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105 義賊の孫娘

 廃屋の地下室。

 そこに僕と、アケミという少女は正座をしている。

 目の前には椅子に座ったマリエルが氷のような目をして、背後にいるジャッカルが笑いを堪えてお腹を押さえている。

 くっくっくと聞こえるので、堪え切れていない。


「なーんで、ヴェルが少女を連れて帰ってくるのかしら」

「いや、僕にもなぜこうなったのか――――、はい、ごめんなさい」


 

 話は昼前にもどる、王都に潜伏して三日目、僕は複数の少年と少女達に囲まれていた。

 場所はちょっとした路地。

 買い物が終わり廃屋へ戻ろうとした時に、病人が居るから助けてくれと頼まれた。


 路地の奥には少女が居てお腹を押さえている。

 関わりたくもないけど、見捨てる事も出来ないと思って近寄ると出口を封じられた。


「にゃはは、馬鹿が引っかかった」

「あー……」


 少女の手にはナイフがあり背後から、僕の首に手を回すと喉元をペシペシと叩いている。


「一応聞くけどどう言う事かな?」

「にゃはー、どうもこうも無いよぅ。

 その食料と有り金置いていきな」


 周りの男達からは、よっさすが三代目! アケミお嬢様最高っ! など野次が聞こえる。


「なるほど、アケミっていうのですね。

 とりあえず追いはぎ見たいのはやめた方がいいかと」

「にゃにゃにゃ! 気安くアタシの名前を呼ぶんじゃないっ!」


 周りの子分らしき男達がゆっくりと剣を抜く。


「食料が高いのはわかりますし、なんだったら僕の分を渡しますので」


 そう、現在王都は旅人を規制中。

 入るのにも出るのにも許可が要る。

 と、なると当然出てくるのは物価の上昇、昨日まで五ゴールドで買えたパンが二倍になっているなどざらだ。

 それに、いくら商人は許可書で入れるからといっても圧倒的に品物もないし、ここぞとばかりに悪徳商人が増えている。


「にゃはは、アタシは全部置いていけっていってるのっ!」

「仕方がないですよね」

「にゃ?」


 僕は、アケミへ肘うちすると、前をふさいでいる男達へ攻撃を仕掛けた。

 自分でも驚くぐらいにスムーズにいくと、全員が地面へ転がっている。


「じゃ、僕はいきますので」


 一歩路地から出ようとした所で僕は転んだ。

 いつの間にか足に腕輪のようなのが着けれられていた。


「にゃはあはあは、像をも縛る特性の鎖よ、アタシのリングと繋がって……にがさ。

 きゃ、ちょっと動くなっ」


 確かに外れない。

 細い鎖に見え、アケミの腕輪から伸びている。

 直ぐ近くの剣で切ろうと思っても外れなく、引っ張っては動けるけど……。

 周りをみると騒ぎを聞きつけた野次馬がちらほらとみえるし、奥から笛の音も聞こえてくる。

 

 まずい。

 実は指名手配をされている。

 まぁ、門兵を殺しているんだし実はも何も無いんだけど。

 だからそこ、宿にも泊まらず潜伏していたわけで……。

 足にから伸びる鎖を切ろうとしても切れないし、足音は近くに寄ってくる。


「ああもうっ!」


 僕は体勢を直そうとしているアケミを持ち上げる。

 腕の中で、なにやら騒いでいるけどしょうがない。


 少し黙っていてっと言うと、小さく頷いている。

 で、逃げ出したまでは良かったんだけど、結局紐は取れなくて。

 途中で別行動をしていたマリエルと鉢合わせて今に至る。


「本当に町中で何目立つ事を……」

「いや、別に目立とうとかとかじゃなくて」

「目立つに決まってるわよ、路上の真ん中でお姫様抱っこをしながら走っている男性が居れば注目の的っ!」

「ご、ごめん」


 はぁーまったく……と、呟くマリエルにジャッカルがまた笑う。


「ジャッカル切ってくれる?」

「おう、任せておけ」


 腰からナイフを出すと僕のそばによって来る。

 その間にもアケミは文句を言い出す。


「ちょっと! おじさん変な所触らないでよっ!」

「ばーか、乳臭い女触っても嬉しくもなんともねーよ」

「なっ、こう見えてもあるんから!」


 ぷに。

 

 ぷにぷにぷに。


 ジャッカルがアケミの胸を触り複数回揉む。

 一瞬の間があったあとアケミが大声で叫びだす。


「やーだーー! 犯されるううううう!」

「お、こりゃ思ったよりもある……」

「いーやー。助けてグランお爺ちゃあああんんん!」


 その言葉を聴くと、ジャッカルの手が止まった。

 ちょっと驚いた顔になりアケミへと向き直る。


「グランって、鷹のグランか?」


 マリエルが、あーっ! と言うと手を叩く。

 一人わからない僕に説明をしてくれた。

 鷹のグラン。年齢は不詳の老人であり、短い白髪がよく似合い、貴族の家から金品を盗むと貧困層へ配るという義賊と教えてくれた。


 その説明に、アケミは何度も頷き誇り高い顔をしている。

 マリエルは椅子に座りなおすと、でも……と付け加えた。


「義賊でもなんでも、盗みは正当化されないわよ。

 貴族の家から物が盗まれました、はいお終いで終わればいいけど、そのしわ寄せは、そこに勤めている人が受けるのよ?」


 マリエルの言葉に、先ほどまで喜んでいた居たアケミの顔が曇る。

 あ、少し泣きそうだ。

 マリエルが慌ててフォローを入れる。


「まぁ、晩年はそうならないように動いていたみたいだけど……」

「でしょ! でしょ!」

「で、それはいいが嬢ちゃん、鍵を出せ鍵を。

 だめだ、俺の腕じゃこれははずせねえ」


 ジャッカルがお手上げのポーズを取ると、アケミがいよいよ勝ち誇る。


「ふっふーん。外せないんだー。

 アレだけ見えきっていたのに、腕輪の一つも外せないんだー」

「揉むぞ」

「ひぃっ! じょ、冗談よ。

 ねーねー、外したら色々許してくれる? こう見えても、帰りを待つ仲間が多くてさ……」

「子分じゃねーのかよ」

「子分じゃない! 仲間。 おじさん一人だけ歳くってるけど周りの人は仲間なんでしょ?」


 アケミの問いに、ジャッカルがそっぽを向く。

 マリエルを見ると口元を手で隠して笑いそうだ。


「たっく、俺はあのねーちゃん達の子分なんだよ。

 いいか、賊というのに仲間は居ない。

 利用するかされるかだ、変な事考えていると命落とすぞ」


 言葉と裏腹にやっている事が反対のジャッカル。


「ふーん……、まぁいいや。

 助けてくれるならアタシだって何時までも囲まれたくないし。

 今鍵を……」


 アケミはポケットに何度も手を入れてを繰り返す。

 一つのポケットでは飽き足らず、何個もポケットに手を入れては繰り返し、入っている物を出し始めた。

 その一つ一つを見て独自の感想を言うジャッカルさえを無視して鍵を探していた。


 嫌な予感がするし、その予感は直ぐに当たった。


「ごめん、鍵が無いっ!」

「無いってお前。腕ちょんきるか?」

「いーやーだー!」

「泣くな、冗談だ」


 ジャッカルはマリエルへ向くと指示を仰ぐ。

 マリエルもこの状況に疲れた顔になってくる、本当にごめん。


「ヴェルの足を切るってのは?」


 周りが信じられない物を見るような目でマリエルを見ている。


「冗談よ、回復能力でくっつくと思うんだけど、冗談よ、ヴェルもそんな目で見ないでっ」


 恐ろしく冗談に聞こえなかったけど、冗談と言う事にしておこう。

 確かに有効な手ではあるけど、後の事を考えると僕も避けたい。


 鈴の音が聞こえた、アデーレとサナエだろう。

 地下に入る前に隠してある鈴を鳴らすという決まりがある。

 

 アデーレとサナエにマリエルが説明する。

 短くわかりましたというと、サナエの様子がおかしい。

 アケミはサナエの顔を見てから完全に無言で下を向いている。


「なんで、妹がここにっ!」

「お、おねえちゃん。久しぶり」


 アケミの場違いな猫なで声が地下室に響いた。


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