すれば動く。
それに、とてつもなく嫌な予感がした。
だってヒメヒナさんの僕に問いかけた時の顔が、含み笑いをしていた。
「何いってるのよヴェル」
「ヴェルさん、今回は受けたほうがいいと思う」
「魔力の移動……、王国にも伝わっていない方法ですよね! 少し見てみたいかも、いえ……ヒメヒナさんとヴェルさんが見せてくれると言うならになりますけど……」
マリエル達が僕の意見を無視して、ヒメヒナさんに賛成していく。
「四対一諦めたまえ、実に素晴らしい体験をさせてあげようじゃないか。
普段ならお金を取る所だよ?」
「いえ、だから断り――――」
ヒメヒナさんは椅子に座っている僕へと、対面のまま座る。
顔を両手で押さえられた、そしてヒメヒナさんの顔が近づいて……。
唇と唇が重なると、温かい力が全身へと広がっていく。
逃げ様にも、ヒメヒナさんの足は僕の背中へとがっちりと回されている。
先日のマリエルにやられた逆バージョン。
口の中から体全体に何かが入ってくる。
「なああああにいいいしてるんですかああああああっ!」
マリエルの声とともに、僕の体が自由になった。
「暴力はやめたまえ、私は確認したぞ? 魔力の補充をしていいかと。
君達は賛成だったじゃないか……」
「そ、それは、まさか口移しとか知らなかったし」
「君達は聞かなかったからな。
それに私のテクは凄いらしいからな、どうだ、病み付きになるだろう?」
僕の方へ振りむき聞いてくる。
正直な所、暖かさがあり途中から抵抗しようなど考えられなかった。
やばかった……。
思わず目を閉じそうになったほどだ。
本当の事をいう事は出来ない。
「なりません」
「それは失礼した、ではもう一度――――っと。
マリエル君だったかな? 私の服を離してくれるかな?。
こう見えても力は弱いんだ」
「も、もうほら、ヴェルの顔色も戻ったし、大丈夫なんじゃないでしょうかー!?」
僕に突進してこようとしたヒメヒナさんを抑えているマリエルの言葉。
自分でも、先ほどより楽になっているのが実感できた。
「そうですね……、調子は良くなって来てます」
「間に合わせ私の体液……じゃなかった魔力を流したんだ。
今が良くてももって一時間ぐらいしかもたないぞ?」
「それで十分ですよ、結果はどうあれ試合は終わってると思いますし」
あまりに僕達がリング場所現れなくて、別の兵士が僕達を呼びに来た。




