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20 狭いテントで男女が三人

 世界規模で言えば、人が増えると町が出来る。

 当たり前と言えば当たり前だ。

 第一条件は便利な所、その便利というのは用途によって違うけど。

 水場が近い、平地が多い、食物が育ちやすいなど。

 そうなると、限られた場所になるわけで。

 フェイシモ村だって川が近くにあり、水に困った事はない。

 マリエルからは次の町までは、かなり遠いと言っていた。

 

 じゃぁ、食べ物などはどうするか? と言うと、街道沿いにお店があった。

 旅人に向けて、最低限の物をかなり高い値段で売っていた。

 彼ら商人を守るのも聖騎士の務めらしい。

 

 タチアナの町を出発して早二日。

 立ち寄った休憩所の主人が、この山々を越えるまで次の休憩所はないよと、教えてくれた。

 聖騎士様たちには要らない情報でしたかなと、一声付いていた。

 マリエルやファーは、愛想よく笑顔で答え主人から高い飲み水を買っている。

 その一つを僕に手渡してくれた。

 代金を払おうとしたけと手持ちがない。

 その事を伝えると、オゴリよと、背中を叩かれた。

 ちょっと理不尽に叩かれたような。

 

 貰った水を飲んでいると、店主がそっと、マリエルに何かを話した。

 マリエルは話を聞き終わった後に感謝の礼を述べていた。 


「ん、ありがと。

 情報を感謝する」

「いえいえ、何時もごひいきに。

 いえね、どうしても悪く言う人間は居ますけど、全力で守ろうとしてくれてますので、あっしらも商売が出来るって事ですし」


 マリエルは、直ぐにファーの所へ歩いていった。

 部外者の僕は、聞かないほうがいいだろう。  

 隊から離れた場所にある大きな木、その木へ背中をつけた。

 ここなら話し声は聞こえないし、だからと言って僕が逃げるとも思われたくない丁度良さそうな距離だ。

 マリエルが僕の所へ小走りに走ってきた。


「ヴェル、格好つけている所わるいけど」

「ぶほっげほっ」


 突然の言葉で思わず咳き込む。

 マリエルを見ると、嫌味など言っているわけじゃなく、本気でそう思っていた顔なのがわかる。


「別に格好つけていたわけじゃありません。

 部外者の僕は、重要な話は聞かないようにと思ってです」

「なんだ、そうだったの。

 私はよく回りの皆から離れて一人、格好つけたりもするんだけど。

 ヴェルも、その類かと思って、ごめん」

「いえ、いいです。

 所で――」


 何のようですか? と聞こうとすると、既にマリエルは話し出していた。


「そうそう。

 ファーがね店主に変わった事が無いか、と聞いた所。

 最近この付近で、行方不明者が出ているらしいのよ。

 念のために西の山へと入りたいの、悪いけど馬は置いていって、徒歩で山道行ってもいいかな。

 一応部隊を別けるって案もあるんだけど、例のハグレの場合別けると危険なのよね」


 いいも悪いも、僕に何かを言う資格はない。

 もちろんいいですよと、答えを返した。

 馬は小さな商店の親父に預けた。

 商人仲間が品物を補充しに来るので、その時に次の町へ送るらしい。

 行方不明者が多くいると噂されている西ルートに決まったのだ。


 獣道に近い山道を歩く。

 先頭から二番目に歩くマリエルが、僕に話しかけた。


「以前来た時は、そんな話聞かなかったんだけどね」

「そうなんですか?」

「とはいえ、こっちに来たのは半年以上前だから」


 マリエルの言葉が終わると、隊の後ろから誰か走ってくる。


「たいちょー。

 とまってとまってっなのだ!」


 ミントだ。

 一番前で警戒しながら歩いているファーも止まる。


「ミント、せめてもう少し小さい声で隊を止めなさいね」

「ごめんなのだ」

「まぁまぁ、ファーも怒らない」

「別に――――」

「で、ミントどうしたの?」


 怒りの行き先失ったファーは、ため息をして深呼吸している。

 気苦労が絶えなさそうだ。


「こーちゃんが、変な足跡見つけたって」


 二人が息を飲むのがわかった。

 ミントがこーちゃんと、いうのは……。

 なるほど、僕の体を診察してくれたコーネリアだ。

 その横では、同じ背格好の女性がマリエルに対して大きく手を振っている。

 

「じゃ、見に行きましょうか」


 僕はマリエルを見送る。

 直ぐに止まって振り返る。


「ヴェル、道が変わったらあなたの位置も変わるんだし、一緒に来ないと」

「ご、ごめん」


 慌ててついていく。

 コーネリアの隣にいる隊員が、なぜか僕をにらんでいるような気がする。

 ん、にらんでるな、目線を合わせないほうがいいだろう。

 僕も、コーネリアが見つけたと言う不自然な場所を見た。

 草むらの後ろから何かを引きずった跡がある、その跡が急に無くなっていた。


「人……かしら」

「人でしょうね」


 マリエルの呟きに、ファーが答えた。

 僕もそう思う。

 でも余計な事は言わないようにした。

 そう思った時、僕の体がゾクッと震えた。

 

 僕は反射的に体を起こし一歩下がる。

 周りを確認すると、マリエルにファー、ミントやナチと呼ばれていた隊員達が険しい顔で同じく辺り警戒していた。

 それぞれ何時でも戦闘できるような構えだ。

 他の隊員は、マリエル達から遅れて構えを始める。


「消えましたね」

「消えたわ」

「消えたなのだ……」


 ファーが、何度目かのため息を吐くと、他の隊員も戦闘体勢を解いた。

 さっきの気配は殺気だ。

 盗賊時代に、面白半分で何度か殺されそうになった事がある、それと同じ感じがした。

 

「にしても、ヴェル。

 よく気付いたわね……」

「何か視線を感じがしただけです」


 念のためといって、ここからは無駄な会話はしないようにと、伝達されていた。

 薄っすらと、踏み潰された土を探しながらゆっくりと山へと入る。

 その道を探すのに時間がかかり、日がくれ始める。

 木々が邪魔で、暗くなるのが早い。

 少し斜めになっている場所で、僕達は野宿をする事にした。


 隊員の数名がマントのように羽織っているローブを広げる。

 僕が思っているよりも大きく広げられ、はしとはしを繋いでいた。

 巨大な布になると、木々に貼り付ける。

 簡易テントとなった。

 マリエルとファーも、自らのローブを繋ぎ合わせ小さなテントを作り上げた。

 マリエルが先に入り僕を手招きする。


「はいどうぞ」


 どうぞと言われても、僕が入ってもいいのだろうか。

 ファーが、小さく話しかける。


「大丈夫ですよ、それにヴェルさんが中に入らないと、護衛であるマリエル隊長も外になりますし」

「……では、お邪魔します」


 室内は暗く、ファーが腰の持ち物から小型のランプを取り出した。

 三人の影が大きくなりテント内に移っていた。


「凄いですね」

「凄いでしょ。

 防寒、簡易テント、捕縛などなど。

 ローブ一つで色んな事できるのよ」

「マリエル隊長が、凄いわけではないですよ」

「一言多いわよ、ちょっと外見てみて」


 テントとなったローブから顔をだすと辺りは真っ暗だ。

 直ぐに顔を戻す。


「ね、光も、もれにくいのよ」

「凄いですね、これなら――……」

「これなら?」


 思わず、山賊よりも山賊らしいですねと、言う所だった。


「いえ、これなら夜は安全そうですね」

「でしょ、さて外での火起こしは出来ないから、乾燥食で我慢してね」


 もちろん、それぐらいは判っている。

 行方不明者がいる森という事は、事故でもない限りさらった人間がいるのだ。

 外で火を使えばばれるし、昼間の殺気もある。

 乾燥した干し肉や、硬く小さく切り分けられたパンを食べる。

 その間にも数名の隊員達が入れ替わり、マリエルとファーへと現状を報告しに訪れていた。

 そして全員が、同じテントにいる僕に軽く敬礼する。

 マリエルも、ファーもそれに対して何も言わない。

 全ての報告が終わると、マリエルがランプの火を消そうとしていた。


「さて、寝ましょうか」


 マリエルは火を消して、簡易テントの中で寝転ぶ。

 テントの中は真っ暗だ。

 かろうじて影で判断が出来る。

 マリエルが何がゴソゴソとしていた。


「さすがに三人で寝るには狭いわね……。

 ま、いいか。

 ヴェル、胸が当ると思うけど襲ったらだめよ」


 僕は、影となったファーの肩を軽く叩く。

 そして全力で首を横に振る。

 流石にまずいですと、訴えた。

 影となったファーはマリエルを挟んで反対側にいる。 


 これまでは簡易宿泊所だったので小屋の中で雑魚寝である。

 もちろん男女は薄い戸板で別れているし、僕もなるべく離れて寝ていた。

 小さいテントの中だからといって間違いを起すつもりもない。

 ないけど……周りの目というものがある。


 さっきの敬礼もそうだし、マリエルもファーも僕に親切にしてくれる。

 その影響で、他の女性隊員が僕に敬語で話しかけてくる始末である。

 今回のテント決めも、自然にこうなった。


「あれ、二人とも寝ないと明日も朝早くから移動するから辛いだけだよー」


 寝ない僕達に不思議がるマリエル。

 喋ったかと思うと、寝息が聞こえてきた。

 もう一度ファーに訴える。


「そう――ですね。

 寝ましょうかヴェルさん」


 ファーが腕でバツ印を作ったのが見えた。

 考える事を放棄したのだ。

 マリエルの横のスペースに寝そべった。 

 

「あの、私はマリエル隊長と背中合わせになりますので」


 余計な一言を、いうと静かになる。

 恐らく、ファーも色々不味いと思ったのだろう。

 でも、解決策を考えるより、マリエルの支持に従ったほうが早いと判断した結果だ。

 仕方が無く、僕もマリエルに背中を向けて横になる。

 マリエル、狭いからって抱きつかないで欲しい。

 色々と困る。

 

 僕は二人が完全に寝付くまで、息を殺した。

 もういいだろう……。

 幸い、夜でも目は効く方だし、テントの側で起きていたほうがまだましだ。

 音を立てないようにそっとテントから抜け出す。

 その瞬間、手で口を押さえて驚くコーネリアとぶつかりそうになった。 

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