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02 お嬢様の命令

 少し暑いかな。

 空を見ると日が真ん中にある、僕の隣にはフローレンスお嬢様が、嬉しそうに歩いている。

 今のフローレスお嬢様は、髪は一つにまとめ、後頭部で小さなお団子にしていた。

 上半身は薄い生地の長袖、普段のスカートとは違い山に登るのに今は長めのズボン。

 大きな鞄を肩からかけていた。


 僕のほうも軽装で、半袖の服に何時もの布ズボン。

 後はランプに火打ち石、用心の為に腰には硬い木の棒と、短めのナイフを持ってきている。

 フローレンスお嬢様を案内に、僕が護衛という所だろう。


「祭りの祭具を取りに行くだけですよ、何がそんなに嬉しいんですか」

「え、そりゃだって、ヴェルとデー……。

 違う違う違う違うっ! な、なんでもないからっ」

「あの、急に怒らないでください、それよりも道は合っているんでしょうか」

「あ、あってるわ」


 祭具が保管されている場所は、村の極一部の人間しか知らないし、僕は当然知っていない。

 どうしても僕より先に、フローレンスお嬢様が前に行かないと、わからない。

 僕の前を、足取りも軽そうに走っては振り返る。


「ほらほら。ヴェルも早く来なさいっ命令よっ」

「今行きますよ。フローレンスお嬢様」


 命令か――、もう何度も聞きなれた言葉を僕へと発して振り返るのを見ると思わず苦笑する。

 フローレンスお嬢様の口癖であり、それを甘んじる僕。

 僕は過去がある、誰にでもあるような平凡な過去ではなく、僕には両親は居ない。

 いや、両親が居ないだけなら、まだ平凡なほうなのだろう。

 村の水源の一部となっている滝を越え、大きな岩の前で急に立ち止まった。

 

「ええっと……、ママに聞いた話では、このすき間に」


 人目を避けるようにある天然の岩、フローレンスお嬢様が岩を調べ、横にある窪みに手を入れた。

 カチリと音を立てると、岩が動く。

 

「こんな場所にあったのか……」

「そっそ、秘密だかなんだか知らないけど、手が込んでるわよね。

 さっ、ちゃちゃっと終わらせて休憩しましょ。

 お弁当持って来たのよ」

「そうですね……」


 僕に取っては因縁というのか、思わず生返事で返す。


「……ェル、ヴェルってばっ」


 フローレンスお嬢様の声で、意識が戻る。


「すみません、少し考え事を」

「ならいいんだけど、今度はヴェルが先に進んでもらわないと」

「そうですね、準備しますのでお待ちください」 


 洞窟内は外の光が入らない、奥のほうは真っ暗だ。

 僕は火打ち石でランプに灯をつけた。

 薄暗い洞窟の中を歩く。今度は僕が先頭だ。


「こ、怖いわね。こう暗闇から人が襲って来そう」

「来ないと思います、人の気配もしませんし」

「何で言い切れるのよっでも、盗賊団だったら――」


 途中で言葉を止めるフローレンスお嬢様。

 そう、盗賊だったら気配を殺す事ぐらい出来るだろう。

 本来僕は『盗賊団バロン』の一員だった。

 いや、生き残りと言ったほうがいい。


 村には、伝説のお宝がある。

 噂を聞いた盗賊団は、村を襲いに行った、狙いは秘密裏に隠されているという祭具。

 小さな村だ、本来は対抗できる戦力なんてない。

 盗賊団は偶然村に居た騎士一人に壊滅まで追い込まれた。

 唯一生き残った僕はというと、何の事はない。


 アジトである山奥の洞窟で一人『命令』通り、祝賀会用の食事を作っていたからだ。


 騎士と村長達は勿論アジトまで乗り込んで来た。

 そこで、一人で食事を作っている子供の僕を見て驚いたそうな。

 本来は子供であれ、盗賊となれば殺されても文句は言えない、殺さなくても大きな町へ輸送し、それなりの対処をされるのが決まりである。


 しかし何を思ったのが、お人よしの騎士と、これまたお人よしの村長が、相談して引き取るという結果だ。

 結局誰か引き取るかとなった時に、村長と同じくお人好しのマミ夫人が手を上げた。

 何でも同じ年齢の子がいるから是非にと、当然他の村人は反対意見をいう事はない。

 誰だって、盗賊の子は引き取りたくはないだろう。


 当時の僕は『命令』以外動かない子供だったらしく回りは苦労したそうだ。

 たった六年前の事なのにあまり覚えてはいない。


 『命令』がなければ寝る事も、食事も取ろうとしない僕を育てるのは、苦労しただろう。 新しい玩具と勘違いしたフローレンスお嬢様が、ありとあらゆる『命令』を発動して、今に至るわけだ。


「ごめん、ヴェル。

 変な事いってって、あれ、ヴェル笑ってる?」

「いいえ、笑ってませんよ。

 ただ、少し昔を思い出していただけです」

「気を悪くしたかな」

「違います。フローレンスお嬢様には感謝してます、本当です」


 命令の一部を思い出す。

 『めいれいよ、私は村で一番えらい子なんだから、おじょうさまと呼びなさいっ』

 『めいれいよ、ご飯は皆で食べるのがこの家のルールなの』

 『めいれいよ、私の嫌いなものは食べっ、ママいたいー、頭叩かないでー』

 『ヴェル、自分で考えるのが命令』

 『はぁもう、命令よ。苛められたら反撃ぐらいしなさい』

 などなど――。

 理不尽であるような命令も確かに在ったが、感謝している。


 二回ほど曲がると行き止まりなっていた。

 小さな祭壇が見え、後ろから飛び出たフローレンスお嬢様は直ぐそばにある箱を指差す。


「っと、ヴェルあったよーこれじゃない?」


 両手で抱えるほどの箱が祭壇の上へと鎮座している。

 開けては成らない様な異様な雰囲気の黒い色。

 祭具というよりは、呪われて封印してあると言った方がいいかもしれない。


 フローレンスお嬢様は、箱を無造作に開けた。

 あまりにも自然に開けるので止める事すら忘れてしまった。


「おお、すごいっ篭手だっ」

「っ――、お嬢様っ!」

「やだーヴェル何怒ってるのよ。

 取りに行けと言われたけど中身を確認してはいけないと言われてないしー」


 篭手を振り回してはランプでその輝きを眺めてる。

 開けてしまったのはしょうがない。

 何が問題があるとすれば僕からも村長に謝って置こう。

 僕もその篭手を一緒になって眺めた。

 全体に黒く、一切模様も入っていない、筒タイプの篭手である。

 これが盗賊団が狙っていたお宝、売りに出してもいくらにもならないだろう。

 もっとも今になって判る事であるが、別にこの宝がなくても村を壊滅させればそれなりの物は出てくる。

 盗賊団だって馬鹿の集まりじゃない、それなりに勝算はあったのだろうと思う。


「逆に開けていいとも言われてません」

「ヴェル、細かい事いってると、パパみたいにはげるわよ」


 返答に困る。

 使用人の僕の口から、主人である村長の頭を禿げてませんとも言えないし、禿げてますとも言えない。


「聖騎士……のでしょうか?」

「うわ、ヴェルずっこい。

 話題そらしたわね」


 聖騎士、王都を守る先鋭隊。

 彼らは魔道装備と呼ばれる篭手を装備し、人を超える力を持つ部隊と言われている。

 勿論誰でもなれる訳ではない。

 魔力と呼ばれる素質がないとダメらしく、年に三年に一度、王都で希望者を集め試験があるらしい、もっとも合格者の出ない年もあるとか。


 六年前、かの盗賊団を撃退した騎士も似たような物を腕に装着していた。

 彼が聖騎士だったのかは、名乗った名前が偽名だったために誰もわからない。

 でも、村人も僕もそう思っている。

 たった一人で三十人以上の盗賊団を壊滅に追い込んだんだ。


「しかし。色というか、なんというか――」


 禍々しい。

 箱と同じく、祭具というか呪具と言ったほうがいいのだろうか。


「だよねー、お話に出てくる奴は純白や赤などだし、でも黒光りしてかっこよくない。

 こう頬ずりして舐めたくなるような――」

「フローレンスお嬢様。あまりその様な言葉は外では慎んだほうがいいです」

「ほにゃ。なんで」


 目をぱちくりさせて本気で解かってないフローレンスお嬢様に言おうか迷った。

 村の同年代であるクルースや、他の物に聞かせれない言葉だ。

 特にクルーズは、最近お嬢様の犬を自称し、一日でいいから僕と立場を替わってくれと、お願いする始末である。

 なお、一応村長夫妻とフローレンスお嬢様に相談した所。

 マミ夫人は、面白そうよねと、賛成したが、肝心のフローレンスお嬢様は、絶対に嫌っと、言ったので話は立ち消えた。


「まーた、難しい事考えている顔してる」

「…………、してますかね?」

「してるわよ」


 僕としては、してるつもりは無い。

 

「さて、今日の仕事は終わりー。

 帰りましょっ」


 洞窟から外の光が見えた頃、フローレンスお嬢様は光に向かって走り出した。

 転ぶと危ない。

 僕も慌てて追いかけると出入り口所でこちらを振り向く。

 日差しの強い太陽の下で、その祭具を腕に付けたフローレンスお嬢様。

 その様子を僕に見せるように腕を大きく振ると、サイズが合っていない黒い篭手は遠くへ落ちる。


「はぁ、お嬢様。

 あまり物を乱暴にしないほうがいいです」

「えーだって、かっこいいじゃないっ、聖騎士フローレンス参上ってね。

 ちょっと大きいから勝手に飛んで行ったわ」


 自分で飛ばして勝手も何もない。

 口に出さすに離れた所にある篭手を広いあげ汚れを叩き落す。

 少し離れた場所でフローレンスお嬢様が叫ぶ。

 

「そうだ。ヴェル、その篭手を付けてみてよ」

「つけません」

「だってかっこいいじゃない。その王子様みたいで――」


 最後の叫びは消え去りそうな声である。

 箱はフローレンスお嬢様が持っているので、僕は近寄る。

 箱を背にして僕に少し赤い顔しながら期待した顔を見せていた。

 自然と溜息が漏れた。

 われながら甘いとは思う、フローレンスお嬢様に向き直る。


「一度だけですよ」


 篭手を指でなぞると小さな突起した部分があった。

 強く押すと見事に半分に割れる。

 一度装備してフローレンスお嬢様が納得するなら安いものだろう。

 腕に被せてカパっとつけた。

 その瞬間、目の前が真っ暗になり世界の色が反転したかのように見えた

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