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エビデンスベースボール  作者: カラガラ
2/4

#2 バナナを食べる所要時間は?

「…おはよう」

「あら早起きね。今までと比べれば」

「お父さんが出かけるらしいから」

私、戎吉栞。ピッチピチの24歳。ついこの間まで引きこもりニートだったんだけど、プロ野球の監督になった父のお手伝いの仕事をすることになりました。球団職員って響きちょっとカッコイイですよね。

「あれ?お父さんは?」

「散歩に行ったわよ。監督業のために体力付けなきゃって」

我が父ながら見上げた精神である。娘の顔が見てみたいものだ。



「次、サード行くぞ」

「バッチコーイ」

10月も半ばだが、グラウンドはさえぎるものがなく暑そうだ、とベンチで本を読みながら栞は思った。今日は父のなじみの社会人野球チームにお願いして、グラウンドを借りているのだ。

「監督がノック下手だったら示しがつかない」んだそう。確かに三冠王がノック下手でもギャップ萌えはないだろう。まぁ見てる限りはノックも問題なさそうだが。

「何読んでるの?」

「ファッ!?」

突然後ろから話しかけられ驚いた。振り返るとユニフォームを着た青年がいた。ここの社会人チームの選手だろうか?

「…え、えと。翻訳できない世界の言葉、ってやつです」

今日読んでいたのは、エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』(前田まゆみ 訳、創元社)だ。ここ最近のドタバタで活字を読む気力がなかったが、これは絵本なので気軽に読める。

「へー。翻訳できない言葉なんてあるんだ」

「そ、そうみたいですね。ハハハ…」

ヤバい。引きこもり生活のせいでコミュニケーション能力が著しく低下している気がする。しかも相手はスポーツマン、陽キャの固まりだ。

「どんな言葉が書いてあるの?」

「えと…例えばピサンザブラって言葉があるんですけど、日本語で表現すると「バナナを食べるときの所要時間」って意味なんです」

「そんな意味の言葉使うことあるんだー。どれぐらいの時間なんだろ」

「一般では2分くらいとされてるみたいですよ」

「えー。俺なら1分ぐらいで食べれちゃうな」

そりゃあんたいい体してますもんね。そしてめっちゃ話食いついてきますね。

「栞、待たせて悪かったな」

とここでようやく父が戻ってきた。まさに渡りに船といったところか。

「お疲れ様です!」

さっきまで笑顔で喋っていた青年が、真面目な顔で頭を下げていた。

「おう。先にグラウンド使わせてもらってすまなかったな」

「いえ、戎吉さんに使ってもらえるなら本望です!」

「じゃあ、帰るわ」

そう言って父が行こうとするので、私も本を閉じて追いかけた。

「お疲れ様でした!」

また後ろで青年が頭を下げた。やはり父は野球界では大きな存在なのだろう。

「今の人ってここの社会人野球の人?」

「そうだな。しかも今年のドラフトで指名されるかもしれない選手だぞ」

「そうなんだー」

「ところで何を話してたんだ?」

「別に…大したことじゃないよ」

「ならいんだが…」

何だろう?球団の情報が漏れたりするのを警戒しているんだろうか?まだ入ったばっかだし、そんな大事な情報知らないと思うけど。

よっぽど自分のコミュ力のなさの方が大事だ、大ごとだと栞は思った。スポーツ選手ってみんなあんな感じの陽キャなんだろうか?そんな人たちに囲まれて自分は生きていけるのだろうか?

コミュ強になれる本を探そう、と栞は決心した。

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