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118 番外 彼女達のクリスマス

「くるしみます?」


 僕は家に来ているヒメヒナにそう尋ねた。

 五歳のヒバリと遊んでいた、年齢不詳のヒメヒナは眉を潜め顔を上げる。


「クリスマスと私は言ったんだ。まぁ聞きなれないのもしょうがない。

 ここではない世界の宗教的なお祭りだよ」


 自由国家カーヴェの城。

 その城下町から少し離れた場所にある僕らの家。

 年末が近くなり僕らも数日前に帰って来た、同窓会が終わってからヒメヒナは帝国に帰る前に僕らの家へと泊り込んでいた。


 迷惑なら直ぐに帰るさというヒメヒナだけど、思う所があるのだろう娘のヒバリを良く見てくれる。

 それに迷惑な事は一つも無い。


 ヒバリの体力は底知れずというか、僕の横にはヒバリと遊びつかれたマリエルがぐったりして……、

「お祭り!!!!」

 いなかった。横を向くと少し興奮顔のマリエルがいる。


 いや、疲れきってテーブルに顔をうずくめて寝てたよね?。


「ヒメヒナっどんな祭り!?」


 初対面の時と違い、今では公の場以外はタメ口である。


「どんなと……本当の意味と祭りは別であったが、カップルがプレゼントを交換したり、小さい子にはサンタという人物がプレゼントを配る日だな」

「ママーヒバリも貰える?」

「もちろんよっ」


 なるほど、サンタという人物を設定し、子にプレゼントを配って回る日か……。

 もちろん悪い子には渡さないから子供の教育にもいいんだろう。


「サンタは赤い衣服を着た髭面の爺さんで、空飛ぶトナカイとソリ、誰一人気づかれなく煙突から入り、プレゼントを枕元へ置いて煙突から帰る」

「不審者じゃん」


 マリエルの言葉に想像上の人物だしと、突っ込もうと口を開きかけてやめた。

 ヒバリが信じるなら、それを壊す事も無い。

 ヒバリは抱いていたぬいぐるみをさらに抱く。

 何かを思い出したようにマリエルへと顔を向けた。


「ママ、ヒバリねサンタさん見た事ある!」

「見た事あるって、そう……見間違いじゃないの? アデーレとか」


 彼女なら出来そうだ。

 今は食材を買いに町に出ている。


「あでーれおねえちゃんじゃないもん」

「じゃぁ、ジャッカル?」


 ああ、確かにジャッカルも出来るだろう。

 一緒に居た時にわかったけど、ジャッカルは決して弱くは無いし技術も無いわけじゃない。

 むしろ能力を隠す癖があったし。


「ちがうー」

「ごめんごめんええっと……」


 マリエルが次の名前を探すと、ヒメヒナが間に入る。


「子供のいう事は信じるものだぞ? ヒバリ、それはどこで見たんだい?」

「ええっと……おしろ!」

「ほう、城はどこのだい?」

「かーえっ! きょうみた」


 カーヴェ城……僕はマリエルを見るとマリエルも僕を見ている。


「ヴェル……」

「うん、少し出てくるよ」

「ありがとっ」


 僕らの今の仕事は国を安定させる事。

 王国側も帝国側も突然の合併に不満が出ている。

 そのために国境の真ん中に新しい国を作ったんだけど、まぁ色々な事件が起きる。

 それを秘密裏にこなすのも僕らの仕事って所だ。

 その不審者が本当であれば国王と王妃の耳に入れておくのがいいだろう。


「私が行くかい?」

「いや、ヒメヒナはヒバリと遊んで」


 ヒメヒナの提案を手で断る。


「パパどこいくの?」

「ちょっと仕事」

「ちごととひばりどっちが大事なのっ!」

「…………ヒバリ、その言葉誰に教えてもらった?」


 ヒバリは黙ってヒメヒナとマリエルを交互に指を差す。

 二人に視線を送ると、二人とも顔を背けた。

 はぁー……変な言葉を覚えさせないで欲しい。


「ヒバリが大事だから仕事に行くんだよ。帰りに何か買ってくるよ、何がいい?」

「いらないーパパがいればいちばん!」

「ちょ、ヴェルは私のもーのーでーすー」

「ひばりのーもーのー」


 娘と張り合わないでほしい。


「とりあえず、どっちの物でもないから」

「ああ、まってヴェル」


 なに? と振り向くとマリエルの顔があった。

 僕に唇を重ねてくる。

 一秒。


 二秒。


 …………。


「いや長いってっ!」


 思わず顔を外すと不満そうな顔を僕に向けた。


「いいじゃないの」

「ひばりもーー」


 僕の体に物理的に衝撃が走った。

 ヒバリのボディアタックだ、なんとか持ちこたえると、ヒバリは頬に別れの挨拶をしてくる。

 ヒバリをゆっくりおろすと、ヒメヒナが両手を広げて目を閉じている。

 口元はすぼんでいるし……。

 

 急いで扉からでると「おいおいおい、こんな美少女を放置していくのかい?」と声が聞こえるが無視した。

 途中でアデーレと会い、簡単な説明をして別れた。


 城門前で受付を済ますと城へと入る。

 後は、王と王妃の私室まで歩くだけ。

 いくつかの角を曲がった時、僕の前に赤い服を来た人間の後姿が見えた。


「なっ……サンタ……?」


 思わず声がでた、僕が廊下を曲がるまで気配が無かった。

 その人間は一瞬だけ僕を見た気がした、顔は良く見えないが白い髭を生やして真っ赤な衣服を着ている、そして直ぐに角を曲がって消えた。


 距離はざっと家十件分ぐらいの長さ。僕の足なら間に合う。

 腰に無意識に手をあてたが剣を持ってないの事に気づく、こんな事なら持って来ればよかった。

 僕も角を曲がると赤い服を来た人間の姿がない。


 静まる城内で僕は耳を澄ます。

 上に行けば王と王妃の私室、かすかに聞こえる足音は階段を降りる音。

 下は確か城内訓練所があったはずだ。


 敵が何者かしらないけど……、ここで逃がしたら追いつけないだろう。

 笛を吹くか……いや、人が増えるほど混乱にじょうして逃げられるかも。


 僕は走りながらサンタの後を追う事に決めた。

 アレが敵であれ、王と王妃の暗殺なら上に行くはずだ、それをしないで下に行ったという事は何らかの事情はあるはずだ。


 中央訓練室の扉が開いている。

 

 その中央に赤い服をまとったサンタの後姿があった。

 入ると同時に練習用の剣を壁から取る、そして僕はサンタ目掛けて剣を振るう。

 もちろん、寸止めはする。


 はずだった……。


 その()()()()()()()()男は僕の剣を逆手に持った剣で受け止めた。

 僕の顔を見ると、僕と同じ声で淡々と喋る。


「殺気は抑えたほうがいいな」

「か……おなし……?」

「今はロキだ」



 僕が最も会いたくない人間の一人。

 顔なし、今はロキ。

 もう一人の僕であり、僕の未来というべきが……。

 今はフローレンスお嬢様と結婚しているまでは知ってる。


「ローキー。貰ってきたわ……よ……? え? あ……ヴェル?」


 ああ、背中から会いたくない人間のもう一人の声が聞こえた。

 マリエルと似た性格で、小さい頃から僕の事を好きだと言ってくれた可愛い女性。

 とは言え振り向かないわけにはいかない。 


「フローレンスお嬢様、お久しぶりです」


 ウエーブのかかった長い髪は以前と変わらず、変わったといえば大きなリボンがない。

 会うのは五年ぶりだろう。


「もう、お嬢様って年じゃないわよっ! 相変わらずね。

 村にも手紙一つよこさないけど、その活躍は聞くわよ。

 女聖騎士の黒き鞘って」

「マリエルは聖騎士じゃなくて元だから」

「しってますー。当然といえば当然なんだけど本当彼方達って似てるわよね」

 

 フローレンスの言葉に口を開く。

 似てるも何も、元は同じ人間だったんだから似てるだろう。

 でも、断言する。

 僕はこの男とは似てない。


「「似てない」」

 

 顔なし、いやロキと声がかぶった。

 それを見て、フローレンスお嬢様……フローレンスがお腹を押さえて笑い出す。


「似てるわよっ」


 フローレンスの影から階段を降りてくる音が聞こえた。

 フローレンスの横に立ち、僕とロキを怯えた目で交互にみてくる。


「ちちうえ、その人はだれでしょう?」


 黒髪の小さな子は手に本を持っている。

 背後にいるロキが、

「敵だ」

 と喋った。


 敵って……。

 ロキは練習用の剣を小さな黒髪の小さな子へと向けて投げた、それは黒髪の小さな子の足元へと刺さる。


「クロノ、お前の欲しがっていた本。

 この男に勝ったらプレゼントする」

「ほ、ほんとうですがちちうえ!」

「ああ、サンタは約束を守る」

「え?」


 いや話が良くわからないし……。

 父上って事はフローレンスの子供。それにクロノって。


 いつか聞いたオオヒナの別名を思い出す。


 僕と勝負するって相手はヒバリと同じぐらいの子にみえるし、自分より身長の高い剣なんて……あ、持ち上げた。


 気づいたら防御していた。

 目の前にいる男の子が驚いた顔をしているけど、僕も驚く。


「ちちうえとおなじぐらいつよいひとがいる……」

「そ、それはどうも」


 何度か剣を打ち合い勝負に勝った。

 僕が勝ったとたんに、男の子は泣き出す。

 僕が悪者みたいな流れなんだけど流石に負けない。

 呆気に取られると、フローレンスが近くによると男の子をあやし始めた。


「大丈夫よクロノ、サンタさんは本買ってくれますからねー」

「…………そうだな、検討しよう」

「ほ、ほんとうでずがぢぢうえ」

「買うから泣くな。たっくあの雌狐め、先に王に礼と文句を伝えてくる、クロノ行くぞ」


 ロキは半べその男の子の手を引いて練習場から出て行った。

 残されたのは僕とフローレンスだけだ。


「可愛いでしょ」

「え、ああ……そうだね」


 似るならフローレンスに似て欲しかったとは流石に言えない。


「クロノって言うの、もう少し私に似てくれればよかったんだけど。

 村ではヴェルの子じゃないかって騒がれたわよ」

「げほっげほ」


 思わずむせた。


「今はもうロキの子って皆が認めてるけどね」

「そ、そうよかったよ。所で……なんでここに?」

「先日、ロキの旧友という赤い髪の魔法使いさんが家に来てね、くりすますって風習があるからどうだって。

 わが息子ながらクロノって本が好きで、珍しい本が好きなのよ。

 で、そういう本って高いでしょ、そしたらカーヴェの城にあるのを持って行って大丈夫って」


 あー……それで。


「でね、わたしも断ったのよ。そしたらロキも王なら顔が利くって言い出して。

 王もくりすますってお祭りは知っていたらしく、どうせならロキも着替えろと……」


 なるほど、全て繋がった。

 ロキが雌狐と言っていた意味さえも。

 なんらかの口実をつけてサンタの格好をさせたロキを城下町から見える場所に立たせたのだろう。

 そして、それを知っている雌狐もといヒメヒナは、ヒバリにロキの姿を見せたと……。



 ◇◇◇


 ヒメヒナが優雅に珈琲を飲んでいる。

 反対側にはもう一人珈琲を飲んでいて、その相手はマリエルである。

 アデーレは遊びつかれたヒバリを寝かしつけに行った。

 多分絵本を読んできかせるので、もう少しかかるだろう。


「ヒメヒナ何笑っているの?」

「いやね、さっきのクリスマス。いい子にしていた子にプレゼントを渡すんだ」

「そう言っていたわね」

「君もヴェルも、私から見たら小さい子だ。

 今頃彼や、いや彼達はプレゼントを貰って驚いているかなとおもってね」

「え、ちょっとなにそれ。私にはプレゼントないのっ!?」

「聞いていたかい? いい子にしていた子にプレゼントだよ。

 君は常日頃から私の命令全く聞かないじゃないか……」

「全く思いつかないわね」


 真顔で言うマリエルに、やれやれというとヒメヒナは珈琲を口に含み、小さく笑う。

 どこに閉まっていたのか、上着から箱を取り出すとテーブルへと置いた。


「カステラという奴さ。この国にはまだ伝わってないが、特別に取り寄せた。

 アデーレがもどって来たら食べようじゃないか」

「さっすがっ!」


 マリエルの嬉しそうな声が小さく響いた。


 

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