113 戦乱終結
ヒメヒナを呼び止めて、公園内へと呼び止めた。
僕の言葉を聴いて考え込みはじめた。
「なるほど……、ただの嫌がらせじゃろ」
「は?」
「あの村にはもう然程価値はないよ」
じゃぁなんで! と叫ぶ前にヒメヒナが説明してくれた。
「黒篭手があった場所だからな、何十年も探していたのがあんな近く。
それも、領内ときたもんだ」
「まってまって、帝国が襲ったんでしょ。
襲ったのがそのヒバリ様みたいな」
「帝国も一枚岩じゃないよ。ヒバリの息が掛かった部隊だっている。
と、いうか戦争しかけてるのは、全部その連中だよ。
私みたいな穏健派のつらい事つらい事。
それに、マリエル君。
君だってもがもがもが」
マリエルがヒメヒナの口を押さえた。
聞かれたくない事だったのかな。
思わずマリエルの顔を見ると、閉まったという顔をしている。
「いや、秘密にしていたわけじゃないのよ? そのね。
私も戦争したいわけじゃないし、伝手を頼って回避する方法を考えていたのよ」
一瞬言葉が出なかった。
僕は僕のために動いているのに、マリエルは皆のために既に動いていたから。
「その、僕ばかり自分の事でごめん」
「ほらー、そういうだろうから隠していたのに。
別にそれが普通よ」
もう一度ごめんと謝ると、だからーと怒り出したので、これ以上は辞めた。
ヒメヒナを見ると、若いっていいねと何か頷いている。
「で、なんだっけ」
「フェイシモ村です」
「ああ、そうだったね。で、ただ何もしなかったわけじゃないし、多分無事だよ」
「はい?」
「考えても見たまえ、今は別れはしたけど、顔なし君がこっちに居たんだよ。
いいかい――――」
ヒメヒナは僕らに説明する。
フェイシモ村に黒篭手があるのは、ヒメヒナと顔なしは最初から知っていた。
で、歴史の分岐点になるだろうとした日に村を守ろうと奮闘したりした。
もしかしたら襲われるかもと、既に数人のハグレ、いや能力者を派遣してあるまで。
「じゃ……村は助かる?」
「帝国から行ったのは、恐らく猟兵団。戦闘狂の奴らかな。
こっちからは、ヘビのフランと、オーフェン、まぁ生きていれば顔なしも居るだろう」
「生きていればって引っかかるけど」
「フランは顔なしに個人的恨みがあるからな、重傷にはするだろうが殺しはするかどうか。
ああ見えて、現実主義な所あってな」
助かる……。
村が助かると聞いて力が抜ける。
椅子に倒れこむとマリエルが良かったねと微笑んでくる。
「一応言っておくが、撃退した場合の話だよ? 死者も出るとは思うし怪我が無いなんて事はない」
「わかってる……それでも全員が殺されるわけじゃない。
そういえばヒメヒナは何で公園に。
いや、公園でしていた事じゃなくて、なんで王都に残っているって意味だからね」
変な事を言われる前に先手を打つ。
「そういえば目的を教えてなかった。
長いぞ?」
「……三行で」
「よーし、一行が十万文字にして三行で教えてやろう……いや、冗談だ。
そこまで嫌そうな顔をするな。
師の復活といっても、黒篭手一つで直ぐに復活するわけじゃない。
その時間と場所を調べている」
「何のため?」
「殺すためだ」
壮絶な言葉だ。
「和解は出来ないの?」
そういうのはマリエルだ。
「今回の主犯だよ? 君たちは聖人君主かなにかか?
いや、ヴェル君。
君にいたっては村を滅ぼされた人間で復讐するのに戻ってきたんだろ?。
マリエル君だって、ヴェル君が殺されたから戻って来たんだろ?」
「それはそうなんだけど……」
「僕も、そういわれると」
「私だって別に殺したくは無いよ? でも、それが愚妹の望みなら叶えてやるのが姉の役目だ」
「ヒバリ様の目的……」
「最初は師の復活だけとおもったんだ。
でも、考えると本当にそうなのかなって思ってね。
で、次に考えられるのは死なんだよ。
それじゃ、縁があったらまた会おう、あ、そうそうこの戦争、後数日もすれば終わるよ」
「え、ちょっとっ!」
「ヒナヒメ様っ!?」
僕らの言葉を聞かずにヒメヒナは走っていった。
追いかけようと思った時には既に遠くの方へ消えていた。
「どういう意味だろう……?」
「戦争が終わるって言っていたわよね」
「うん」
「と、とりあえず屋敷へ戻りましょうか。
新しい情報が入ってくるかもしれないし」
屋敷に戻っても新しい情報は入って来てなかった。
頭を冷やした僕を何も言わないで受け止めてくれる仲間達。
少し泣きそうにもなる。
その日は昨夜の疲れもあり昼まで仮眠を取って起きた。
人質を解放したからといって全部が丸く収まったわけじゃない。
王が城に居ない今こそ、横暴な人間を排除する機会だ。
一般市民に変装し町を巡回する。
マリエルはマリエルで元貴族の伝手を頼り仲間を増やしていった。
数日後にはフェイシモ村が一人の死者も出さずに帝国兵を打ち破った情報さえ入ってくる。
そして、もっとも驚く事が起きた。
さらに数日後。
マイボル新王の病死。
ある者は喜び、ある者は嘆く。
もっとも、嘆く人間は賄賂で固められた一部の人間だけであり殆どが歓迎ムードだ。
病死と発表されたけど、帝国へ進行中、帝国領土に入り野営していた所での病死だ。
暗殺と考えるのが普通だろう。
そして、もっと驚いたのが殺されていたはずの王妃が実は生きていた。
元第三部隊の聖騎士が、反逆を行った人間から隠していたと。
同時に、帝国との和平条約が再確認される。
二つの境にあった商業都市カーヴェ。
そこを第三の共同独立都市としての案が出された。
つまりは王国マミレシアと帝国フォルダン、その二つ国がゆくゆくは合併しようという話だ。
驚く事ばかりで追いつかないが、初代王は帝国側からはミニッツ王子、王国側からはファーランス王女。
で、僕はというとアジトから外を見ている。
今は回りにマリエルさえも居ない。
そりゃそうだろう、命令違反で斬首決定していたマリエル以下三名は女王の計らいで、味方すら知られていない特殊任務だった、と城へ手続きへと言った。
第七部隊じゃない僕はこうして留守番だ。
「よう、すけこまし」
「だれが……」
「浮かない顔してるぞ」
「そういうジャッカルは楽しそうだね」
「おう、今までの罪が恩赦って事になりそうだからな。
なに、ゆくゆくは――――」
「後は船に乗り、アトラン地方でもいって可愛い女の子でも買って優雅に暮らすわ。
なに、無一文になったらなったでどうにか成るだろう……でしょ?」
いつか聞いた台詞をそのまま返す。
「あれ? 俺の人生設計お前にいったっけ?」
「聞いたよ」
「おめえもくるか?」
「やめとくよ」
それに、その計画は多分失敗する。
サナエが彼の横にいるだろうし。
「静だな」
「うん……」
元々普通の村人だ。
過去に少し盗賊団に居たからといって今の僕に出来る事はまったくない。
ジャッカルが離れても僕は外の景色を見る、その景色に赤い点が見えた。
もう一度確認すると、やはりヒバリ、ヒメヒナのどちらかだ。
どうする……。
少し考えた結果僕はその人物の後を追いかける事にした。