76 ヴェルの憂鬱
安静にといわれ、もう一日を城で過ごした。
正直うるさすぎる見舞いは昼で終わり、あの後にオーフェン、ミニッツ王子、ヒメヒナさんは帰っていった。
マリエルの口からこの後に、コーネリアやアデーレ達も来ると言ったら、オーフェンだけが必死で残ろうとしていたけど……ミニッツ王子によって強制的に連れて行かれた。
それからは静かだった。
アデーレのほうは疲労だけで直ぐに回復したらしく、僕が入院させた事を謝ってきた。
逆の場合もあるんだし気にしてない事を伝え、お見舞いの品を食べる。
夕方には足にも力が入り飛び跳ねても大丈夫まで回復していた。
「じゃ、私達は町に行くわね」
「わかりました」
マリエル達が部屋から出て行く。
最後にちらっと、僕ともう一人を見てから出て行った。
一人残る人物が僕の横に座っていた。
フローレンスお嬢様である。
「…………」
「…………」
なんだろう、この気まずさは。
「ええっと……、何か悪いものでもたべましたか?」
「え? なんで?」
「いえ、いつも礼儀正しくおしとやかにしなさいと、マミ夫人から言われていた真逆のお嬢様が、静かですので」
腕を組んで僕の言葉を、反すうし始めた。
「…………、どういう意味よっ!」
「別に深い意味はありません。
ただ、あまりにも静かでしたので」
「その、あの……。
あの顔無しさんの事なんだけど、正式に付き合おうか……な……なん……て……」
最後のほうは聞き取れないような声だ。
「そうですか、頑張ってください」
「えっ! いいの?」
いいも悪いも無い。
フローレンスお嬢様が誰と恋愛しようが、最終的には彼女が決めることだ。
これは、マリエルが僕に言ってきても同じだろう。
ただ、妹のようで姉のような存在。
僕の勝手な思い込みであるけど血の繋がりはないけど家族であり、主人の娘として心配はする。
「良いも悪いも、ただ心配はしますし。
よっぽど酷い人間であれば忠告はします」
「多分……いい人なんじゃないかなー……」
残念な事に、顔を隠している以外ぶっきらぼうであるけど、特に何か悪い評判は出てこない。
フローレンスお嬢様をさらったのも命令らしい。
しかし、武力で押し通す事は無く話し合いと後から聞いた。
ジン達が村を襲ったのはその命令が届いていなかったという事。
あとは、用が済めばフローレンスお嬢様を保護する予定だったと。
さらに周りの話を聞くと、顔無しがフローレンスお嬢様に惚れ、求婚もした。
そうなると、下っ端一般兵はフローレンスお嬢様にも下手な事は出来ない。
現に今の生活は割りと快適らしい。
「あ、そういえば箱はどうなったんですか」
「あれ? 言ってなかった? 開けたわよ。
もちろん、中身は空だし、それを見ていた偉そうな人は酷くがっかりしてたけど。
ヴェルの事は教えていない」
黒篭手を知っているのは、ヒメヒナさんに、フローレンスお嬢様ぐらいか。
「という事は、身の安全は大丈夫なんですか?」
「よくわからないけど、そうなんじゃない?」
「そうでないと困ります。
ここまで追ってきて、フローレンスお嬢様にもしもの事があれば、アルマ村長やマミ夫人に会わす顔がありません」
「なんかね、今は無理でもゆくゆくは王国と帝国を自由に行き来きするようにしたいんだって」
夢のような話だ。
でも、できるのだろうか……。
「だから、少しだけ帝国で我慢してくれだって」
「そうなんですか……」
「だからさ、もう試合に出なくてもいいよ?」
「…………誰かに何か言われました?」
「え? 違うっ! だって、試合を見て思ったのヴェルが無理して試合にでて、その怪我ならまだいい、死んだらと思って」
「不吉な事を言わないでください。
出場した以上、いける所までは行くつもりです」
少し強く言い過ぎたか、フローレンスお嬢様が小さく見える。
「男の人って皆馬鹿なのね。
彼にも、もう出なくていいわよねって言ったの」
「どうでしたか?」
「そしたら、ヴェルという人物が出ると言うのなら俺も出るって」
若干いらつく。
僕が棄権すれば、相手も棄権するという事か。
「すみません、それを聞くとますます棄権はしたくないですね」
「えーっと、顔無し……彼の事嫌いなの?」
「好きというには知りませんし、好きになるほど知りたくも無いです」
「あ、珍しくすねた」
何で僕がすねなくてはならないんだ。
フローレンスお嬢様ももう少し考えて喋って欲しい。
「すねてません、それよりも部屋に戻ったほうが。
あまり男性と二人っきりになると、相手にも失礼です」
「いいわよ、家族なんだし」
家族か……。
久々に聞いた気がする。
僕らを守ろうとして亡くなったアルマ村長にマミ夫人。
逃げれなくなり森の中で息絶えたフローレンスお嬢様。
自分で思うのと違い、思わずあの時の光景がよみがえる。
「やだ、ヴェル泣いてるのっ!?」
「……ゴミが入っただけです」
「おーよしよし、お姉ちゃんの胸の中で気の済むまで泣きなさい。
わたしを振った事を後悔しなさいねー」
「あのですね、なんで振られた相手に慰めて貰うんですかっ。
それに、僕も、フローレンスお嬢様は雇い主。
いえ、今では家族と思っていますので」
「はいはい」
微妙な間が出来た。
「も、もどるね。
今日はコーネリアさんが一緒なの」
「そうですか、では僕も寝るとします」
「お、おやすみ」
フローレンスお嬢様が、部屋から出て行く。
全ては丸く収まるのかな……。
「どうおもう、オオヒナ?」
黒篭手をさすり意見を求める。
でも、今日は返事すら来なかった……。




