53 番外 あるハグレの悪夢
懐かしい夢を見ている。
これもあれも、あんな寝言を聞いたからでしょう。
「まったく、少しは楽しんでいるかい?」
そう、私に聞くのはとう様である。
少し遠くにいるかあ様は、イノシシを解体していた。
今日のメインデッシュだ。
この時は私の婚約者選びなどが重なり、気分転換も兼ねての旅行だった。
まだ少女だった私はとう様へと訪ねる。
「それないりに、とう様は?」
「楽しんでいるよ、午後には妹達も来るだろうから安心しなさい」
「べ、べつに妹達が来ないからすねてる訳じゃないですしっ!
それよりも、父様こそイノシシの解体手伝ってきたらどうです?」
「いやー、血は得意じゃなくてね」
「聖騎士のくせにっ!」
「はっはっは、面目ない」
次のシーンでは……雨が降っていた。
そう占い師の予報では晴れが続くはずだったのに。
いや、今はどうでもいい……。
私の前には、とう様やかさ様が切られ地面へと倒れている。
私もこの時は、地面へと転がされていた。
「ど、どうして……」
私の呟きを聞いた男は、私を見る。
「どうしてだと……、お前達が……、様を……」
雨の音で彼の声が聞こえにくい。
彼は黙って首を振った。
倒れているとうさまの首を無造作に跳ねた。
表情はうかがえない……。
彼は背を向けて立ち去ろうとしている。
首の無くなったとうさまへと駆け寄った。
まだ体は温かい。
許さないっ!
ころす、ころす、ころすっ、ころすっ、ころす!!
とう様の腕から篭手を剥ぎ取る。
力の継承だ。
私の中へ魔力と呼ばれる力が入ってくる。
さぁ、私に力があるなら今だけでいい! 全力で答えてっ!
気付いたら、彼の背後を捕らえていた。
手にはとうさまが使っていた聖騎士の剣。
あと少しで、こいつの首を跳ねるっ!!
仇が討てるんだっ!
耳元で声がした。
「君まで殺す予定は無い」
彼の居た場所は既に何も無かった。
腹部に衝撃が走り、私の意識は途絶えた。
夢の場所が変わった。
ころころとよくかわる物だ。
ここはベッドの上だろう、隣には諦めた顔のおばあさまが居る。
「では、決心はかわらないのですね」
「はい、私の進む道に名が邪魔というのであれば、名は捨てましょう」
「では、なんと呼べば」
「そうですね……、フランと」
「フラン?」
「はい、よく妹に読み聞かせたお話に出てくる、意地悪な姉の名前です」
「そうですか……、わかりましたフラン。
彼方を一級ハグレとして手配します、その力を好きに使い。
そして進みなさい」
「ありがとうございます、おばあさま、連絡を入れます……」
「こちらも……」
結局啖呵を切って国を出たはいいけど、当初とは予定が変わった。
私達の事を考えなく、ファーランスは聖騎士になるし、その親友のマリエルも一緒に聖騎士になった。
彼女達を守りたい。
あの瀕死な奴と思いは一緒とは……。
保険も兼ねて彼に協力したほうがいいだろう。
暗い天井が見える。
いつの間にか起きていたらしい。
そして胸の部分に男の手がある。
はぁ……、こいつもこりへんやつやえ。
「いって、まったっ!
フラン姐をマッサージ、そうマッサージにしに来ただけでっ!」
「やさしいなぁオーフェンは」
「だろ?」
「ウチもマッサージしてやるから」
「まじでっ! ありが……。
まった、そこはダメっ! あっ! ああっ!! 潰れるっ!」
「潰れてももどるんやろ?
だったら……」




