102 それぞれの思惑
僕はテーブルに手をついた。
オオヒナは映像と言っていた動く絵、その中ではマリエル達第七聖騎士部隊がフェイシモ村を襲っていた。
「マリエル達が、フェイシモ村を襲うなんて無い。
襲ってきたのは帝国だ」
「お主の中ではな、いったじゃろある男の記憶じゃと」
オオヒナは手をパンパンと二回ほど叩く。
壁の絵が切り替わり、どこかの酒場にかわった。
目の前に顔を白い仮面で隠した男がいる、大きな剣を持っている、ああ。顔なしだ。
突然現れた顔なしは僕らを、いや……その記憶は知らない。
「顔なし……、いやでも。僕はまだ出会ってないはずだ」
オオヒナは僕の言葉を聞いて満足そうにうなずく。
頷かれても困る。
「そう、今のお主では知らないはずの場面じゃ、帝国からフローレンスを奪回し逃げてる途中じゃったかの。
篭手を使う人間と縁が深いほど前の記憶を持ちやすい、答えを言おう先ほど見せた記憶は顔なし、いや、もう一人のヴェルの記憶と言うべきかの」
顔なしが僕?。
「なんじゃ、余りおどろかんのう」
「十分驚いてるよ、ただ……そういわれると納得する部分もある、でも」
黒篭手は最初に篭手をつけた時代に戻るのであって、僕はそれで、祭り前日に戻った。
僕が死んだ未来、その未来でもマリエルは篭手の力を使って過去に戻ってきた、それはやっぱり、マリエルが最初に篭手をつけた時だ。
好きなように好きな時間には戻れないと聞いた、それに僕本人として年齢差がありすぎるし、世界に二人の人間もおかしい。
それが許されるなら、僕がもう一人居ないといけないし、マリエルだって二人目が居ないとおかしくなる。
「混乱するのもそうじゃろう、わがはいも混乱した。
あるはずの無い記憶が突然に出てきたんだからじゃのう」
オオヒナは僕に説明してくれた。
この世界に戻った時に、別な黒篭手の記憶を混ざったと。
そこでは仮面、いやもう一人の僕の記憶があり、その情報を整理するのに長い間、魔力を貯めていたらしい。
「じゃぁ、顔無しの手元にも黒篭手をいや、オオヒナがいる?」
「居た、というべきじゃろな。
奴は最初に飛ぶ前に、わがはいを殺しておる」
「え、殺したって」
「文字通りの意味じゃ、考えても見ろ、わがはいはこの世界では神のような人物であり、道具を安全に使う管理もかねておる」
オオヒナはこーひーを一口飲むと、溜め息をついて続きを話す。
「この空間でわがはいを殺し、戻る位置を強制的に変えた。
変えた以上、世界のバランスが壊れ同じ人間がいると言う不具合が発生したのじゃ」
「な……なんで」
「一番はさっきの記憶じゃろうな。
村を滅ぼされた復讐じゃろ、あの世界では女王ではなく、その息子の王が居た。
その王が黒篭手の存在を知り村を襲った。
戻った顔無しは、歴史を変えたのじゃ……」
「まった、それじゃこの国に王が居ないって」
オオヒナは静かに頷くと、他には何も言わない。
確か王は若くして死んだと聞いた、そしてその母親が女王として返り咲いた。
「ここからは、また小面倒な話になるんじゃがの、まぁそんなかんじじゃろ。
本来は、もっと複雑で色んな可能性があるはずなんじゃが。
世界線は王が死んだ世界として歴史が固定されたのだろうのう」
いやちょっとまって、もう一人の僕が王を殺して。
王が死んだからファーやマリエルが聖騎士になった……、いやちがうか。
別の歴史でも二人は聖騎士だ。
ええっと……。
「難しい事を考えてもしかたがないだろうに」
「え?」
「今のお主が考える事ではないのじゃ。
ただ、知っておいたほうが良いだろうと教えただけじゃ」
「ど、どうも」
確かに、もう一人の僕の記憶を知ったからと言って……、僕は僕で動く理由はある。
「で、最悪の場合お主は顔無しと戦う事になるじゃろ?」
「…………出きれば戦いたくは無い」
「お主が弱いからのう」
「そういう意味じゃなくて、その話せば何とかならないかな?」
「何とかなるなら、マキシムを殺しはしないじゃろう。恐らくマキシムを殺したのは奴やぞ」
っ……。
飲んでいるこーひーが無くなったのだろう、空間から新しいカップを出すと、オオヒナは口をつけた。
カップをテーブルに置くと僕を見る。
「さて、ここからは、わがはい個人の願いじゃ。
受ける受けないは別として話を聞いてくれ」
――。
――――。
――――――。
話を聞いた僕は、再び剣を握り締める。
別に約束はしなかった、その辺はオオヒナにも止められた。
安請け合いをするのでないと、怒られ。
偶然が重なった時にも適当に頼むと。
「ほう、二激目も受けるか……。
では、こうなったらどうなる?」
接近していたオオヒナの攻撃が止まらない。
どうやったら、この世界でオオヒナを倒す事が出来るんだ……ってか、顔無しはオオヒナをこの世界で殺したと聞いた。
無理でしょっ。
「ほらほらほらほら、手が開いてるぞや」
連続で攻撃が飛んでくる。
必死に受けていたけど剣を飛ばされて、尻餅をつく。
喉元に剣を向けられて試合終了。
「これで百勝目かのう」
「それは、さっきまでの話で。
練習を再開してから十八回目だ」
「……ヴェル、お主、あんがい勝ち負けにこだわるのう……」
「それはオオヒナが言って来るから訂正しただけでっ! 次の試合をしよう、仕切りなおしだ」
オオヒナは僕の言葉に、小さくぷぷぷと笑い出す。
目は慣れてきた。
次は勝つ……いや、少しは持ちこたえるようになりたい。