30 男二人の道中もよう
マリエル達、第七部隊と別れてから既に数日が過ぎた。
聖騎士第三部隊隊員サンという少年に連れられて、徒歩で王都を目指している。
サンは馬を引いている。
馬には数日分の食料や日用品を積んでおり、座るスペースは一人分である。
でも今は誰も乗っては居ない。
第三部隊が正式に請け負った任務じゃなく、予算が出なかったらしい。
馬も第三部隊の馬で、他の馬は手配が出来なかったと。
それは別に気にしない。
で、僕が乗りサンは走ると言い出した。
自分だけ馬なのは悪い。
前と違って今回は荷物があり二人一緒には乗れない。
僕としても、できれば男性二人で一緒の馬には乗りたくないかなーと、思うのもある。
結局王都まで少し時間はかかるけど、二人とも乗らないという事で決定した。
「所で……本当に何も無かったんですっ?」
馬を挟んで僕の横を歩いているサンは、目を輝かせて聞いてくる。
一日一回は同じ質問をしてくる。
「何度も言うように、無いよ」
僕としてはこれしか、応えようが無い。
あの日、疲れもあり直ぐにベッドへ体を預けた。
ベッドに誰かか座った音で目が覚める。
上半身を起こし、その影を確認した。
窓から入る光とうっすらと匂う甘い香り、マリエルだった。
酔っているのかと思ったけど、そういう感じではない。
驚く僕に、マリエルは人差し指で静かにとジェスジャーする。
耳元へ口をつけ、いくつかの言葉をささやくと僕の反応を待っていた。
『ごめん、今日だけでも好きって言ってくれるかな……。
もし嫌いだったら後ろをむいて……』
ファーが言った聖騎士の話を思い出す。
つまりはそういう事なんだろう。
僕はマリエルを抱きしめる。
嫌いではない、マリエルこそ僕でいいの? と聞く。
今思うと、僕は酔っていたのかもしれない。
馬鹿ね、ヴェルがいいのよと、返ってきた。
僕の頭の中にフローレンスお嬢様の顔が浮かぶ。
まったくしょうがないわねと、言っているようだ。
いや、僕の勝手な思い込みだし、マリエルとフローレンスお嬢様を重ねるのはどちらにも悪い。
そう考えいたら、現実のほうでマリエルが重なってきた。
後は、結局二人とも色々あって疲れて寝てしまった。
迎えに来たサンは、上半身裸の二人の僕ら見て大声で叫ぶ、その騒ぎで、ファーが部屋に飛び込んで笑顔で微笑む。
直ぐに窓を開けて空気を入れ替えるあたり、さすがとしか……。
他にも様子を見に来たミントが他の人に伝えてくるのだーと廊下を走り、走ってきたナナは剣を振りかざし、アデーレとチナに止められる。
騒いだ結果、酒に酔ったマリエルが部屋を間違えたという事で。
実際に、小さいテーブルの上には、僕が空けた酒ビンが置いてある。
マリエルは、僕からそれを貰い飲んだという事にして皆に釈明した。
で、自分の部屋と間違えて、酒のせいで暑くなり、ヴェルに気付かずに衣服を脱いで寝てしまった。
順番もおかしいようなきもするけど、そう落ち着いた。
サンは、その色々の部分が気になるのか一日一回はこうして聞いてくるのだ。
サンが同じ質問をしてくる理由もわかる。
例え、例えだ。
何かがあっても、表向きは無いと、答えるのが一番いい答えと思う。
日がかなり傾いてきた。
「サン、次の休憩地点はまだ遠いのかい」
「えっまさかヴェルさん、もう疲れたんですかっ。
やっぱりあの夜に……」
「あのね、これだよ、これ」
僕は空になった水袋をサンに見せた。
それに、あの夜から何日たったと思ってるんだ……。
「サンが水を全部飲んだから、馬や僕の分がないんだけど」
とりあえず、僕自身は平気であるが、馬のほうはそうでもない。
馬の鼻息は荒く、成るべく早めに休息させたほうが良さそうに見える。
「失礼しました。
もう直ぐつきます」
篭手を見せて敬礼をする。
「サン。『もうすぐ付きます』ってもうそれ、さっきも聞いたんだけど」
「そうでしたか? 休憩所っはどこかなー。
いやー今日も暑いですねー」
そこまで暑くもない。
「しかし、いい人そうで、よかったです。
プッケルさんから自分に特別任務を聞かされた時は、少し緊張しましたよ」
「なんで?」
「いえ、女性ばかりなのに、その強さは聖騎士隊の中でも屈指と噂されている第七部隊。その人達の任務を引き継ぐのです、万が一我ままで凶暴な人だったらどうしようかと思っていました」
「僕はちょっとわけありの一般人だよ、サン達聖騎士が本気を出されたら手も足もでない。
実際にミントにコテンパンにされたし」
「ななななななななっ!」
急に大声を出すので、馬が驚いている。
僕はそっと馬の首を優しく撫でる。
「馬が驚く」
「すみません。
いえ、ミントというのは第七部隊のミント副隊長の事ですかっ?」
他のミントがいれば、会って見たい。
「そうだね」
「ちょっと変わっただけじゃありませんっ。
ミント副隊長と手合わせが出来るとは、命があるだけ凄いと。
いえ、それよりも訓練って事は剣と剣をぶつけたんですよね。
色々とかわってもらいたいです」
村を滅ぼされて、好きだったかもしれない女性を殺され、変な篭手に魅入られて連れまわされ、それでいいならと言いそうになる。
でも、サンの顔を見ていると純粋そうな目で僕を見ているって事は、何も考えてなさそうだし、僕もそこまでひねくれても居ない。
たぶん……。
「サン」
「なんでしょう」
「君って、噂話とか好きそうだね」
「同僚からは、ほどほどにしとけよと言われるんですけどねー。
わかりますか?」
「とっても」
「おおっと、宿泊所が見えてきましたよ」
サンの言うとおり、遠くには薄っすらと小さい建物らしきものが見えた。
木が数本立っておりその下にあるのが休憩所だろう。
歩くとしてもまだ暫くはかかりそう。
僕は馬の首をもう一度優しくなでる。
サンは馬の手綱を引っ張り急いで走りだした。
僕も手綱を持っているのを忘れているのか、力が強く半ば引きずられながら僕は後に付いていった。
休憩所までノンストップで走る。
やっと止まった……
「あれヴェルさん、そんなに息を切らせて喉渇いてました?」
「…………これはサンに引っ張られて走ったからだよ」
「これは失礼しましたっ。
しかし、ヴェルさんも離せばいいのに」
「今度からそうするよ……」
王都に連れて行く人間を置いて行ってどうするんだと思うも、篭手を見せ敬礼するサに怒る気もうせる。
木陰に馬を引っ張り、水を飲ませる僕。
サンは店主と談笑し必要な物を買い付けているらしい、商品に指をさしては両手を合わせ値切っているのがわかる。
聖騎士といえと随分庶民的なんだなと、行動して感じた。
それからも昼は歩き、夜は寝袋か宿泊所で寝る、朝が来ると再び歩く。
この数日行動してわかった事。
噂話好きなサンは、僕から問わなくても色々と教えてくれた。
王都の流行や食べ物。
聖騎士は一般市民からは慕われているが、国の一部内部からは嫌われている事。
聖騎士の中でも力が無く、聖騎士という名を金で買った奴がいると比喩されている事などまでも……。




