59 再開の彼女……達
布で顔を隠した僕は一気に走り出す。
反対側からは青や白、黒などの煙が上がっていた。
「て、敵襲だああああ」
近くの男が叫ぶ。
僕の姿を確認して武器を取ろうとするが……。
「遅いっ!」
剣の刃を背にして叩きつける、その勢いで叫んだ男は飛んでいった。
迫ってくる別の人間へ肘を叩きつける。
ジンを眼で追った。
その眼は僕を見ており、不敵に笑う。
この状況でも怒るのではなく、楽しんでいる……。
やがてジンの姿も煙りの中へ消えていった。
正直構われたくない。
先ほどまで見えていた、護送馬車の扉を叩き割った。
馬車の中は物が散乱していて、端に怯える女性が居た。
間違いなくフローレンスお嬢様が其処に居た。
直ぐに近くに駆けよると、暴れだす。
「やっ、ちょっと、約束が違うじゃないっ!。
ちゃんと守ってよっ!」
「暴れないで、フローレンスお嬢様。
僕です、解りますかっ?」
震えいた顔が僕の顔をみている、信じられないといいたげな顔である。
その小さな唇が微かに動く。
「ヴェ……ル……」
「はい、ヴェルです」
「な、何が起きてるのっ」
「説明は後で。
逃げますよ」
「え……、いやちょっと待ってっヴェル」
「なんでしょう」
「ええっと、そのね……ジンという人と約束もあるし……逃げたら」
何を言っているんだ……。
「いいですか? ようが済んだら殺される可能性もあるんです」
僕が説明すると、入ってきた入り口に敵が入ってくる。
「逃げますよっ!」
「う、うん」
僕はフローレンスお嬢様を抱きかかえる。
牢馬車へ入ろうとしている兵士数人を蹴飛ばし外にでた。
現場では様々な悲鳴や怒声が飛び交う。
休憩所に居た別の人達だろう。
混乱してくれたほうが助かる、馬車の馬へ強引にフローレンスお嬢様を乗せ、僕も乗る。
何年も一緒だった時にかいだ香りが匂って来るのがわかった。
「ごほっ」
フローレンスお嬢様が咳き込む。
毒だろう。
「今はお静かにっ、あとこれを口に」
解毒薬を口にいれてもらう。
僕は笛を吹いた。
僕のほうはこれでお別れというオーフェンへの合図だ。
馬車から馬を切り離し一気に駆け抜けた、馬も苦しいのだろう直ぐに煙から逃げようとする。
「一人逃げたぞおおおお」
「追えっ」
「こっちは捕まえたぞっ」
なっオーフェンが捕まった!?
とっさにブレーキを掛けた、直ぐに数人の敵が僕らへ走ってくる。
「ヴェ、ヴェルっ。
『一人捕まって』って言ってるけど……」
「走ります」
「え、ちょっと。
えっ見捨て――」
「口を閉じてください、舌を噛みます」
お互い失敗しても関与はしない、そう決めていた。
もちろん、オーフェンのほうは箱を保管してる場所を探しながらなので分が悪いのは最初から知っていた。
だから、僕がフローレンスお嬢様を助けるのに場を混乱させたのもある。
この状況で助けに行けるはずも無い。
僕は急停止させ興奮した暴れる馬の手綱を無理やり引き叩きつける。
ここしばらく一緒にいたオーフェンが思いだされる。
いきなり斬りつけられた事。
服をボロボロにされた事。
娼婦館へ連れて行ってくれた事。
旅の途中で、僕が男好きかと思って警戒してたと告白された事。
オーフェンが酔っ払って、貞操を奪おうとしてきた事。
ヒメヒナと会った事を話したら、いきなり吐しゃ物をかけられた事。
あれ……、あまりいい思い出がないような。
「ヴェル! 来るよっ!」
「っ!」
フローレンスお嬢様に言われて意識を戻した、一瞬の判断が致命的だった。
今度は馬に乗った敵が煙から見えてきたのだ。
急いで馬を走らせるも、その距離は縮まっていくのがわかる。
追いつかれるのも時間の問題だろう、一応作戦ではフランと合流し匿って貰う手はずになっている。
もっとも……そこまで着けばの話だ。
どうする、僕が馬を下りて時間を稼ぐ事は出来る、先に馬に乗ったフローレンスお嬢様だけを逃がすにしても土地勘はないだろう。
「次の分かれ道がある所で一度止めます。
そこで迎え撃ち逃げましょう」
「う、うん」
分かれ道がある所で迎え撃ち逃げる。
あそこなら時間を稼げば逃げやすい。
馬をとめようとした瞬間、道の脇から二人の人影が出てきた。
「なっ!」
その姿は茶色く汚れたフードをかぶっている。
僕らの前に急に出ると馬の手綱を強引に掴み、馬を止めた。
その反動で僕達は道へと投げ出された。
「いったーいっ」
「大丈夫ですかっフローレンスお嬢様」
僕がクッションになっているから差ほど痛くは無いとは思うけど、フローレンスお嬢様は悲鳴を上げている。
僕達を馬から落とした人間は、馬にまたがると分かれ道を走っていく。
「こっちよ! 隠れてっ!」
残ったほうが僕達を道の死角へと隠した。
助けてくれるのか……?。
直ぐに馬に乗った男達が現れる。
分かれ道を見て舌打ちしていた。
「おい、馬が通らなかったか?」
僕らを助けたフードの人間は黙って片方の道を指差す。
「確かに、馬の跡が……。
礼だっ」
男は、小さい皮袋をフードの人間へと投げると、分かれ道へと消えていった。
助かった……のか。
僕らから馬を奪った人は自ら囮になり馬を走らせる。
そして残った人は僕らを助けてくれた。
「どこの人がわかりませんけど、ありがとうございます」
「そう。
何処の人かもわからないか……、それは面白いかな」
小さく喋ると汚れたフードを取る人間、耳が隠れるぐらいの金髪で、柑橘系を思わせる匂い、赤い瞳で切れ目が特徴的で……。
思いを寄せた顔が僕らをみて小さく笑っている。
「やぁ、ヴェル。
またあったわね」
「マ、マリエルッ」
驚きのあまり、名前の後になんていって言いか声が出ない。
なんでここに、なぜ帝国にいて僕を助けるのか頭が混乱する。




