111 繰り返される予兆
作戦室という名の広場で状況を確認しあう。
アケミとアケミの参謀であるマッシュ組は郊外の施設で人質を無事解放、サナエとジャッカル組も町外れの倉庫から人質を助け出した。
なお、ミントは万が一の事を考えてアジト待機だった。
「どうりで、こっちの人数が多いわけだ」
「……ジャッカルはそう言うけど問題はなかった……」
サナエが、そういうとジャッカルは頭をぽりぽりと掻いた。
アケミの話では郊外にある施設、中身は急ごしらえの処刑場から人質を解放した。
あと数日遅れていたら、人質の半分以上は死んでいたかもしれないと。
マッシュが直ぐに手紙を書くと、マリエルがサインする。
「この手紙を早馬に出しますので、王より先に先行部隊へと情報は行くでしょう」
「あとは現場のファーに任せましょうか」
残った問題点を再確認する。
結局は人質を解放した所で王を何とかしないと国としては終わっている。
それと、ヒバリの事だ。
僕から黒篭手を奪った彼女は、師を復活させて終わりなのだろうか?。
「腕は無くなったけど、それならそれで、まぁしょうがない」
「ヴェルにい、気にしたほうがいいのだ」
「あれ、口に出してた?」
「なのだ……」
ミントが僕の無くなった腕をやさしく触る。
もう訓練できないのだ……というので僕は残った手でやさしく頭をなでる。
「まぁ利き腕じゃないし。訓練ぐらいはするよ」
「なのだ!? 一人留守番で寂しかったのだっ!」
僕の手を引っ張り外に連れて行こうとする。
いや、でも今すぐとは言っていないし。
自主練をするだけで、ミントと訓練するとは、いやそう聞こえてもしょうがないのかな?。
助けを求めようとマリエルを見ると、ほどほどにねと言われた。
結局訓練場へと連れて行かれた。
屋外で庭というよりは、ただの広場。
城の訓練場よりは小さいが十人ぐらいならのびのびと運動が出来そうな場所だ。
練習用の剣をもってミントと対峙する。
「二人とも怪我はないようにねー」
そういうのは二階の窓から応援するマリエルだ。
「ヴェルおまえ、五十もかけてるんだから勝てよ!」
そういうのはジャッカルだ。
連中試合を賭けにしないでほしい。
「ミントが勝つほうにかけてるからねー」
マリエルがミントを応援しだす。
ええ……そこは僕じゃないのか、いや片腕だから僕が不利なんだけどさ。
そう負けを前提に賭けられると、ちょっとだけ意地になりそうだ。
数歩先にいるミントが僕の顔を見て驚く。
「ヴェルにいの顔が、本気になったのだ」
「練習と言っても手を抜いたら悪いと思ってね」
「嬉しいなのだ!」
あれ、もしかしてマリエルって僕にやる気を出させるために?。
考えるまもなく、ミントが一枚のコインを空に飛ばす。
落ちた瞬間からが勝負だ。
見ていたわけじゃないけど、コインが落ちたのが感じられた。
ミントが笑顔で走ってくる。あれ、思ったよりも遅いか。
ミントの持っている剣を弾き、足払いをかける、最後に胸の部分に剣を向けてお終い。
「はい、終わり」
ミントが信じられない者を見てるような顔で僕を見ているけど、そりゃ手加減してきたらそうなるよ。
「……ないのだ……」
「何が?」
「手加減なんてしないのだっ!」
口に出ていたらしい。ミントが少し怒っている。
「ええっと、ごめん」
「別にいいのだ。もう一回、もう一回するのだ」
結局四回やって四回とも僕が勝った、途中でわざと負けようかと思ったけど、気配をさっしたミントに睨まれたので辞めた。
四回目を終えると、ミントは不機嫌じゃなくなり練習をもっとせがんでくる。
「強いのだ! もう一回なのだ」
「いや、さっきもそれ言ったよね。ってか、なんでマリエルも下にいるの」
マリエル、サナエ、アデーレ、ジャッカルが下に降りており、ミントにタオルと水分を渡している。
「副隊長が負けたんじゃ隊長の私が出てくるのが筋じゃないの」
「マリエルちゃん、もう隊長じゃないのだ……」
「ぐ。中々痛い所を」
それではと、アデーレの声が聞こえた。
「隊長はいつまでも隊長です。
以前手合わせした時より強くなっています、私とサナエと二人で行けば一本は取れるかと」
「いやまってまって、なんで戦う流れに」
「まぁ受けてやれヴェル」
僕の背後に来たジャッカルが、肩を叩く。
無精髭のジャッカルが力強く言う、手には帽子を逆さまにもっており中には金貨が入っている。
「それは……なに?」
「お前とあっちのどっちが勝つかの掛け金だ」
悪びれも無く言うんだから、何かもう呆れて文句も出ない。
胴元という奴だろう。
だったら僕にも考えがある。
「七、三」
「何をだ?」
「取り分、ジャッカルが三で僕が七」
「かーーーーーーーーーっ! おめえ金と女には困ってないだろ?。
俺は小さい頃から困って困って、やっとまともに山賊が出来ると思ったら聖騎士に捕らえられて、報酬はもらえどそれでやりくりするのに、必死で。酒でさえ、水を薄めた奴をちびちびと飲むような生活だぞ。ささやかな楽しみも、お前は奪うのか」
「うん」
「かーーーーーーーっ! いいか。金ってのは大事なんだ。
俺だって金が欲しいだけじゃないぞ、内戦。この戦争で皆疲れている。
疲れているときは人間だれでも刺激が欲しいんだ。
お前みたいな美女に囲まれた奴はわからんだろうけど、俺みたいな四十もこえると何をするのにも元気がない。
そこで賭けだ。別にどっちが勝つかとか関係ない、皆疲れているんだ、わかるだろ?」
「七、三」
「…………四、六」
「どっちが六?」
「俺が六」
僕は順番決めをしているマリエル達へと顔を向ける。
「ごめん、流石に今日はつかれもふもふ」
僕の口を塞ぐジャッカル手。
「わかった。俺とお前で半々だ!」
「妥協点、それでいこうか」
「この悪党! 鬼! 守銭奴!」
女声を作って僕をののしるけど、どの口がと思う。
マリエル達に向き直りこっちの意見を言う。
「で。流石に疲れたので一人一回までなら」
「さっすがー。じゃ、アデーレとサナエからね」
物静かな二人が前にでる。
サナエが練習用の短剣を二つもち、アデーレが弓を構える。
マリエルがコインを空に投げようとした瞬間、二階にいたマッシュが大声で叫んだ。
「帝国に動きあり、フェイシモ村という場所が襲われた!」
試合開始のコインは地面に落ちたのに、僕らは動かずにマッシュの顔を見た。