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100 捕らわれのおっさん

 商業街カーヴェ。

 広さは首都ぐらいに大きく、昔は帝国との戦いのための砦もかねていたらしい。

 現在も町の東側には門があり特別に許可を受けた人間だけが帝国と王都を行き出来る。


 僕はその町中を歩く。

 大きな宿に入ると階段を登った、五回ノックをすると中から鍵か開く。


「おかえりヴェルっ!」

「……ただいま、ですかね」


 マリエルが出迎えてくれた宿の一室に入った。

 マリエル、アデーレ、ミント、サナエ、僕をいれて五人は大きな家族部屋に昨夜から泊まっていた。

 ただ、今部屋に居るのはマリエル一人。

 他の三人は今は別行動で情報を集めている。


「で、どうだった?」

「僕の見た所では、今の所あまり変わった所はないですね。

 ただ国王代理が、息子のともらい合戦として進撃すると話が盛り上がってます」

「さすがにこの町は情報が早いわね。

 さて、他の三人が戻ってきたら休憩しましょう、夜通し歩くと眠くなるし」


 マリエルは大きなベッドに座り込む。

 僕も近くの椅子に座った。

 

 自分で言うのもなんだけど、僕はそんなに喋るほうではない。

 周りが……特にフローレンスお嬢様が喋るから余計に。

 今もマリエルはベッドに仰向けになり天井を見ている、僕も別に喋る事が無いので、黙ってその様子を眺めていた。


 マリエルが突然起き上がる。


「襲いなさいよっ!!」

「ええっ」


 突然の事で驚きの声しかでない。


「ええっ……じゃないわよっ。

 せーっかく二人きりなのに、部屋には鍵もかけてあるし三人は暫く戻ってこないし。

 これはもう、襲う流れじゃないのよっ」


 そんな流れは聞いたことがない。

 まったくもう……と言いながらマリエルは服を脱ぎだす。

 いやいやいやいやいや。


「まった、もしかして続行するきなんですか?」

「そうよ? 悪い?」

「時と場所を考えてください」

「あーもう、考えた結果が今なのよっ! いつ死ぬかわからないじゃないの、それに今回はもうやり直せないのよ。後悔はしたくないしー……」


 それは僕も同じだ。

 後悔はしたくないから今回は着いてきた。

 色々聞きたいけど、オオヒナはいまだ眠っているらしく反応がない。

 マリエルはベッドの上で膝をかかえていじけはじめた。


「本当に暫く大丈夫なんですよね」

「大丈夫よ、鍵だってかかってるし」


 僕も上半身の服を脱ぐ。

 ムードも何もあった物ではないような気はする。

 まぁでも、フローレンスお嬢様を振ってまで来たんだし……。


 マリエルがベッドに横たわる。

 僕の両手がマリエルの……。


 バン!


「ただいまなの……だ?」


 音をなるほうを見ると、ミントが不思議そうな顔で僕らを見ている。

 その背後には顔に手を当てるサナエと、もごもごと動く麻袋を担いだアデーレ。

 鍵付の扉はミントが破壊したらしい。


「隊長……」

「まざる?」


 アデーレの問いに、とんでもない答えを言う。

 さらに呆れたアデーレが、

「まざりません、それより連れて来ましたので服を着てください」

 と注意しはじめた。


「はいはい。ミント、扉を壊さないように。

 はぁ……今度は鍵は鉄製でもするわ」

「ごめんなのだ……」

「やーねー、そんなに怒ってないわよっ」


 シュンとしたミントはマリエルに言われて扉の直しにかかる、その間に僕とマリエルは下着姿から服を着始めた。

 若干サナエという隊員から、白い目を向けられているのは気のせいにしておこう。


 僕らの準備が終わると、アデーレは担いできた麻袋を床へと置いた。

 乱暴に置くので、中に入ってる人らしき者のうぐうと、言う声が聞こえる。

 サナエが麻袋を切ると中年男性が出てきた。

 口にも布をあてられてまともに喋る事はできなさそうだ。

 マリエルが首で合図をすると、口の布も取る。


「ぷっはー。おいおいおいナンパにしては強引すぎねえか?」

「あら、これでも貴族待遇よ」


 中年の男性、いや……僕にとっても馴染みのある顔。


「あれえ? おめえヴェルか? 俺だ俺――――」

「知ってるよ、盗賊時代に殺人や生き延びるすべを教えてくれたジャッカルだよね」


 僕の言葉に、呆気に取られるジャッカルと、険しい顔をする聖騎士の三人。

 ああ、そういえば僕の過去を現在知っているのはマリエルだけだ……。


「隊長……」

「ヴェルにいは、わるい人なのだ?」

「とうぞく……」


 マリエルが手を複数回叩く。


「はいはい、その話はお終い。

 過去は過去、見事更正して私達につく人間と、更正もしないで、いまだ盗賊家業にいる奴と比べてはいけまーせっん」


 それもそうですねと、アデーレが言ってくれた。

 ミントもうなずき、サナエも何度も頷いている。

 納得いかないのはジャッカルだ。


「おいおいおい、酷くねえか? なんなら俺は酒場で飲んでただけで足を洗ってるぞ?。

 外でいい事しない? って言われて着いて行ったら袋だぞ?」

「町の外れにある秘密の施設……」


 マリエルがぼそって言うと、ジャッカルの勢いが止まる。


「秘密の薬品」

「…………もしかして、その篭手。

 噂の聖騎士団か?」

「あら、知ってくれて嬉しいわ、どんな噂なのかしら」

「まずは、縄を解いてくれ。

 俺を捕まえてきたって事は、俺の力がいるんだろ?」


 この状態でも交渉をするのだから、ジャッカルは素直に凄いと思う。

 その真面目さを盗賊以外で生かせばいいのにと思う。


「たいした性格ね。

 まぁいいわ。どうこう出来るとは思わないしサナエ」

「はーい」


 ジャッカルの縄が切られる。

 あぐらの姿勢になり手足をさすっている、きょろきょろと顔が動くのは場所の特定や逃走ルートの確認か……。


「で、何を知りたいんだ?

 大中小とあって金額もそれぞれ違う」

「そうねぇ……、でも一々取引するのも面倒なので私達と対等の仲間にならない?」

「は?」


 思わず全員の言葉が止まった。

 相手は賊だ。

 殺しもするし、利害が一致すれば協力もするが義によって動く人間では……。

 いや、でも、ジャッカルは僕を助けてくれた事もある。

 でもそれはマリエルが知らないだろうし。


「おもしれえな……。

 生まれて五十年近く、雇う雇われる、裏切る裏切られとあったが……、こう面と向かって対等の仲間にならないかってのは始めてだ」

「別に断ってもいいわよ。

 絶対に彼方の力が居るってわけでもないし、ヴェルが昔受けたらしい恩を返しただけ。

 その代わり、今後私達の前に出る事があれば敵として殺す事もあるぐらい」


 マリエルが僕の顔を見てジャッカルへと振り返る。

 ジャッカルも僕の顔を見た。

 顔を下に向けて小さく笑う。


「仲間ってのは荷が重すぎる、せいぜい協力者でいさせてくれ」


 ジャッカルが手を差し伸べる。

 マリエルがその手に握手をした。

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