16 練習試合
夕飯を食べるために、一階の酒場へと来ている。
テーブルが十近くあり、それぞれに聖騎士である女性隊員達が座っていた。
既に食事は始まっているらしく、料理を取りにいったり食べたりの隊員達が見えた。
当たり前なんだけど、先ほどからチラチラと僕を見てくる。
好機の視線ではあるけど、何かか違うようなきがする。
篭手ではなくて自分の顔を見ていると言うか。
マリエルが開いている席へと僕を座らせると、辺りを見回した。
その拍子に顔を隠す隊員達。
「何かしらね?」
「さぁ……?」
「ま、それだけヴェルが珍しいって事よ」
僕の背中を軽く叩く。
料理持って来るわねと、酒場のカウンターのほうへ向かった。
酒場の入り口が開く、ファーが帰ってきたのだ。
「戻りました、夕飯には間に合ったようですね」
「あ、ファーおかえりー。
ヴェルの所開いてるよー」
マリエルの提案で、ファーは真っ直ぐに僕の座っている席へと座った。
「ヴェルさん、そのフェイシモ村の報告も入っています」
「ちょっと、ファー。
食事前に言わなくても」
マリエルが三人分の食事を持ってきた。
「僕は覚悟してますので、大丈夫です」
食事を食べながらという事で、話を聞く。
ファーの報告によると、やはりフェイシモ村には僕以外の生存者は居なかった。
賊の手かがりというか、丁寧に、盗賊の名を書いた紙が落ちていたと。
村の復興は、近隣に盗賊がいる場合はそれが難しいとも話してくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ、お力になれなくすみません。
それと、残っていた金品なんですが、襲われた人たちに親族が居ない場合は、ヴェルさんが受け取る事も出来ます」
僕は黙って首を振る。
確かにお金は貴重であるが、僕が受け取るのは違う気がする。
「可能ならば、村に行ってくれた人達で分けてもらえると助かります」
「そうですか……。
わかりました、では換金して三割はヴェルさんに。
残った分は、自警団のほうへ回します」
僕達は残りの食事を取り、それぞれの部屋へと戻った。
暗い部屋。
ベッドの位置を確かめると僕は、そのまま倒れこんだ。
翌朝、朝食を取った僕はマリエル達に外に連れて行かれた。
場所はタチアナの町からちょっと外れた広場。
力あわせ。
僕の力が、どれぐらいかを見極めるための戦いである。
朝食事に、希望を募った所、四割ぐらいが手を上げたのだ。
その中でもミントが元気欲手を上げていたので、まずはミントと戦う事になった。
ミントは他の隊員よりも強く、戦闘に関しては一目を置かれているとの事、だからこその副隊長なのだろう。
僕とマリエル、ミントとファーが草も生えてない場所に立っている。
他の隊員達は野次馬として見ていた。
マリエルは地面に大きな円を、剣先で書く。
円の真ん中に横線を引くと、満足した顔で剣をもどした。
「じゃ、ファー説明お願い」
「わかりました。
では、この線の内側での訓練となります。
武器は木剣、どちらもコレは訓練ですので遺恨を残さないようにお願いしますね」
小さく手を上げて僕はファーに質問をする。
「えっと、コレって下手したら、死にますか?」
「ええ、死にます」
僕の疑問をファーが答えてくれた。
ああ、そうだよね。
なんで次から次に。
これは篭手の呪いなんだろうか。
「そんな暗い顔をしないでください。
昨日の回復力を見ても怪我はすれど命までは平気と思います。
それに、本当に危ない時は止めます、それはヴェルさんが暴走しようが同じですよ」
「落ち込んではいませんし、暗い顔は元からです」
ファーが何時もの笑顔で受け答える。
「ファーちゃん、早くっ早くっ」
ミントは僕をコテンパンにする気なのか、ファーに試合の催促をしていた。
はいはいと、言うファーは線の外側にもどった。
僕とミントはそれぞれの陣地中央付近へと下がる。
ピーーーーーーーーーーーーッ!。
一際大きい笛の音が響く。
ミントが突進してくるのがわかる。
酷くゆっくりに見えて、僕の腕を狙ってくるのがわかった。
ガードをしてその攻撃を防ぐ。
瞬間僕は、空を見ていた。
両足両手、それに背中に衝撃が走り、遠くから笛の音が聞こえた。
何故か僕の目には、ミントではなく草花が見える。
考えがまとまる前に、足音が聞こえた。
顔を上げると、倒れている僕の前にマリエルとファーが近くに居た。
「だ、大丈夫ヴェルっ」
「動けますか、ヴェルさん」
心配してくれた声で意識が覚醒する。
ああ、そうか。
はるか先にみえる広場から僕は吹っ飛ばされたのか。
手を軽く動かし、足も動かす。
胸や腰を触ってみると痛みが引いていくのが解った。
「問題ないですね」
「よかった。
じゃぁ実力もわかったし帰りましょうか」
はー……。
動きは見えた、見えたはずなのに対応出来ない。
マリエルの気遣いがちょっと、恥ずかしいきもした。
手を借りて立ち上がると、ファーが申し訳ない顔をし始める。
「申し訳ありませんヴェルさん。
もう少しお付き合いできますでしょうか?」
「は? 何言ってるのよファー。
ヴェルは場外負けよ?」
「ええ、ですが。
回復速度は見た限り、Aクラス以上に見えます。
低いように見えますが、マリエル隊長やミント副隊長がC、ミントがBです。
他の隊員はEやFといった所です。
その、もう少しデーターが欲しいというか……」
副隊長としては、その辺がきになるのか。
少しでも恩返し出来るなら吹き飛ぶぐらいはいいか……。
僕のやる気を見て、マリエルが慌てて止めに入る。
「ちょっと、いくら再生力あったって。
そう何度もミントの攻撃を受けたら、骨折れるわよ」
「大丈夫です、まだ折れてません」
「あのねー」
マリエルが反論してくるが、僕はそっと森から出ると。
遠くから黄色い歓声があがり、ミントも両手をふって合図をしている。
待たせるのも悪いので小走りに線の内側へ戻った。
根拠はないが次はもっと旨くいけるようなきがする。
ファーが真ん中に立ち僕とミントを交互にみて下がる。
笛の音が響いた。
何故か熱くなっていた僕の頭が冷めはじめる。
万が一避けるのはいいけどどうやって攻撃をしかけるんだ。
「ヴェルにい、すきだらけなのだーっ」
目の前で声が聞こえたと思った時。
僕の胸にミントの一撃が入り、またしても僕は森の中へ跳んでいった。
先ほどと同じく、マリエルとファーが近くによってきた。
勝負はどうする? と聞かれたので素直に負けを認める。
二度目の攻撃は先ほどよりも重い。
完全に骨が折れたのがわかった。
何故か凄い眠気が襲ってくるのがわかった。
「すみません。
何故か睡魔が――」
「恐らく自己回復が追いつかなく成っているのでしょう」
「もう、だからやり過ぎだって、ファーもヴェルに無茶をさせすぎ!」
マリエルがファーに怒り出す。
「いえ、僕が望んだのですしマリエルは怒らないで……。
宿に戻って少しねようかと――――」
「いいよヴェル。
私がおぶって宿に連れて行くから」
マリエルにおぶられて宿に行くのは、さすがに恥ずかしい、自力で帰る。
「いえ、自力で――」
戻れますので、そう言えたかどうか解らないまま僕の意識は闇へと落ちた。