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05 守れなかった

 僕らは裏庭へと、転がされた。

 両手を縛られ地面へと顔をつけている。

 せめて、三人は守らなければと、なんとか村長家族よりも前に出る事に成功した。


 盗賊団は、不気味なぐらいに静かに行動している。

 全身を黒い服を着ていて、顔すらも布でわからない。

 目の部分だけは見えている。

 特徴的といえば、腕につけているリングの数。

 基本的にリングの数が少ない盗賊が、動いているよう見えた。


 とにかく、なんとかしなければ……。

 目的はなんだ。

 どうすれば助かる、いや、どうすうればフローレンスお嬢様達を助けられる。

 考えろ。

 人数は八人、四本のリングをつけた大男の盗賊に、リングが一~二本の盗賊が七人。

 手の縄は、僕なら昔の知識で、時間さえあれば解ける。

 じゃぁ、時間だ。

 時間が居る。


「な、何が目的だ! 金なら、場所を教えるっ」


 僕の叫びに、盗賊の数人がこちらを向く。

 背後にいたアルマ村長も、私が村長だ、金なら持って行って構わないと、同じく叫んだ。 一人の賊が、アルマ村長の隣に行った。

 

 耳元で何かをささやくと、アルマ村長は何度も頷く。

 一人が、家の中へ入っていき、残りの賊が馬を殺し始める。

 僕らを逃がさないため……。

 その馬の悲鳴に、フローラお嬢様は目をギュっとつぶった。


 大男が子分に何かを伝えると、家へと入り直ぐに出てきた。

 子分の手には祭具である箱がしっかりと握られていた。

 大男が箱を受け取ると、地面に転がっている村長の所へ行く。

 アルマ村長は何度も頷く。


 次に、フローラお嬢様の前へといった。

 無言で箱を差し出す。

 アルマ村長がゆっくりと口を開く。


「フローラ、その箱を開けられるかな」

「え、え、でも」

「半開きでもいいらしい、そうすれば命だけは助けてくれると」


 なるほど、六年前の盗賊と同じ箱が目的。

 いやでも、なぜか普通の盗賊には見えない。

 祭具である箱を見ても、あまり興味がなさそうな感じだし、だからといって貴金属を探しているような気配もない。


 フローラお嬢様は、縛られた後ろ手で箱を開けた。

 半開きなどではなく完全に開いたのだ。

 中に入っていた黒篭手を見ると、大男はそれを胸の部分へと入れる。


 そして、満足したのか大男が立ち上がると、手を振りかざした。

 僕は嫌な予感がヒシヒシと感じられる。

 親指が抜けた、後はもう少しだ。

 大男が、部下から剣を受け取る。

 

 その剣でアルマ村長の首を切り落とした。


 思わず僕は固まった。

 驚いた夫人が呆然としてると、夫人も、別の賊に背中を刺された。

 村長宅は既に火をつけられ赤く燃え始めていた。


 フローレンスお嬢様の横顔が赤い炎に照らされて神秘的に映る、既に目は焦点が合っていなく考える事をやめたような目だ。

 フローレンスお嬢様と、僕の横にもそれぞれ賊が剣を構え始めた。

  

 腕を縛っていた縄が外れたっ。


 無意識に体が動いていた。

 フローレンスお嬢様を守らなければっ。

 僕は雄たけびを上げた。


「あああああああああああっ」


 自分の口から出しているという感じはしなかった。

 フローレンスお嬢様の目に生気が戻り僕を見ている。

 僕とフローレンスお嬢様を切り殺そうとした盗賊は、僕の叫びで動きが止まった。

 

「ヴェ、ヴェル――」


 今にもフローレンスお嬢様の胸へと剣を刺そうする盗賊に体当たりをぶつけ、その剣を奪う。

 僕は地面に転がった盗賊へと迷う事無く剣を突き刺した。

 手に鈍い感触が伝わるも、今は構ってられない。

 転がされているフローレンスお嬢様の手足の縄に切れ目を入れる、周りが緊迫した空気になる中、四個のリングを付けた大男の目が笑っているのがマスク越しに見えた。

 

 僕と格が違う。

 いや、周りの賊だって僕よりも上だろう、旨く奇襲を付いて一人は倒せたけど、全員は無理だ。

 全身に鳥肌が立つ。

 僕達の背後に今は盗賊は居ない。

 盗賊は僕達を囲むようにして様子をうかがっている。

 いやちがう、大男の命令を待っているんだ。

 だったら、その時間を使わせてもらおう。 

 フローレンスお嬢様だけに聞こえるように小声で話す。


「フローレンスお嬢様。逃げてください」

「ヴェルは、ヴェルも死んじゃうのっ」

「いいえ、死にません。死にませんから逃げてください」

「やだっ、ヴェルも一緒じゃなきゃやだっ」


 僕は、さらに小声で話しかける。

 説得しなければ二人とも命はない。


「わかりました。僕があの大男に切りつけ、直ぐに逃げますからお嬢様は先に逃げてください、後ろの森を抜ければタチアナの町に行く途中に小さな店、そこに行く近道があります。そこまで行けばなんとかなるでしょう」

「う、うんっ」


 血の付いた剣を握りなおす。

 当りに生臭い匂いが充満してくる。

 フローレンスお嬢様も何とか立ち上がり背後で逃げる準備をしている。


「一二の三でいきますよっ」


 背中に居るフローレンスお嬢様に優しく喋りかける。

 パニックが収まってきたのか小さく、そして力強く、うんと、いう返事が耳に届く。


 一。


 二。


 三っ。

 心で数字を数え一気に大男へと切りかかった。

 大男は嬉しそうな顔をし僕の剣を腕一本で受け止めた。

 もとより、承知。

 しかし、この場である司令塔に切りつければ、他の奴らだって勝手に動く事はしないだろう。


 鈍い金属音が響き、直ぐに剣先から手に大きな振動が伝わってくる。

 剣を落としそうになり少し離れる。

 背後の森では、お嬢様が逃げる音が遠ざかっていく。

 これでなんと…………。


「やめろ……」

 

 大男が、持っている剣を槍のように構えた。

 その目は僕はではなく、後ろの森を見ている。


「やめろ……。

 やめろおおおおおっ!」


 僕は大男へと突進する、投げさせてはダメだ。

 大男の手から剣が投げられた。

 森の中で鈍い音が聞こえ、静かになった。

 先ほどまでの、フローレンスお嬢様が逃げる足音が聞こえなくなる。


 もう、守るべき物も何もない、膝が落ちた。

 地面しか見えない……。

 倒れた僕の側に誰かか座り込む。

 髪をつかまれ無理やり上へと向かされると大男のマスクが見えた。


「その歳でためらいも無く、剣を振るう勇気を認めよう。

 俺に掛かって来たのも女を逃がすため勇気ある決断」


 褒めているのか……。

 だからなんだ、失敗したじゃないか。


「我の仲間に入らないか、実力主義の軍だ」


 軍?

 大男が軍というと、周りの賊の空気が変わった。


「おめえら、小さい事にうるせえ。

 どうせ生き残りはコイツだけなんだ、断れば切ればいいだけだろ」


 大男は周りの賊へと振り向き大声を張り上げた。

 再び僕を見る。


「その度胸なら直ぐに、二等ぐらいには成れるだろう」


 二等という事はリングを二個つけた賊の事だろうか、村人いやフローレンスお嬢様すら守れないのに生きていてどうする。

 そもそも僕は、六年前に死んでいて当たり前の人間なんだ。

 盗賊だった時の罰があたったのかもしれない。

 守るべき物を守れない気持ちがわかったかと。


「――断ります」

「そうか、それもまた勇気」


 引っ張り上げていた髪から手を離した。

 他の賊から剣を受け取ったのだろう、目線の先に剣が見えた。

 僕の耳に振動が聞こえる。


 何かか走ってくる音。

 それもかなりの速さだ。 

 地面に近いので僕はそれがよくわかった。

 周りがざわつくと同時にいくつかの金属音、そして馬の鳴き声が聞こえた。


 痛みの中、顔を上げると。

 髪の短い女性が僕を守るように立っている。

 僕のほうへ顔を向けた。

 フローレンスお嬢様と同じ金髪であるが、こちらは髪が短く、切れ目の女性だ。


「すまない少年、もう少し早く着いていれば……」


 僕に言葉を掛けると剣を握る右腕がみえる。

 その右腕には真紅の模様が入った篭手が付けられていた。


「我が名は、聖騎士マリエル。

 ここが王国内と知っての狼藉であろう。

 我が剣が折れようとも、お前らを討つ」


 マリエルと名乗る女性が次々に軍と名乗った盗賊を切っていく。

 僕にとっては踊るように舞っているように見え、その横で盗賊が倒れていく。


 大男以外を切ったにも関わらず息切れ一つしてなく片手に持った剣先を真っ直ぐに大男へと向けていた。


「後はお前だけだ。

 自害するか、この惨状の責任を取ってもらう」


 大男の目が笑っている。

 死んだ盗賊の剣を取るとマリエルへと向き直った。


「今夜は楽しいねぇ。

 だが、断る」


 一瞬で双方が切りかかる、剣と剣がぶつかり、数度の打ち合いのが始まった。

 マリエルが唐突に後ろに下がる。

 その表情は最初に見せた余裕よりも、焦りの色が強い。


「まずいな。

 少年よ……かっこよく助けに来たはいいけど。

 逃げなさい、後ろに私が乗ってきた馬があるから」

 

 マリエルが僕に喋ると対峙している大男が口を開く。 


「目撃者は全て排除せよ。

 そう命令されているんだがな、思わぬ手土産が出来た」


 大男が剣を捨て、マリエルへと一気に間合いを詰めてきた。

 その巨体を地面に突き刺した剣で防ぐ。

 一本の剣を堺に境界線が張られた。

 マリエルは直ぐに蹴りを繰り出し、そこからの回し蹴りを打ち込む。

 大男の腹を強打し、腹から黒篭手が転がり落ちる。

 大男が、その打撃に喜んでいた。


 僕の足元に黒篭手が転がってきた。

 僕はそれを黙って見つめた……。

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