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62 顔無しという男

 僕らは街道を歩いている。

 先頭は僕、左右にフローレンスお嬢様とマリエル、背後を護る形でアデーレが居た。

 一軒の休憩所が見えてきた。

 

 僕らを見つけて手を振っている女性が見えた。

 コーネリアだ。


「たいっ! 

 マリエルさーんっ!」


 僕は横のマリエルを見た。


「ああ、あれね。

 外まできて隊長って呼ばれたら問題あるでしょ」

「たしかに」


 コーネリアが走ってきた。

 僕の顔を凝視している。


「えーっと……ヴェルといいます」

「まぁ、様子見に行って、男女連れて来たらそうなるわよね。

 フローレンスさんを助けたハグレって所かしら」

「なっ……、ハグレってっ!」

「王国外だし、私達がとやかくいう事はないわよ」

「は……はい」


 そのまま休憩所へと入っていく。

 軽く食事をする所があり、今の時間は暇そうであった。

 席へと付くとマリエルは直ぐに芋ポテトと、飲み物を注文した。

 店主が油で揚げたサクっとした細切りの芋もってくると、暫くは外で馬の面倒をする仕事してくるからと小さい店内から出て行った。


「で、今後の事を話したほうがいいわよね」


 僕は頷く。


「皆さんにはフローレンスお嬢様を匿って、ほとぼりが冷めた頃に村まで連れて行って欲しいです」


 当初の予定を告げた。

 匿う場所はフランの家で合ったけど、流石にマリエル達には教えられないし、任せたほうが良さそうだ。


「ヴェル、君は?」

「僕は王国にはもどれませんね、それに少し気になる事があるので」


 テーブルを叩くフローレンスお嬢様。


「な、なんでよっ! さっきからハグレとかよくわからないし、ヴェルが帝国にいるのも不思議だし、その犯罪者みたいな扱いはっ!」

「フローレンスお嬢様、声を落としてください。

 ハグレというのは――――」


 僕は一通り説明をする。

 聖騎士の三人は肯定も否定もせずに黙って聞いてくれていた。


「信じられない……。

 突然変な力に目覚めたとか……。

 でも、さすがヴェルね。

 だったら、ヴェルも聖騎士になればいいじゃないの」

「なるほど、それは面白い考えね。

 第一部隊か第二部隊に推薦状書くわよ」

「いやいやいや……」


 僕は首を振る。

 別に聖騎士になりたいわけじゃない。

 訓練が嫌だとかそういうのではなく、僕みたいな人間が聖騎士になったら駄目だろう。

 それに、僕には王国に忠誠がほぼ無い。


「少しこっちでやり残した事があるので」


 まずはオーフェンが心配だ。


「それって、さっきの捕まったって言っていた人?」

「ええまぁ……」

「ふーん、君の協力者かぁ。

 ちょっと興味あるわね」

「隊長っ……」


 アデーレが小さく注意をする。

 僕としても会わせたくはない。

 大の女性好きなオーフェンだ、マリエル達を見たらぜったいにトラブルを起こす。

 ……。


 生きていればだけど。

 せめてその確認はしたい。


「と、いうわけですので。

 フローレンスお嬢様とはここでお別れです」

「ねぇヴェル。

 私はもうお嬢様じゃないんだし、その呼び方はおかしくない。

 ほらほら、そこのマリエルさんみたいに、私の事をフローレンス。

 って呼んでよ」

 

 難しい質問をしてくる。

 僕の意見など関係なしに矢次に喋る。


「それとも、この人達の事は名前で呼ぶのに、わたしだけお嬢様って子供っぽいじゃないのよ」

「だ、そうだ。

 ヴェル、呼んであげればいいじゃないか」

「無理です。

 僕にとってはお嬢様はお嬢様なので、立場が変われとそれは変わりません」


 僕の言葉にあんぐりと口を開けているフローレンスお嬢様に、小さく笑い出すマリエル。

 なんとでも笑ってくれくれて結構、そこは守っていきたい。

 横にいるマリエルが何故か勝ち誇った顔をして鼻を鳴らしている。


「お嬢様が取れないって事は、それだけ子供っぽいって事よ」

「隊長のほうが子供っぽいですよ」

「な、ちがいますしー」


 背後から喋るアデーレに言葉を止めるマリエル。僕はその光景に少しだけ笑う。


「お嬢様はお嬢様です。

 では、僕はここで」

「じゃあ付いて行く」


 フローレンスお嬢様の言葉で一歩前に出した足を止めた。

 

「付いてきたら僕がここまで来た苦労がですね、それに用が済んだら殺されるかもしれませんし」

「えーでも、殺しはしないんじゃないかな。

 一日二食とオヤツもあったし、暇つぶしに本や遊び道具の差し入れあったし、そのトイレだって女性の人が付いて来てくれてたし、外が見えないが難点だったわね……」


 嬉しそうに喋る姿をみて肩を落とす。

 少しだけ、少しだけであるけど、僕が命をかけて助けに来たのをわかってほしい……。


「箱の開き手なら、待遇はいいでしょうね」


 マリエルが最後のポテトを口に入れ話す。


「箱……」


 僕が持っている黒篭手が入っていた箱だ。

 今は空っぽなはず。


「そうねぇ、最初に来た目的は達成したんだけど……。

 私としても、このまま帰るわけには行かないかな?」

「何故です?」

「何故って……、ヴェルが居るから」

 

 聞き様によっては告白だ。

 コーネリアが小さく黄色い悲鳴を上げて、僕とマリエルを見ている。


「いや、そういう意味で言ったんじゃないでしょ」

「あら、そういう意味もあるわよっ」


 マリエルがからかうような口調で言うと、フローレンスお嬢様が怒り出す。


「ちょ、おばさんっ! 私のヴェルに手を出さないでよっ!」

「だあれえが、おばさんよっ! 子供過ぎて女性に見られて無いくせにっ!」

「あわわわ、三角関係っ!」

「ふう……、ポテトのお代わりを頼んできます」


 アデーレが立ち上がって、直ぐに武器を構えた。

 その瞬間、僕もマリエルも剣を抜いた。

 コーネリアだけが一歩遅れて剣を抜くと、その背後にフローレンスお嬢様を隠す。


 長身の人間が近くの椅子に座っていた。

 さっきまで僕ら以外誰も居なかったはずだ。

 顔を仮面で隠している。


「王国の人間は、敵意のない奴にまで剣を向けるのか?」

「っ! 時と場合によってはね……、何時から居たの? それと誰かしら」

「好きに呼べ、周りからは顔無しと呼ばれている。

 花嫁を迎えに来ただけだ、花嫁の前を血で汚したくはない」

「花嫁って、この子よね。

 帝国はそこまでして箱を開けたいのかしら?」


 マリエルはアデーレへと目配せし始める。


「空箱などに興味はない、後ろ奴壁を蹴破るつもりだろうが蹴破ったら最後と思え」

「顔無しと呼ばせて貰うよ、オーフェンは無事かい」

「ふ……無事だ、嘘と思うなら帝都にくればいい」

「あら、見逃してくれるかしら?」

「敵意は無いと最初に行ったはずだが?」


 顔無しが腰にある剣を掴むと、風が飛んできたように感じた。

 休憩所の周りにいた動物達が一斉に鳴きだした。

 明らかな殺気が一気に飛んでくる。


「さて、フローレンス俺と一緒に行こう」

「フローレンスお嬢様っ! 駄目ですっ! 何をされるかっ」

「ヴェルごめん、ちょっと黙っていて……。

 あの……、顔無しさん逃げ出してごめんなさい」

「気にするな、むしろ部下が勝手に動いて迷惑をかけそうになった

 別に逃げ出したからといって村を襲うなどはしない、君がそれを望んだのだからな。

 俺はフローレンスの望む事をするだけだ」


 勝手な部下というのはジン達の事だろう……。


「もう少しだけ、時間をください」

「わかった、では城で待っていよう」


 顔無しは、僕らなどに眼も向けず、ゆっくりと休憩小屋から出て行った。

 入れ替わりに店主が入ってきた。


「あれ、お客さん店内は武器構えたら困るからっ、他の客がいないからいいけど、居たら騒ぎになるからね、所で追加で何か頼むかい?」

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