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バッドエンド

崇拝者の手記

作者: 佐田くじら



*٠*٠*٠*٠*



二十年前。


私は初めて、あの悲哀なる方にお会いした。


あの方は邪気の無い、可愛い幼子だった。


あの方の父上様も、まだ人間だった。



王家というのは、国の犠牲者だ。


しかも、生け贄なんかよりもたちが悪い。


蜃気楼のように美しいあの場所で、あの方はどんな末路を辿るのか。



*٠*٠*٠*٠*



十七年前。


あの方のお母上様が、男と行方をくらました。


あの方は実にお可哀想な顔をしていた。


ただ、ただ、笑っていたのだ。



泣かない幼子ほど可哀想なものはない。


でも、それも仕様がない。


だって、あの方のお父上様が泣いていたのだから。


まさか、まさかその前で泣けるはずもないだろう。


無理もない。誰も悪くない。


あの方の震える唇を見て、自分の決意を決めた。


これから、全てをあの方に尽くそう。



*٠*٠*٠*٠*



十五年前。


あの方は最後の肉親を失った。


あの方の最後の心の支えを。


それでもあの方は笑っていられた。


今度は何も、気兼ねする必要はないのに。



親が死んでさえ笑うあの方を、同僚たちは不気味だ冷淡だと囁いた。


違う。それは違う。


あの方はお父上様に復讐をすることだけが、生きる理由だったのだ。


ところが死なれたことで、あの方は興ざめしてしまったのだ。


あの白けた気持ちで生きていては、きっとそのうち枯れてしまわれるだろう。



誰か、あの方に、情熱を恵んでくださらないか。



*٠*٠*٠*٠*



四年前。


あの方の前に、水晶のような綺麗な眼をもつ女騎士が表れた。


愛嬌のある、気立ての良い娘だった。


あっという間にあの方の護衛にまで上り詰めた彼女は、やはり優秀だ。



その頃からあの方は、とても人間らしくなったように思う。


彼女に影響されたのだろうか。


密かに苦悩し、そして笑われるあの方を見ると、心が焼けるような感覚だ。


この感情、私は知らない。


ただ、とてもありがたいことだとは思う。



あの方に、ひとと生きる心地よさを知ってほしい。



*٠*٠*٠*٠*



二年前。


具合の悪いことを知ってしまった。


私は選択を迫られている。


つくづく、あの方はツキがない。


そう、だからあの方は努力の人なのだ。



思えば、あの方はとっくにこの事をご承知なのだろう。


確かに、思わず笑いたくなるのも無理はない。



初めて、『かみさま』の心を理解できた気分だ。 



なら、私に出来ることは一つしかない。



*٠*٠*٠*٠* 



一年前。


私はついに行動に移した。


かの騎士を葬ったのだ。


ずいぶん骨が折れたし、時間もかかってしまったれど。



これでやり残したことはない。


この狭い彼女の生家で、寿命を待たずに果ててやろう。



ああ、その前に。


この手記を見られては台無しだ。


火を燃べて炭にしなければ。



今思うに、あの方のお父上の最後は、親心だったのかも知れない。


死んで逃げられたら、後を追う気さえ失せる。


……男らしくは無いけれど。

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