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34 メリーアンヌさんの、意味深な言葉

 何度も寝返りをうって目が覚める。

 一瞬自分が何処にいるかわからない錯覚に陥ったが、昨日から城に居るんだとと思い出すと納得した。


 昨日は野宿。

 その前は簡易宿。

 さらに前は野宿などで、毎日寝ている場所が安定しない。

 

 マリエル達は元気だろうか、と思い小さく笑う。

 聖騎士と一般人ではもう会う事はないだろうし、昨夜から気にしすぎる。

 それもこれも、過去が変えれたかもって話を聞いたからだ。

 

 僕にとって二人目の自分勝手な女性。

 こっちの話を全然聞かずに近くに寄って来ては距離を詰める。

 とても迷惑だったけど……、好きだった。

 僕はもう手に入らなくなってから後悔するタイプらしい。

 思えばフローレンスお嬢様の時もそうだった。


 彼女の性格なら、きっとどこへでも元気にやっていくだろう。

 もう接点が無くなった、マリエルも解っていたからこそあの夜があったのかもしれない。


「ダメだな。

 一人でいると変な事ばかり考えてしまう」


 ベッドへ腰掛け頭を切り替える。

 これからは自分の為に生きて行かないといけないからだ。

 水差しから水を飲み、喉の渇きを潤す。

 改めて自分の荷物も確認する、何も持っていなくて逆に驚いた。


 服は借り物であるし、まぁこれは恐らく貰えるだろうと算段する。

 旅用の鞄と、お見舞金のお金が少し。


「良くここまでこれたな」


 自分自身の危機管理のなさに肩を落とすと、部屋にノックの音が響く。

 返事が遅れると、再度丁重なノックの後に僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 慌てて僕は扉を開けると、全身に鎧を着た兵士が二人。

 さらに、豪華な毛皮のコートを着た中年の男性が僕をにらみ付けていた。


「ふん、お前が村を焼き滅ぼされた生き残りかっ。

 態々王宮に金をせびりにきやがって、なんで浅ましいんだ

 村と一緒に死んでいればいいものを」


 理解に時間がかかる。

 あさましい? 僕が? いやちょっと、来いと言われたから来ただけで。

 僕に聞こえるように喋ると、大小様々な指輪が付けられた指で隣の兵士へと命令した。


「でろっ」

「えーっと、僕は別にせびりに来たわけじゃなくてで――」

「ああ、うるさいっ。

 喋るなゴミがっ、直々に金を払ってやるんだ。

 受け取ったら消えろっ」


 僕の話を聞かないで先に歩く中年の男性。

 無言の兵士僕の肩を軽く指先で叩くと軽く礼をしてくれた。

 中年の兵士で無言であるけど、心中お察ししますと訴えているようなきがする。

 反論して、騒ぎを起こすよりはいいか。


 長い階段や短い廊下、更には上や下へと歩かされて大きな扉の前に立たされる。

 先に歩いていた中年の男性は既に居なく、兵士が黙ってその大扉を開けた。

 赤絨毯が引かれた大広間へと繋がっていた。


 左右には甲冑を来た兵士と、腕に篭手を付けた軽装な兵士が並んでいる。

 奥には段差がありその上に豪華な椅子があり、一人の女性が座っているのが体系から解った。


 顔にはベールがかけられており表情はわからない。

 その段差から数段したの隣には、先ほど僕をゴミ呼ばわりした中年の男性の顔が見えた。

 ヘラヘラと笑い、段上の上の女性に何かを言っている。

 流石に僕でもわかる。

 あの方が、王都を納める人であるだろう。


「えーでは、わたくし。

 マイボル大臣から報告します」


 僕をゴミ呼ばわりした中年の男性が大臣というのがわかった。

 

「村が無くなり唯一生き延びてくれたヴェル。

 中央へ行き片方の膝を付き背を丸め下を向くように」


 初対面の時と百八十度対応が違う。

 言われたとおりに動き、中央で止まり方膝を付いて下を向く。

 辺りがざわつくのか空気でわかった。

 マイボル大臣が慌てて喋る。


「陛下、勝手に動かれてはっ」

「いいのです。

 生き残った子に祝福のまじないです、下がりなさい」

「しかし」

「命令です」


 女性のリンとした声が響く。

 この部屋の空気がピリっとしたのに変った。

 顔を上げる事が出来ないので僕は黙ったまま時過ぎるのをまつ。

 床を見ている視線に、白いヒールがみえた。

 ゆっくりと僕の体に覆い被さる陛下、いや女王。

 甘い匂いと共に、珈琲の匂いが鼻に流れ込んだ。


「ほら、ヴェルさん。

 また会いましたね」

「――っ」

 

 思わず叫びそうになる。

 聞き覚えのある声、メリーアンヌさんの声で合ったからだ。


「騙すようで御免なさいねー。

 ああでもしないとヴェルさんとお話するきかいなんてないんですもの。

 そうそうあの黒篭手は宝物庫の下の物置に保管してあります」

「何故、僕に」


 何故僕にその情報を伝えるんですか、と意味を短く伝えた。

 意味を汲み取ったメリーアンヌ女王は小さく僕に喋った。


「女王としての感です。

 ヴェルさんは戻りたい過去があるといいました。

 もちろん、わたくしもありますが、わたくしには遅すぎましたので」 

 

 メリーアンヌさんは、僕の頭の上で祈りを捧げた。

 僕の体から離れるとメリーアンヌさん、いや女王は席へと戻った。

 直ぐにマイボル大臣が大きな声で、謁見の終了を宣言した。

 外に出される形で廊下へと出る。

 背後で兵士が大扉を閉める音が聞こえた。

 来た時は違う兵士が道案内をし城の外へと出された。


 最後の門の詰め所で待ってなさいと兵士に言われ、言われた通りに詰め所で待機する。

 城の中の兵士と違い詰め所の兵士は明るく、僕を丁重に持て成してくれた。


 老兵士が僕の顔を覚えており、昨日聖騎士と共に来た人物と回りに紹介し始めた。

 若い兵士や中年の兵士は僕の境遇を少し知っていて、襲われた村の生き残りである事を回りに喋り始めた。


 その言葉に感動する兵士まで居て僕は逆に困惑し始める。

 さらに女王陛下から見舞金を贈与されたと聞いてよかったなと、涙汲む者まで居た。


 暫くすると、舞金と名目の袋をもつ兵士が現れた。

 周りの空気が険悪になるのが感じられた。

 誰も何も話さす、見舞金をもった兵士は僕の座っている前のテーブルに無言で立つと、小さな皮袋を見せ付ける。

 他の兵士の目を気にせずに皮ひもを解き袋を逆さにした。


 当然テーブルの上に金貨や宝石が散らばり、僕よりも周りの兵士が慌ててこぼれた金貨、宝石を拾い集める。


「なっ!」

「銀貨五十枚、金貨五十枚、金貨二百枚相当に換金できる宝石が七個以上だ。

 後で足りないとう言われても困るんでな。

 数が足りなければ、此処の門しか守れない兵士が隠したと思え。

 女王陛下からのご好意で南通りの宿ミッセルに宿泊をプレゼントされた。

 これが証明書だ。

 何処へでも好きな所へ行け、わかったのならさっさと金を拾って城から出るんだな」


 言うだけ言うと消えていく兵士。

 詰め所の責任者らしき年配の兵士が僕に謝る。


「すまんの。

 兵士といってもワシらみたいな奴と、それを見下す奴らがおって。

 おい、おめえらしっかり集めろ」


 他の兵士がわかってますっと、元気な声をあげ散らばったお金をかき集めてくれた。

 兵士といっても一枚岩ではないのが感じられた。

 あの大臣も僕を見下していた、一方知り合った聖騎士達は良くしてくれた。

 僕が何度もお礼として、少しばかりの金貨を置いていこうとすると首を大きく振りそれを拒む兵士達。

 安月給であるが、仕事だからな町で見かけたら酒でも奢ってくれと、断れた。

 

 大きく頭を下げ別れる。

 橋を渡った所で前方から馬が走ってくるのが見えた。

 僕は慌てて横に避けるも、馬上の兵士は僕が見えてないのか真っ直ぐに城へと向かったのを後ろから確認した。

 先ほどの門兵達が近くにより、身分を確認している。

 直ぐに門が開かれ馬がその奥に消えていったのが見えた。


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