119 番外 さらに11年後・彼女と彼のバレンタイン・前(2.14日投稿)
「ばれんたいん? どこかで聞いた気がする……」
私こと、ヒバリは月の半分は、私の家に入り浸るヒメヒナさんに聞き返した。
「そう、異国のお祭りさ。
ヒバリも記憶に無いかい?」
「うーん……チョコレートを相手の口に押し込む奴だっけ? 」
「はっはっは、それはそれで面白そうだ。やはり記憶のほうは曖昧らしいな」
記憶。
十歳の頃から見る時おり見る謎の夢だ。
誰も居ない世界で、一人ぼっちで本を読むだけの日常。
時おり大きな水晶版で、動く絵を眺める日々。
先日の十六歳になった頃、思い切ってアデーレさんに相談した。
アデーレさんに相談すると、ヒメヒナ様にご相談したほうがよろしいでしょうと言ってくれた。
正直苦手なのよね……。
何時までも同じ姿の人、本人自ら人じゃないから気にしないで欲しいと軽いし。
何かにつけて私の行動に注目する。
注意するわけでもなく、褒める事もない。
ただ眺めてニヤニヤしている。
他にもパパとママに相談すると、そういうものよとママは言うし、パパはヒメヒナに任せるよと言う。
ここだけ思い出すと冷たいかもしれないけど、私にはわからない秘密もあるんだろう。
そんな二人は今は十六年目のハネムーンの真っ最中だ。
何時も仕事を頑張っている二人に私は旅行をプレゼントした。
アデーレさんも現在は長期休暇を取って貰い家に居ない、最近彼氏が出来たみたいでママと一緒にこっそりと監視している。
っと、それよりも。
「で、本当の内容は?」
「好きな異性にチョコレートを送る日さ。日本の暦とこっちの世界の暦を計算すると今日がその日に当たる。
クロノに渡せば、彼も喜ぶだろう?」
クロノ……?
クロノクロノクロノクロノクロノクロノ――――。
「ばばばばっばばばっばっかじゃない! す、すきな異性に上げるって、お祭りなんでしょ!? アレとはその、あれええっと……お」
「お?」
「お隣、いや幼馴染なだけだし! なんでそこでクロノの名前が出るのよ!?」
「良く遊んでいたいたじゃないか、それにヒバリ、君の能力に付いていける数少ない男だぞ?」
「そ、それは……」
能力。
そう私は生まれつきの魔力もちだ。
他人よりも身体能力がずば抜けて高い、高いからこそ自分が他人と違い泣いた事もある。
あの子と遊ぶと怪我をする。
ヒバリと遊ぶなと親が言うから。
ヒバリはなんでも暴力を振るうから嫌いだ。
暴力なんて振るった事がない。
悪い事をするから友達を叱ったら、私が友達の親から怒られた。
その度にパパが謝りに行って、ママがぶち切れた。
そんな私の前に現れたのは、なよっとした黒髪の男の子だった。
ママが親戚みたいな子よと、何ヶ月が一緒に過ごした。
そこからはお互いの家へと交互に行く関係にまでなったのだ。
最初は本ばかり読んでつまらないって思ったけど。
初めて会った時だって私が無理やり森に連れて行くと、しぶしぶ着いて来た。
帰り道に迷った私に先導して歩く姿はパパにそっくりで憎たらしい。
そして森の中、お腹をすかせた熊に出会い……。
「熊に襲われそうな時に助けて貰ったんだろ? そのお礼を言った事がないって前に言ってたじゃないか」
「そ、それは。それにあれは私一人でも何とかなったし……」
「君は戦場は一人で戦うつもりかい? 仲間がいれば仲間と強力するのが聖騎士の教えだって、マリエルにも言われているだろう?」
「そ、そうなんだけどさー」
私はよくなんでも一人でやろうとして直ぐに、パパやママに怒られる。
怒られる原因は私にあるかもしれないけど、そうクロノが告げ口をいうのがいけない!
ヒバリさんそれは辞めたほうがいいですよ。
ヒバリさんそっちの道は違います。
ヒバリさん、ヴェルおじさんに怒られますよ……。
ヒバリさんヒバリさんヒバリ……! ウガー! そもそもなんで敬語なのよ、同じ歳じゃない!
親しき仲だからこそ礼儀ってなんなのよアイツは。
それに、べ、別に親しいっても……。
「おーい。聞いているか? まったくもう、君はマリエルの駄目な所ばかり似てる」
「あ、そうだ! チョコを手渡すっても午後からフェイシモ村に行く日だし買いに行く暇ないわよ。いやー残念」
ヒメヒナさんは何も無かった空間からラッピングされた箱を出した。
目の前でその技を見ると、思わず唾を飲む。
そして嫌な予感がする。
「それは……?」
「この流れでコレが爆弾にでも見えるなら、一度頭を割って脳を見せて貰おう。
どこかに欠陥があるはずだ。それに、別に私が用意したわけじゃない。
お礼として手渡せばいいと、君の母マリエルと、君が大好きな父ヴェルが用意しておいたものだ」
「卑怯者! 私がパパの名前を出したからって…………出したからって…………」
◇◇◇
私はホロ馬車の中で顔を埋める。
フェイシモ村を通過する移動馬車だ。
現在は男女数名がゆっくりと馬車に揺られている。
自己嫌悪になりそうだ、結局チョコの入った箱を勿体無いからと受け取り、お礼のついでだで渡すだけだから! と受け取った。
どんな顔をして渡せばいいのか……。
チョコよ! 食べなさい!
食べるかな? クロノの事だから理由を知りたがるわよね。
正直に言う? 異性の好きな人に渡す日だから! 食べなさい!
いやいやいやいや。
日頃のお礼、そう、お礼だって言えばいい。
「――――し、もし!」
「ひゃい!?」
「ああ、よかった気づいて貰えた、もしかしてヒバリ様ですか?」
「え? はい、そうですけど……でもなんで?」
「それは失礼。その先ほどから馬車を壊されると手前としては困るわけで……。
申し送れました移動ほろ馬車を経営しているライザンという者です」
私は座っている周りを見た。
無意識に馬車の備品を剥がしては粉々にしていたらしい、木屑が大量に回りに落ちている。
周りの女性は、私の行動に小さく微笑んでる。
「ご、ごめんなさい!!」
「いえいえ、彼方様のご両親には何度も助けられてますので。
もしかしたらって思ったんですよ」
「その、本当ごめんなさい。壊した部分は弁償します……」
私が頭を下げた瞬間馬車が大きく揺れた。
転ばないようにしがみ付くと、馬車の中に火矢が打ち込まれてきた。
とっさにライザンさんを庇った。
背中に痛みが走る。
馬も暴れ私達は外へ放り出された。
敵はどこ!?
こんな事なら武器を持って来ればよかった……。
私は落ちている石を掴むと矢の飛んできたほうに投げまくる。
馬鹿な! この威力、聖騎士がいるぞ!
撤退だ! 西の――――。
馬鹿喋るな、笛を吹け!
狩場を変更するぞ! 足止めを残して――――アジトの人質は殺せ!
高い笛の音が響くと敵の気配が消えていった……。
ライザンさんの声が近くから聞こえた。
「いたたたた……」
「怪我をした人は!? 被害は!? 女性や子供の方は!?」
私は辺りを見回しながら確認する。
襲われた移動馬車は三台。
無事な馬は一頭で怪我人は多数。
「いやー良かった……ヒバリ様が無事で」
私は気づいたら唇を噛んでいた。
何がヒバリ様だ……様をつけられていいような状況か? 私とライザンさん以外怪我人が多い。
「ヒバリ様」
「ヒバリでいいです……何も出来なかった……」
「いえいえ、ヒバリ様はまだ子供です。
大人の我々の責任ですので、それよりも怪我人が多い。
ここからなら手前の町まで戻ったほうが良さそうです、アジトが近いとも言っていましたが危険ですし」
「あの、護衛の持っている剣を貸してください」
「はい?」