08 番外・クルースの記憶
とうちゃんが帰ってきた。
ぼくはとうちゃんにかけよる。
「なんだ、まだ起きていたのかクルース」
「うん」
「なんだ、メリッサも起きていたのか」
「ええ、ほらほら。
クルースももう大丈夫だから寝なさい」
かあちゃんに言われて僕は部屋にもどった。
部屋では妹のサリーが僕の帰りを待っていた。
「にいちゃん、にいちゃん。
とうさん帰ってきた?」
「帰ってきた、かあちゃんにもう寝ろって怒られた」
「にいちゃん、あたしきいたんだ。
この村に悪いやつがきたってっ、とうぞくだよ、とうぞく!」
「ばーか、盗賊がきたなら今頃オレ達はしんでるよー」
「ほんとうだもんー」
妹の話を聞いていたら扉が開く。
かあちゃんがランプ片手にこっちを見ていた。
「あんた達っ! 早くねなさいっ!」
僕とサリーは布団にもぐりこむ。
布団の上から優しい声が聞こえてきた。
「大丈夫、大丈夫だからね……。
それと、あんたたち、明日から村長の家に新しい子が来たから仲良くしてやるんだよ」
かあちゃんが扉を閉めていった。
僕は妹と明日くるという子どもについて朝まで話し込んだ。
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「お前、生意気だぞ……」
「僕は命令どおり作業してるだけです」
かー、こいつは!。
オレとこいつは今日は、木の実集めしに森に来てる。
なのに、こいつはもう自分の分は終えて手伝おうともしない。
大体村に来て何年だ二年だぞ、周りの大人は、嫌な顔をしないでなんでもやるコイツを褒めているけど、おれは嫌いだ。
「なんでも命令、命令って。
だったらオレも命令する。
ヴェル、ヒメランカの花を取って来い、木の実の味付けに使うんだ」
「わかりました」
「え、あっ。おい……」
俺が呼び止めたらふりむく。
「なんでしょう、クルース」
「なんでもねえっ!」
本気でわかっているのか、真っ直ぐに滝のほうへ行きやがった。
ヒメランカの花だぞ? 意味わかってるのか?。
「おーいっ!」
「兄ちゃん達おつかれー」
オレの背後から女性の声が聞こえた。
聞き間違えるわけもない、フローレンスだ。
その後ろには妹サミーまで付いてきてる。
「や、やぁ! フローレンス」
「ん。クラース、ヴェルは?」
「えっと」
オレはヴェルのかごをみる。
木の実や食べれる野草が沢山つまっていた、俺のはほぼ何も入っていない。
オレは、オレが使っていたかごを、指差す。
「ちっとも集めないで、どっかいったぜ。
それよりも、みてくれよオレのかご」
「えー……、本当にこれ兄ちゃんが集めたの?」
「あ、あったりまえだろ!。
兄ちゃんだって男だからな!」
フローレンスは腕を組んでいる。
やばい、嘘がばれたか?。
「うーん、ヴェルは途中で投げ出すような子じゃないんだけどなぁ」
「フ、フローレンス……」
「なに?」
おちつけ、言うんだ。
「たしか、フローレンスってヒメランカの花欲しがっていたよな」
「ええ、白くて大きな花弁。
お話に出てきた花だけど、崖に咲く花って聞いたわよ」
「明後日のタンジョウビ、オレがフローレンスにプレゼントする!」
ほれぼれしてるのか、二人ともオレを見ている。
妹のサミーが白い眼を向けてくる。
「…………兄ちゃん、プレゼントってのは秘密にするのがいいんだよ?」
「そ、そうなのか」
「ふふ、でもありがと。
楽しみしてるわねクルース」
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「あー……疲れた」
「おつかれ、クルース」
「おう、ヴィル」
「ずいぶん出来たね」
ヴィルは俺達が作った祭り会場を見る。
当たり前だ、オレが三日三晩汗水たらして、時には昼寝してして作ったお立ち台だ。
明後日の祭で村長たちが使う台。
「なぁ、ヴェル」
「なに?」
「俺、祭りが終わったら家業を継ぐんだ」
「おめでとう」
「その、それでフローレンスに時間を作ってくれないかと頼んで欲しいというか」
ヴェルは俺の顔を見るとため息を吐く。
「かー、でたよっ! その嫌そうな顔」
「嫌そうなじゃなくて嫌なんだよ。
自分で頼んでくれ」
「んな事いっても、俺から頼むとフローレンスが嫌がるだろ?。
その点、お前なら……、な、おねがいだ」
俺はヴェルの弱点を言う。
諦めた顔でこっちを向く。
「命令じゃなくて、お願いか」
「そりゃそうだ。
何年か前にお前に、ヒメランカを取って来いって命令したの覚えているか」
「一応」
ヴェルは、いやコイツは四年ぐらい前に俺が意地悪でだした命令を、傷だらけで成功させてきた。
村長宅ではヴェルが帰ってこないと騒ぎはじめていた頃。
そんな事も全然しらない俺の家へ、夜に突然やってきた。
最初は返事もなにもないのでノックが気のせいかと思っていたが、なんども続くので母親が扉を開けた。
もちろん、コイツの手には大きなヒメランカの花があり、驚く母親を通り抜けて俺へと手渡した。
命令通りとって来たと……。
「あれ、俺が出した命令って、わかって十日間一日一食だぞ」
「そりゃまぁ、ご愁傷様としか。
僕も、その頃は何ていうか命令が一番と思っていたからね」
今でもそうだろう、と突っ込みは出さないで置く。
「それに、お前は命令よりもお願いなら割と聞いてくれるからな」
「出来る願いによるよ、無理なのは受けないし、一応聞いてみるけどアテにはしないでくれ」
俺は、今では親友と思えるヴェルに拳を突き出す。
ため息をついているが、ヴェルは律儀に拳を当ててきた。
そういう所がコイツの、良い所だ。
さて今から祭りが楽しみだ。