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75 番外 フローレンスお嬢様の憂鬱

 凄い試合だった。

 ヴェルは強いのは昔から、でも村での殺人事件でもヴェルが殺人なんて出来るはずが無いと思っていた。

 わたしを助けてくれた時も凄いと思ったけど、その時は普段のヴェルだったし。


「試合終了! 勝者赤!」


 帝国の審判さんが叫んだ。

 そこで初めて息をしてない自分に気付いた。

 横から影が過ぎ去る。

 ボロボロになったリングへと、すぐにわたしを子ども扱いするマリエルさんが真っ先に飛んでいった。

 ヴェル、そしてアデーレさんの脈を取るととりあえずはほっとした顔になった。


「審判っ! 一応医者の手配をしてもらいたいんだけどっ!」

「はっ! す、すぐに!」


 マリエルさんが叫ぶと、審判さんは走ってきた。

 直ぐに誰かを連れて来た。


「ヒバリ様っ!?」


 リングの上のマリエルさんが叫ぶ、知っている人なのかな?。


「ふむ、君達が王国の客人だね。

 実は一方的に見ていたよ、ヒバリ……彼女とは姉妹と言ったほうがいいだろう。

 可愛い私はヒメヒナと言う。

 君達が聖騎士なら、そこの所を察してくれ」

「はっ!」

「はっはっは、王国式の敬礼なんて懐かしいね。

 でも、ここは帝国だ、気遣いは無用。

 一応医術もかじっていてね」


 ヒメヒナさんは二人の体をぺたぺたと触っている。

 腕を組んで考え始めた。

 私もヴェルの近くまでやっと辿り着いた。


「おや、フローレンスちゃんだね。

 知り合いの顔無しが迷惑をかける、彼は別に幼女愛好家でもないのをフォローしておこう。

 彼とは十年ぐらいの友であるが、一時は性欲がないのではと疑った者だよ。

 一度彼が寝ている間にズボンを下ろした事があるのだが、そこには立派な……」


 思わず唾を飲む。

 だって、ヒメヒナさんの後ろに、その顔無しさんが立っているんだから。


「くだらん偽造はやめてもらおう」

「おやおや、レディーの話を盗み聞きとは君も悪い癖だね」

「だったら、小声で話したらどうだ」

「それは失礼。

 じゃ、顔無し君、こっちの彼を上級医務室へ運んでくれたまえ」


 顔無しさんの、目の部分がくりぬかれ、他は何も模様がないマスク。

 その中の目が驚きで開かれるのかわかった。

 なんで俺が? という眼だ。


「か弱い私じゃ、運べないからね。

 君に、倒れている女性を運んでもらうとセクハラしても困る。

 このご時勢……、あっまだ私の話は終わっていないぞ」


 顔無しさんは、ヴェルを抱っこすると、直ぐに歩いていった。


「うわー……お姫様抱っこよねあれ」


 横のマリエルさんが、わたしに聞いてくる。


「っと、そんな話している暇じゃなかった。

 容態はどうなんでしょうか?」

「彼のほうは、足りない魔力を無理やり使った結果かな。

 二日もすればビンビンになっているだろうね。

 彼女は君かな?」

「ふぇっ!?」


 マリエルさんが指を差されて驚く。

 そ、そりゃわたしは背も小さいし一般庶民で、顔無しさんに求婚されてますけどー。

 いきなりマリエルさんを彼女って断言するのは早いと思いますしー。


「そ、そう改めて聞かれると……、そうだったらいいなぁ……みたいな……」


 マリエルさんの声が小さい。


「ちがったのなら簡便しておくれ。

 夜も寝かせないぐらいビンビンになると思うからとおもったのだが、違うなら私が相手をするか」


 何かよくわからない事を言い出すヒメヒナさん。

 怪我人がいなくなると、審判さんを呼び何か言伝をして帰っていった。


「えー、リングの修復と補修をします。

 より強度をあげるために本日の試合はここまで、残りのカードは明々後日になります」


 解散となった。

 マリエルさん達は町へと行く。

 私は一人お城でお留守番、ううん。

 交代で聖騎士の人が一緒に寝てくれる。

 今日はマリエルさんだ。


 面白い人なんだけど、ヴェルの事となると一歩も引かないしちょっと嫌い、でも好きな女性。

 さっきも、私よりも真っ先にヴェルの元へ言ったし、あーあーヴェルも強い人が好きなんだろうなぁ……。

 

 夕食も終わり、後はネグリジェに着替えて寝るだけだ。

 マリエルさんも欠伸をしている。


「ねーねー」

「なーに? フローレンスちゃん」

「今からでもヴェルが試合に出ないように出来ないかな?」

「ほえ?」


 昼間の試合を見て考えていた事だ。

 ヴェルは私のために試合に出たようなもの、強くなったというヴェルなら、もしかしたら優勝してカッコイイ所を見れるんじゃないかって、それだけ。

 でも、昼間の試合を見て思った……。

 試合とはいえ、普通に死ぬ可能性もある。


「難しいわね……、昼間の試合で帝国側もやる気が一気に増えた。

 あの強さを見たらヴェルと戦いたいって人もでるし、正直アデーレが羨ましいわ。

 本気を出して本気で答えてくれた、ヴェルって昔からそうなのかしら?」

「そういわれると、小さい時から無理難題押し付けられても、出来るまで帰ってこなかったかも」


 私の答えに、マリエルさんが少し笑う。


「ぷっ、案外負けず嫌いなのかしら。

 あの試合だって、ヴェルの口から降参の文字でなかったし」

「あはは、そうかも」


 マリエルさんはボスンと音を立てて豪華なベッドへと横たわる。

 毎日恒例のノックが聞こえてきた。


「はーい、今開けます」


 思ったとおり顔無しさんだ。

 毎日何か困った事は無いか聞きに来る、カゴの鳥になったようねと、一度文句を言った事がある。

 マスク越しに、悲しい目をして謝ってくれた。

 冗談を真に受ける逆にわたしが困った。


「あら、今日も来たのね」


 背後でマリエルさんが文句を言う。


「約束だからな」


 そう、冗談を真に受けたままじゃかわいそうなので、仕事に支障が無いなら来てもいいですよと、伝えた。

 毎日来てくれる。


「ええっと、二回戦突破おめでとうございます」

「……」

「ちょっと、フローレンスちゃんがおめでとうって言ってくれてるんだから何か答えたらどうなのよ」

「…………すまない、嫌われていると思っていたのでな。

 賛辞を言われるとは思っていなかったのだ」

「あの……」

「なんだ」

「…………」

「…………」


 言おうか言うまいか迷う。

 後ろにはマリエルさんがいるし人前では私も顔無しさんも恥ずかしいだろう。


「さてと、ちょっとヴェルの様子聞いてくるわ。

 そこ、見張りが居ないからって変な事するんじゃないわよっ!」


 マリエルさんが気を聞かせて時間を作ってくれた。

 ヴェルの様子なんて部屋に来る前に聞いたばかりだし。

 

「わたし、わがままですよ?」

「知ってる」

「嫉妬深いですよ」

「そうだな」

「あの、素顔を見たいわっ!」


 顔無しさんは白いマスクを外した。


「これでいいか? フローレンス」

「うん……」


 想像通りの顔、でもちょっと年上な顔。

 彼がなぜマスクをしているのかはその内聞こう。

 わたしは彼との付き合いを始めようと思った。

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