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04 悪夢というなの夜

 はぁ、まったく。

 僕が悪態を付くのは、フローレンスお嬢様の事だ。

 途中で会ったクルースが、フローレンスなら真っ直ぐに村長宅へ戻ったぜと、言っていたので、僕も一度戻った。

 どうやら自室にこもっているらしく、僕がフローレンスお嬢様の部屋をノックしていると、マミ奥様が小さく笑っている。


「あらあら、何があったかしりませんが、ヴェルをあまり困らせるんじゃないんですよ」


 扉の反対側から、フローレンスお嬢様の文句が聞こえてきた。

 ちがうもん、ヴェルが悪いんだもんと。

 そうは言われても。

 マミ奥様は僕を見て小さく笑っているし。


「ヴェル、ここは大丈夫だから他の事をお願いしますね」

「わかりました」


 他の事、すなわち祭りの準備での外仕事から帰ってくると、フローレンスお嬢様が僕を見つけて駆け寄ってくる。

 

「ヴェル、あのその……。

 昼間はごめんなさいっ!」

「いえ、僕は気にしていません」


 フローレンスお嬢様も、僕の気持ちをわかってくれたならそれでいい。


「ヴェルが冒険者になりたいのはわかったわ、私も付いて冒険者になるわね」

「なっ!」


 玄関で思わずこけそうになった。

 何故そうなる。

 僕が大きな声を出したので、アルマ村長が何事かと見てきた。

 僕と目が合い、安心したのかダイニングへと顔を戻していく。


「ちょっと、ヴェル。

 大きな声を出さないで、命令よ」

「いや、あのですね。

 その命令は聞きますけど、わ、わかりました。

 とりあえず僕の将来は置いておいて、時間はまだあります。

 もう少し後で考える事にしましょう」

「そうよね。

 ママに言われたけど。

 二人の将来なんだし、まだ時間はあるもんね」 


 なるほど。

 フローレンスお嬢様に、何か入れ知恵したのはマミ奥様か。

 

「二人ともー、ご飯よー」


 僕達を呼ぶ、マミ夫人の声がダイニングから聞こえてきた。

  

「ほら、ヴェルいきましょっ!」

「そうですね……」

「なんだが、疲れた顔してるし、そういう時は肉を食べればいいのよっ!」


 僕の手を引っ張りダイニングへと行く。

 既にテーブルの上には、マミ夫人特性の料理が並べられていた。

 アルマ村長が、そろった所で頂きますと、言う。

 僕もフローレンスお嬢様もそれに習って食べ始めた。



「所でフローレンス。箱は持って来てくれたかな」

「も、持って来たわよ。

 あっちに置いてあるでしょ」


 フローレンスお嬢様が、あっちと指を向けると、無造作に床に黒い箱が転がっている。

 その箱を見ては顔面が青くなるアルマ村長。

 

「ばかばかばかばかっ!」


 食事の途中というのに立ち上がり急いで箱を抱き上げ、大事に棚へと置いた。


「フローレンスっ!。

 あんな所に置くんじゃないっ」

「えー、なんで私だけ怒るのよっ」

「はー、まったく。

 ヴェルが頼まれた物を、あんなふうに床に置いた事は一度もないだろ」

「たしかにっ!」


 フローレンスお嬢様は、ポンっと手を置いて納得する。

 確かに箱を、どこに置いたまかでは聞いてなかった。

 僕もアルマ村長に謝る。


「すみません、僕が箱を持ってもらったので」

「いや、ヴェルは悪くない。

 しかし、まったく――」

 

 席にもどるアルマ村長。

 隣のマミ夫人は可笑しいのか、少し笑い出しそうな顔をしてる。

 マミ夫人が、アルマ村長が席に戻ったと同時に喋りだす。


「あなた、そんなに大事なら貴方が行けば良いのでは。

 任せた箱を持ってくると言う事はちゃんとやって来てるのですし」

「いや、そのしかしだな」


 怒られるとは思ってなかったのだろう。

 次第に、しどろもどろになっていく。

 僕は隣を見ると、フローレンスお嬢様が、そら見た事かと、何故か勝ち誇ってる。


「所で、マミよ。

 あの箱の中身はなんなんだ?」

「知りませんわ、開かずの箱ですもの」


 僕はとっさに横を向いた。

 フローレンスお嬢様が、目を輝かせ何かを言おうとしてる。

 箱の中身は、真っ黒い篭手でしたと、でも言うつもりだろう。

 言ったら最後、アルマ村長は倒れるかもしれない。

 テーブルの下でフローレンスお嬢様の太ももを軽く叩く。


「ひゃっ」


 フローレンスお嬢様は椅子から立ち上がり、両親の視線を集めた。

 僕の方をみて何か言おうとしてるが、口を閉ざしなんでもないと、座りなおす。


「そうですね、フローレンス。

 いい機会です、箱の話をしましょう――――」


 マミ奥様が、話し出すおとぎばなし。

 数百年前、この世界は荒れに荒れていた。

 突如現れた勇者が世界を救い、どこかに消えていった。

 そして、仲間は勇者が使っていた物を大事にしながら暮らして行った。


 よくある話で、この村に伝わっているままである。


「はーい、ママ、その話しってるんだけど」

「そうですね。

 しかし、勇者が使っていた物を悪用されないように箱は開かないように封印されたのですよ」

「へ、へー……」


 ちらちらと、フローレンスお嬢様が僕を見てくる。

 言いたい事はわかる、箱はフローレンスお嬢様の手で簡単に開いた。

 僕もその篭手を見ているし、触った。


「私にもわかりませんが、どうやら勇者の仲間である直系の血筋しか開けないらしいと伝わっています、父上、ええそうです。

 アルマ村長ではなく、私の父で前村長や娘である私も、すき間は開く事は出来ましたが中身まではわかりませんでしたわ」


 懐かしそうに話すマミ夫人。

 そこから少しだけ思い出話が続き、夕食も終わった。

 夜は、バラバラで明日の準備だ。


 アルマ村長と僕は明日の最終準備を確認し、夫人は食べ終わった物を片付けている。

 フローレンスお嬢様は夫人のほうで一緒に手伝いをしていた。

 

 遅い時間になると、マミ夫人とフローレンスお嬢様が先に部屋へと戻った。

 僕は裏口にいる馬へと食事を与えに行く。

 最後に戸締りを確認し、一人ダイニングで仕事をしている村長に報告をした。


「全て終わりました」

「ふむ、今日もご苦労。

 所でそのなんだ、男同士の話を少ししないか?」

「はい、なんでしょうか」


 男同士の話といっても、特に僕から話す事はない。

 小声で僕に質問するアルマ村長。


「フローレンスの事は女として、どう思っているか参考に聞きたい」

「フローレンスお嬢様ですか?」

「そうだ、そのなんだ……」


 なるほど、僕からみてどんな女性かと聞きたいのか。

 参考といぐらいだ、お見合い話も上がっているのだろう。


「活発な所はありますが何処に出しても、いい女性と思います」


 僕としては、こういうのが精一杯だ。

 

「そうかっ!。

 いや、良かった! ヴェルがそう言ってくれるとワシも嬉しい。

 昼間にマミからヴェルに聞いて来いって言われてなっ。

 明日の祭りは頼むぞっ」


 僕のその後の返事を聞かずに、何か納得した村長は寝室へと向っていった。

 何か勘違いをさせたかもしれない。

 訂正しようにも、リビングには僕一人、知らずにため息が出ていた。

 最後に食堂と玄関の戸締りを確認し、僕も寝るために部屋に入ろうとした。


 廊下を歩き突き当たりにある部屋に行こうとすると手前の部屋から小さな手が出てる。

 僕は側によると小さく声をかけた。


「フローレンスお嬢様どうかなされましたか、というか早く寝てください」

「っと、来た来た」

「呼ばれたから来たのですし、部屋には入りませんので用があるなら明日にお願いします」

「あーのーねー……明日は忙しいでしょうがっ。

 お祭りの最後終わったら昼間の洞窟の前に来てっ! それだけよっ」


 言うだけ言って扉を閉めるフローレンスお嬢様。

 直ぐに再び扉が開くと困った顔したお嬢様の顔が出てきた。


「あと、おやすみ」


 二度目の扉が閉まると廊下に一人取り残された僕は頬を掻くしかなかった。



 昼間の事もありゆっくりと睡眠をとる。

 どれぐらい寝たのだろうか、僕は目が覚めた。

 獣の足音が近づいて来るのが解かった。


 慌てて起きると、枕元へ置いてあるランプへと火をつける。ドアをあけ廊下を走り玄関へと向った。

 その音で目が覚めたのか村長夫婦の寝室の扉から村長も顔だしてきた。


 玄関の扉を激しく叩く音、直ぐに鍵をあけると若手リーダー格のクルースの顔が現れた。 背後からは焦げ臭い匂いが押し込んで来る。

 夜だというのに彼の背後は赤い光が漏れている。


「っヴェルかっ! 逃げろっ」


 僕の顔を見て行き成り叫ぶクルース、背後に来た村長の顔を見ると事情を説明し始める。


「村長、逃げてください。盗賊ですっ、いや」


 一瞬僕の顔を見て言いよどむ。


「僕の事は気にするな。

 盗賊は何人だっ怪我人は、死者はっ」

「わからん、あいつ等は突然火を放って逃げる奴を切っている。

 恐らく村人はもう、ほぼ全滅です……。

 それと賊は東のほうからだ、俺達家族は床下に隠れてなんとか。

 隙を見て何とか逃げ出し村長に伝えに。

 ヴェル、フローレンスを連れて逃げろ。俺は妹が心配だ戻るっ」


 叫ぶように言うと乗ってきた馬にまたがり坂道を下って行く。

 僕と村長は頷き、慌てて夫人とフローレンスお嬢様を起す事にした。

 フローレンスお嬢様が寝ている寝室の扉を激しく叩く、中から盛大な音が聞こえたかと思うと直ぐに開いた。


「何よ――まだ真っ暗じゃないのよ」

「直ぐにこっちに」


 寝ぼけ眼の顔をみて安心すると、直ぐに手を引っ張り廊下にだす。横では村長も夫人を廊下に出した所だ。

 全員の顔を確認すると村長が大きな声で喋りだす。


「いいか。二人ともよく聞け。

 村に盗賊が押し込んだ、六年前とは違い村には騎士は居ない。

 ワシとお前は東のロザンへ。フローレンスとヴェルは北西のタチアナの町へ逃げ救援を頼む。少ないが路銀を渡してお――」


 村長が喋り終わる前に玄関の扉が破られた。

 直ぐに押し込んでくる盗賊団、僕等は必死になって裏口へ逃げたのだが……。


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