101 そこにあった現実
「にしても、納得がいかねえ!」
突然叫ぶのは同室の、ジャッカル。
仲間……いや、協力者となった彼と僕は一緒の部屋にいる。
「なんで、俺が部屋に行くと締め出されて、ヴェルお前だったら手招きされるんだ……」
と、いうのも、ジャッカルがアジト等を報告すると報告を終えると部屋から追いだされる。 そして特に用事もない僕はマリエル達の部屋から中々出る事が出来なかったからだ。
その事に対してジャッカルはマリエルに文句をいうと、顔と性格と年齢の差とばっさり切り捨てられた。
「かー……、俺もあと二十年若ければなぁ……」
「ジャッカルは今のままでいいと思うよ」
僕が褒めると、ジャッカルは両手を組み体を震わせる。
「よせ、俺は男になんか興味はないっ!」
「…………一応慰めようと、褒めただけで僕も無い」
「だろうな。さて、ものけの殻になったアジトへ行くか」
「気をつけて」
片手を上げると部屋から出て行った。
なんでも、僕らが来る数日前に下っ端は突然解雇されたらしい。
僅かな金を貰って酒場で飲んでいる所を、マリエルの命令でアデーレが捕まえたという所だった。
今日僕らに出来る事はもう何も無い。
アジトの状況と、王国軍の進軍、帝国との戦争になるのか、女王の安否、他の仲間達の保障などが目標と言う奴だろう。
「しかし僕が帝国に行ったとは……」
ここに来る途中にマリエルが簡単に話してくれた事。
なんだかんだで、帝国で活躍はしたらしい……殺されたけど。
力が無くなった原因は、マリエルも良くわかってなかった、魔力の欠乏じゃないかと。
左腕の黒篭手を触る。
ほんの少しだけ光った気がした。
いや、確実に光っている。
部屋の扉の鍵はかかってる、僕は壁に背を預けゆっくりとまぶたを閉じる。
意識が遠くに行くような感覚に包まれた。
小さい部屋に、両側には本棚。
木製のテーブルに両足を載せたスカート姿のオオヒナが居た。
本とを閉じると片手を上げて口を開く。
「よっ」
「……どうも」
短い挨拶だ。
自分の体を見ると、体の認識は出来ている、近くの椅子へ手をかけると座った。
その頃にはオオヒナはテーブルから足を下ろしていたし、僕の前にこーひーを置いて来た。
「凄い久々なきがするよ」
「ここ最近は魔力温存させていたからのう」
「ええっと……元気?」
「はぁ、お主も相変わらずだのう。
田舎に帰った親戚の子に挨拶するような挨拶でどうする」
どうする、と言われても、僕としてはどうしようもない。
じゃぁ、なんて声をかければ言いか教えてほしいぐらいだ。
一口こーひーを飲むと、オオヒナが両手を叩く。
パンッ。
音が鳴ると僕は石リングの上に居た。
手には持っていたはずのカップは無い。
オオヒナとの距離は相変わらず同じ距離である分混乱する。
もう一度オオヒナが手を叩いた。
オオヒナの腕には黒篭手がはめられており、右手には細身の剣が握られていた。
僕の足元に剣が突然現れる。
「さて、始めるぞ」
「えっ」
オオヒナが僕目掛けて突進してくる。
胸に大きな衝撃が来た、オオヒナの剣が僕の胸を貫いているからだ。
一瞬後れて痛みが来る。
オオヒナが僕から離れると溜め息をついて手を叩く。
傷が無くなり僕は膝を付いたままだった。
「次じゃっ」
見るとオオヒナが片手で剣を構えなおしている。
しなやかに動く初激をぎりぎりでかわすと、直ぐに下から切り上げられた。
僕の左腕が飛ぶ。
あまりの事で転がると、オオヒナが手を叩く。
片腕をなくし転がっていた僕に、切られたはずの片腕が元に戻っている。
「三回目という事かの」
「まった、はなっ」
話を聞いてくれと、言う前にオオヒナが突っ込んでくる。
前に出した手がハムのように切り取られていく。
――。
――――。
――――――。
何度目だろう、数えるのも馬鹿らしくなった時、僕の防御がオオヒナの剣を止めた。
それまで無機質な顔だったオオヒナの顔が少しだけ笑うと力を抜いて後ろに下がった。
「遅い遅い遅い遅い遅いおそすぎるのじゃっ! 防御するまで八十七回も死んでどうするっ。死ぬたびに腕輪の力使ったら八十二回も過去に戻るんじゃぞっ」
「ど、どうするっても……、剣を向けるわけには。
せめて理由を知りたいし……」
それに、強い。
今の防御も偶然に近いと思った。それまでは何とか避けようとしていたけど全部捕まっていたし。
「まぁ、このオオヒナ……。
いやスズメの剣を初手を受け止めた事は褒めてやろう」
「褒めるよりも理由を知りたい……」
オオヒナの手が数回叩かれると、何時もの部屋に戻ってきた。
先ほどの戦いが嘘のように感じる、そもそもこの世界は現実では無いんだけど……。
「そうじゃの、このまま行くとこの国は無くなる」
「それは戦争でという事で?」
「ま、わがはいの記憶を見せたほうがいいかのう」
白い布が壁にかけられると、突然森が見えた。
絵、いや……動いているしこの部分だけ別世界だ。
「こ、これは」
「わがはいの記憶を映像として見せている、現実であり現実ではない、ある篭手をつけた男が体験した過去だ」
あ……フェイシモ村だ。
そう思ったのは村の広場が見え、僕の見知った顔があるからだ。
時間はよるだろう、お祭りに使うお立ち台の横で松明が燃えている。
クルースにその妹サリーの顔も見えた。
アルマ村長が立ち上がるのが見えた。
青いマントの人間に何かを訴えている、音は聞こえてこなかった。
青いマントの人間は首を振る、アルマ村長を切った。
突然の事で頭が追いつかない。
記憶? いや……いつの事だ。
サリーが驚いて立つと、弓が飛んでくる。
他にも数人立ち上がるも、次々に僕が知っている聖騎士達によって切られていく。
アルマ村長が何かを叫ぶ、金髪の聖騎士の足を掴んだ。
フローレンスお嬢様の手が見え、誰かかフローレンスお嬢様と逃げているようだ。
追ってが来ると川へとぶち当たった……。
フローレンスお嬢様は、篭手をつけている僕を川へと突き飛ばした。