106 増える仲間
元第七部隊聖騎士サナエ。
小柄ながらも双剣を使い、口数は無く余り表情は表に出さない子ってのが僕の中でのイメージだった。
だったというのは、イメージが少し。
いやかなり変わったからだ。
現在はとある屋敷で、これまた大きい部屋に置かれたソファーへ嫌な顔をしつつも座っている。
暖炉を中央に椅子はもう一つあり、もう片方には盗賊団のアケミが満足そうに座っていた。
暖炉の真上には白髪の男性の肖像かが飾られていて、うん、とても絵になるとは思う。
とある屋敷と言うのは、アケミが率いる盗賊団の秘密のアジト。
あの後、ミントが戻ると、僕らは移動した。
目的は、足枷の鎖を取る事。
アジトに着いた僕らは、襲われるかと思ったけど歓迎された。アケミを無傷で連れてきたのもあるし、その姉であるサナエも連れてきたからだ。
僕らはその対面にある豪華ではないけど、しっかりとした椅子でくつろぐ。
もちろん、今の僕の足には既に足かせはない。
二人の前に怪我をした男性が、にやにやしながら膝を付く。
僕が吹き飛ばした男の一人だ。
「気持ち悪い……」
「同感、マッシュきもいよ」
マッシュと呼ばれた男性が、怒られても表情を変えない。
「何をいいますが、グラン様の意志を告ぐ二人が揃ったんです。
それに、サナエ様。
アケミ様はこうみえて、サナエ様を探してましてハグレになったと聞いて毎晩心配してたんですよ」
「ば、ばかっ。変な事を言うんじゃないよっ」
「…………心配しすぎ、家を出た瞬間から、自分は死んだ者と」
それからも、マッシュは二人を褒めて褒めて、さらに褒めて持ち上げる。
「で、クソみたいな聖騎士隊を抜けたって事は、いよいよ王都で旗揚げするんですか?」
「だれか、クソみたいな聖騎士隊よっ!」
マリエルが叫ぶとマッシュは、マリエルを見てサナエとアケミへ向き直る。
「あそこに見えるのはクソみたいな聖騎士の元隊長ですよね。
引き抜いたんですか? さすがサナエ様」
「隊長は隊長、それにまだ聖騎士は辞めてない……協力してほしい」
サナエはマッシュにお願いすると、二つ返事で返事をする。
そして、直ぐにアケミへと向き直った。
「すみません、アケミ様の許可を得る前に頷いてしまいました」
「別にいいしー、どうせ、何してもお姉ちゃんには適いませんしー」
アケミのほうがいじけ始めた。
サナエはアケミへと向き直る。
「それは違う、解散してると思ったのを建て直したのはアケミ。
凄い事……」
サナエに褒められて、顔を赤くしてテレ始めた。
それを見てマッシュがまた喜ぶ。
結局夕方までこんな調子で終わった。
で、サナエの願いで、盗賊団はマリエル達に協力する事が決まった。
久々の美味しい食事と風呂に僕らも堪能する。
僕が風呂から上がると、大きな部屋の中には数人の人間が出たり入ったりしていた。
集めた情報をまとめているのだろう。
マリエルを中心にアデーレ、ミント、サナエが忙しそうにしていた。
僕の姿を見たアデーレがマリエルへと向いた。
「では、私達もお風呂へと入ってこようかと思います」
「そうね、大体は終わったしありがと」
「いいえ、ミント副隊長にサナエいきましょう」
アデーレちゃん、まだ副隊長って言うのだ? と文句を言うミントの手を取り部屋から出て行った。
騒がしかった部屋が突然二人っきりになる。
これって気を使われたって奴かな? 近くにいるマリエルへと挨拶をする。
マリエルもお風呂から上がったのだろう、少し濡れた髪のまま色っぽい。
「さてと、おっかえりー」
「ただいま?」
「さすが、首都の盗賊団ね。
人質の居る場所も候補絞れたわよ」
書かれた書類を見せてくれる。町の大まかな地図に複数の丸印がついていた。
そう、僕らは数日それを調べていた。
それに助け出しても、助けた相手を匿う所なども必要だ。
フローレンスお嬢様に昔読んだお話みたいに、助けました、はい終わり。ですまないのが現実だ。
思わず溜め息をつくと、マリエルも溜め息をつく。
ここ数日全員が余り寝ていない。
「しかし、サナエが盗賊団の孫とは」
「一応知っていたけどね」
「そうなの?」
「ほら腐っても元隊長だし、部下の事知っておかないと背中預けれないじゃない。
でも、知っているのは私とファーぐらいだけどね」
「なるほどね」
「別に協力があれば助かったけど、無くても良かったし。
サナエ自身も色々と迷っていたみたいよ」
部屋の扉が無造作に開かれた。
入ってきたのはジャッカルだ、さっきまで僕と一緒に男風呂へと入っていたので、驚きもしない。
ただ、マリエルのほうから舌打ちが聞こえたのは気のせいにしておこう。
「っと、邪魔だったか?」
「ぜんぜーん。これっぽちもよっ」
「まぁまぁ怒るなよ」
手には酒ビンが握られており珍しい事に僕とマリエルにグラスを手渡す。
「まずは乾杯だ」
「何に対してよ」
「今日も生きた喜びよ」
「まったく……あんまり飲むと、サナエに怒られるわよ」
マリエルの言葉に、ジャッカルは前後を振り返る。
そう、サナエはジャッカルのやる事に対して一々文句を言うのだ。
最初は嫌がらせかと思って、マリエルに相談したら、何所見てるのよ叩かれた。
どうやら、サナエはジャッカルが好きなようだと教えてくれた。
「いねえな」
「ミント達と風呂よ、流石に全員一緒には入れないからね」
「脅かすんじゃねえよ。
で、突入は?」
「マイボル新王が出発し警備が手薄になる四日後の夜。
部隊を三つに分ける予定、はぁいっその事相手が全員ゾンビとかならこっちもやりやすいのに」
助けにいくと言う事は、そこを守っている人間を倒さなければならない。
最悪は殺す、それについての文句だろう。
苦笑すると、二人も笑う。
「では生きてる事に乾杯ね」
僕も軽くグラスを鳴らすと、貰った酒を喉に通す。
喉と胃が熱くなる。
「つ、強いよねこれ」
「そうか?」
ジャッカルは普通の顔をしているけど、マリエルが明らかに顔が赤い。
「マリエル、大丈夫?」
「ひゃい? へいひよっ。
すこし暑いわね」
ジャッカルが、にやっと笑うと、
「暑いなら脱げばいいじゃねーの?」
と言い出す。
マリエルは、それもそうねと言うと、ヘソの部分をめくる。
「手伝うぜ」
ジャッカルが、マリエルの服へと手を伸ばす。
「やーねー、セクハラっていうのよっ!」
マリエルの一撃がジャッカルを襲った。
当然ジャッカルも初手はかわした……、けど連続でくる左手まではかわせなかった。
襟首を掴まれるとそのまま壁へと叩き付けられた。
あまりの轟音に、アケミがマッシュと共に部屋へと入ってきた。
「ちょっと、アタシの家を壊さないでよねっ!」
「やーねー、アレが飛んでいっただけだってー」
アレとは壁の前でぴくぴくしているジャッカルだ。
骨折れて無ければいいけど……。
「うわ、お姉ちゃんに怒られるじゃん。
ヴェルだっけ、あっちの酔っ払いを部屋に連れてってよ。
あのおじさんを治療しておくからさ」
「わーたーしーは、悪くありまーせーんー」
マリエルが少し大きな声で文句を言う。
確実に酔ってるよね。
「悪くないなら壁に穴あかないわよっ!」
「アジトが脆いんじゃないのっ?」
とっと、黙っていたら喧嘩になりそうだ。
僕はマリエルの手を取って作戦室を後にする。
そして…………。