13 裸の攻防戦
背中から血を流すミントを抱きしめる。
守ろうとするが、女性の攻撃が止まらない。
「ヴェルにい、大丈夫なのだっ。
少し待って欲しいのだ」
僕の手を払うと、壁際へと走っていった。
大丈夫っていっても、僕の手は血だらけになっている。
ミントを見ると、そこにはオケが並べられていた。
いやな予感がする。
「ヴェルにい、しゃがむのだっ!」
いっ!
壁際にあったオケを次々に僕へのほうへと投げる。
その一つ一つが、背後にいる女性へと向かっていった。
「ほんまぁ、いややわぁ」
特殊な剣をもった女性が、次々にオケを破壊していく。
ミントのほうをみると、投げるオケが無くなり、困り果てている。
口をへの字にして、突進していった。
「ヴェルにいを守るのだっ!」
女性は、体を隠していたタオル外すと、突進してきたミントの頭へ被せた。
森の中で見せて貰った事がある。
突っ込んでくる野生動物の頭を大きな布で隠し、そのまま岩へと突進させる。
すると動物は良くて脳震とう、悪くて絶命。
それの人間版を女性はしてみせた。
ミントを岩のほうへと投げ込む。
大きな音とともに、複数に岩が割れた。
バスタオルでくるまれた頭からは血がにじむ。
いくら聖騎士だからって……、無事ではないだろう。
「ミントっ!」
呼びかけても反応が無い。
僕は女性へと目線を向ける。
「一ついいかな……」
「なんでしゃろうかえ?」
「平和的に行きたいけど、案があるかな?」
「ウチかて争い事は、すきじゃおまへんでえ。
とは言え、ウチの誘いことわったさかいに、ちょっと虫がよすぎとおもいまへん?」
ぐうの音も出ない。
女性は上品に笑い出す。
刀身が薄い特殊な剣は、刀身部分が紙のように丸まり、胸の下へと隠していく。
どうしたらいいのか……。
「本当、ぼうやは面白い子ですえ。
困らせるつもりじゃありませんえ、ついて来てもらえればウチもなにもしませんえ」
「わかった、付いていく」
マリエル達の約束は守れないけど、このまま行くとミントが死ぬ可能性がある。
女性は全裸のまま、僕の横へ立つ。
立つのはいいけど、目のやり場に困る。
胸から下半身まで、ヘビのイレズミがほってあった。
ミントもそうなんだけど、隠す所は隠して欲しい。
興奮はしないけど、気恥ずかしさはある。
「じゃ、いきましょかえ」
腰にタオルを巻いたまま僕は立ち上がる。
ミントはお尻を高くして頭から、いや。全体から白煙が出ていた。
僕の思いを見抜いたのが女性が声で答えを出してくれる。
「ああ、自己修復って奴ですえ。
意識無い時のほうが回復がはやくなるんですうのう」
ありがとうと、僕が言おうと振り返る。
女性は、特殊な剣でミントを攻撃しようとしていた。
「なっ」
とっさに僕は壁となる。
胸に痛みが走り体を貫通したのが嫌でもわかった。
「やくそ――ごふ」
内臓の何処かをやられたのだろう、僕の口が鉄くさい。
悪びれた様子もない女性は驚きの顔をしていた。
「はー、篭手の力ですかえ、ウチの剣より早く動くさかいに。
アレの命まで取る気はないさかい。
けどなぁ、途中で追いかけられても面倒なんでえ、ちょっと傷を増やすだけさかえ」
痛みで顔が苦痛に歪む。
胸の部分からズルズルと剣が動くのがわかる。
「それに、約束というけどなあ。
ウチは攻撃をしないとした覚えはないですえ?」
それはそうだ。
「じゃ、言いなおすよ。
これ以上攻撃しないでくれるかな」
「この状況でですえ?」
女性は真正面から僕に近寄ってくる。
大きな胸を押し付け、右手は僕の胸に刺さっている剣の柄。
その剣をぐいぐいと動かすと、僕に激痛が走る。
残った女性の左手は僕の下半身を隠しているタオルの上にある。
「あら、ぼうやとおもったのに……中々。
まぁええでしょ、ぼうやで気晴らしをするにい」
女性は僕の体を貫通している剣を、一気に引き抜いた。
痛みで意識が飛びそうになる。
地面へ手を付き血を吐くと、剣の刺さった場所が白く煙を出していく。
口から血を吐き続けた。
「さて行きましょうかえ」
女性は僕を手を触り、立ち上がらせようとする。
僕がその手を掴もうとした時、女性は大きく飛び跳ねた。
女性がいた場所には、長剣が刺さっている。
「フランっ!
何処にも行かせませんよ」
叫び声が聞こえると、刺さった長剣を引き抜く手が見えた。
青いローブをなびかせた、ファーランスが立っている。
眼鏡が太陽の光でキラリと光った。
その奥にある瞳は細く、僕には微笑みしか見せなかった彼女の顔は怒りの顔に見えた。
女性の事をフランと呼び捨てにしている。
「あらあらファーランス。
こんな場所までご苦労様え」
「B級ハグレ、フランっ。
抵抗は辞めて……。
いえ、やはり死んでもらいます」
ファーランスが、フランへと走った。
フランもムチのような剣でファーランスの接近を許さない。
「ファーランス、あなたに私を殺せるのかしら?。
ほらほら、ここですよー。
おねしょは直りましたかえ?」
「戯言です!」
ファーの一撃は確かに凄い、床やカベが破壊されていく。
しかし、フランには届かない。
フランはムチのような剣を使うと、ファーランスの顔や腕を切り刻んでいきながら、後ろへと下がっていく。
その度に、白く煙がでて傷を治していくが、段々と治るスピードが遅くなっていく。
若干であるけど、ファーの動きも鈍くなっているように見えた。
「ほらほら、力が切れ掛かってますえ?」
「力?」
僕の呟きを聞いたフランは、説明してくれる。
「この子は小さな傷を直すのにも全力で力を使うさかい、使いすぎると」
フランが僕に喋りながら、ファーとの距離をつめた。
ファーの手から剣を奪うと、その剣で太ももを突き刺した。
ファーはその場に倒れた。
「こうなるさかいに」
「だったら、力がなくなる前にアナタを倒せばいいだけですっ!」
ファーは、太ももに刺さった剣を引き抜こうとしている。
無茶すぎる。
「もう、ファーランスは昔から無茶をするかえ。
そんなに剣を抜きたいなら手伝いってあげましょうかえ」
フランは、ファーに刺さった剣を抜くと、反対の足へと刺した。
痛みが酷いのだろう、それでも悲鳴は上げない。
勝ち誇ったフランは僕を見た。
遠くから、さらに女性の声が聞こえてきた。
この声って……。
「ファー、まってよー。
いくらミントでもヴェルと一緒にお風呂はいるなんて無いからーさー。
って何で壁が壊れてるのっ。
あれ、え……フラン……」
青いマントをローブ代わりにしたマリエルが、壊れた壁から入ってくる。
「マリエル隊長! フランを」
「りょーかいっ!」
マリエルが走る。
フランは走るマリエルを見て微笑む。
「ウチは別に、捕まってもいいんやけど?。
いいのかえ? ウチはヴェルに呼ばれたんやけど」
マリエルの足が止まった。
マリエルもファーも僕を見る。
「「えっ!?」」
僕だけにわかるように、フランは投げキスをする。
次の瞬間、一気に滝のある崖を登っていった。
隙を作って逃げられたのだ。
引っかかったと判ったマリエルとファーは、お互いの顔をみてため息を出す。
壁際から音を立ててミントが立ち上がった。
「ヴェルにいっ!
あれ、たいちょーに、ふぁーちゃん?
みんなでお風呂なのだ?」
血だらけのタオルを握り締めたミントが僕達三人を見てくる。
「ああ、そうね。
そういう事にしておきましょうか」
色々諦めたマリエルが、そう言った。