77 マリエルとジン 二度目の戦い
ベスト八が決まる日だ。
王国側は、マリエルと僕。
帝国側で危険そうな人物はジンと顔無しだろう。
クジの入ったカードを一枚引く。
「ヴェルなんばーん」
マリエルが気軽に話しかけてくる。
周りの帝国兵の視線がなぜか僕に集まって来ているのがわかった。
「七番です」
「七番すきよね……、私は一番。
ヴェルと本気で戦いたかったんだけどねー」
「一度で十分です」
森での逃走劇の話だ。
「あら、お互い本気じゃなかったくせに」
「僕は本気でしたよ」
「どうだか」
顔無しのほうをみる。
相変わらず顔全体を隠す白いマスクをして表情はわからない。
手には五番のカードをもっており無言で審判へと手渡した。
ジンのほうをみる、ジンは僕らをニヤッした顔でみると二番のカードを審判へと渡していた。
「なっ……」
「あら、どうやら私の相手はあの大男らしいわね」
村が襲われた日にマリエル一人では勝てなかった相手だ。
あの時は見逃してもらえた……。
「マリエル」
棄権したほうがいい。
そう言おうとした。
「嫌よ、言いたい事はわかる。
最初に思い出した記憶は、あの戦い。
思い出すだけで体が震えてくるわね」
「だったら……」
「それでも、嫌。
ヴェル、あまり心配そうな顔をしない。
可愛い後輩や義妹が見てるのよ?」
リングの端には、フローレンスお嬢様やアデーレ、コーネリアが不安そうな顔で僕達を見ていた。
「ま、胸を借りるつもりで、駄目ならリタイヤするしー。
ほらほら、一回戦始まるわよ」
第一試合の選手以外はリングから追い出される。
リングから降りるとセコンドのアデーレの近くへ寄った。
ここのほうが試合が良く見える。
審判が試合開始の合図するために旗を持った。
その動きをジンが止めた。
「ちょっとまってくれ、色々とおじょうちゃんに確認だ」
「あら、なにかしら」
「訓練とは言え、死ぬ事もある。
俺としては、あっちの坊主か、顔無しとやるまでは負けないつもりだ。
こんな練習用の剣でちまちまと戦うのは趣味じゃねえ」
「ふむふむ」
「つまりは、聖騎士と戦う事なんて滅多にねえ。
あっちでやらねえか?」
ジンはあっちというと、背後の両手斧を親指で指す。
つかむ所が長く、槍と斧を合わせたような武器、確かハルバードと言ったはずだ。
マリエルは頷くと口を開いた。
「いいわよ」
馬鹿なっ! 服を誰かか引っ張る。
チラッと見るとフローレンスお嬢様だ。
「ヴェ、ヴェルっ!? と、とめないと」
「…………いえ。彼女がそう選んだのであれば」
過去に戻ったのは彼女達を理不尽な死から救う為だ。
でも、マリエルが自分で命を賭けるのなら僕にとめる権利はない。
「前回の試合でも、マリエルは僕達を止めませんでした。
マリエルも僕に止めて欲しくは無いと思っています」
「馬鹿よ」
フローレンスお嬢様の呟きとともに、マリエルも真剣を構え始めた。
聖騎士団で使う丈夫なロングソード。
場違いな明るい声をだす。
「さてと……。
我が名は、聖騎士マリエル。
ここが帝国領土であろうが、我が剣が折れようとも、貴殿を討つ」
一瞬キョトンとしたジンが、大きく笑い出す。
マリエルの口上は最初にジンと出合った時に言った言葉だ。
「面白い、面白いぞ女。
俺の名は帝国軍風切りのジン」
審判が試合開始の旗を揚げて、リング端へと逃げた。
ジンは両腕を上げてハルバードを回す。
その風を切る音と風圧が、リングの外にいる僕らまで届く。
隙だらけで掛かって来いという合図だ。
「さすがに、こねえか」
「罠みえみえだもの」
ジンはマリエルの左右へとハルバードを打ち込む。
リングに亀裂が入り、ハルバードは直ぐに引き戻された。
思っていた以上に早い。
対するマリエルは剣を構え直し腰を低くする。
居合い抜きといわれる技だ。
間合いに入ってきた相手を一撃で倒す技、二撃目はない。
でも……、マリエルの持つ剣はハルバードよりも短い。
不利だ。
その間にも、ハルバードはマリエルの体を掠めていく。
ジンはけん制攻撃をした後に、ハルバードを構えなおした。
「普通の奴ならここで降参するんだけどな」
「おあいにく様」
「ちんたらやってるのも面倒だ。
次は当てるぞ」
「ご自由に」
ジンはハルバードを両手で持つと空高く持ち上げた。
一刀両断……。
クイクイと服を引っ張るだれか、見るとフローレンスお嬢様だ。
「ヴェ、ヴェルとめないとっ!」
「止めません……」
フローレンスお嬢様に言われなくても、止めれるなら止めたい気持ちはある。
当ればよくて怪我、体が切られて即死の可能性が高い。
ジンとマリエルが同時動いた。
次の瞬間、マリエルは立ち上がると、審判へと負けを宣言した。
「え? えっ? ヴェル何が起こったの?」
「ええっとですね」
リングの上には、持ち手の部分が途中で切られたハルバードが落ちている。
ジンの手には聖騎士の剣が握られていた。
握っているのは刃の部分。
「マリエルが抜いた剣。
彼女はジンを切るのではなく、投げ飛ばしました……」
「ふんふん」
「で、ジンの持つハルバード。
武器の事ですね、その中央を切断しジンの喉元に向かって飛んでいきました。
ジンはとっさに折れた武器を手放して両手で掴んだんです」
「え、じゃぁなんでマリエルさんが降参をしてるの?」
マリエルの居合い抜きはおとりだった。
最初から投げる為に構えていたのだろう。
それとは知らずに、ジンは大技を放った、マリエルはそこを付いたのだ。
リングの上でジンが吼える。
「馬鹿野郎っ俺はまだ戦えるぞ! お前だって武器の一つや二つ無くても戦えるだろっ!」
「そりゃ戦えるわよ。
でもやーよ、交流試合なんだし。
ここから先は殺し合い」
「殺し合い上等だっ聖騎士なんだろ! そんな負けていいのかっ!」
「私たちは個人よりチームで戦う主義なの、私個人じゃ彼方に勝つことは難しいでしょうね」
「上等だ! だったら聖騎士全員でかかって来い、ひいふうみいよん。
四人いるんだろ? おい審判、女の負け宣言を撤回しろ!」
無茶苦茶な話だ。
それと僕を数えないで欲しい、絶対数に入っていた。
隣にいるフローレンスお嬢様が僕の服をまた引っ張る。
「あの人勝ったのよね? なんで騒いでるの?。
あ、審判さんが投げ飛ばされた……」
フローレンスお嬢様の言うとおり、審判がリング中央からリング外へと叩き飛ばされた。
骨の数本は……、命に関わらなければいいけど。
直ぐに他の帝国兵がジンへと鎖を投げつける。
ジンの体が二重三重に鎖に巻かれると、ジンはその鎖を回転しながら外そうした。
「たたかええ、俺と戦う勇気ある奴はかかって来いっ!」
ジンを押さえている兵士が何人も地面へと投げ飛ばされる。
「まったく……、戦闘狂にもこまったものだわ」
「あ、マリエル」
いつの間にかマリエルはリングから降りて横に来ていた。




