妹の名案
5分後。
俺が意識を取り戻せるかどうかの微妙な状態の中、静奈のターンよりガールズトークが始まった。
「エリザベスさんは何時から魔王に捕まっちゃってるんですか?」
「はい、私が10歳の頃に魔王がお城に攻めて来て、その時から囚われの身となっています」
「え? 10歳の頃から!? 酷い、そんな小学生の頃からなんて… エリザベスさん、随分辛い思いをしてるんだね」
「ええ、最初の頃は本当に辛かったです。しばらくの間は毎晩泣いてました。流石に3年も経つと泣かない位に強くはなりましたが」
「3年も… 随分と長い間… ん? え? ちょっと待って、3年? 3年前が10歳ってことは、つまり今は…」
「はい、今年で13になります」
「はあ?」
ギロ!
静奈の目つきが変わった。
「年下だとおおおおおおおおおおおおお!」
言葉使いも変わった。
「こんのおおおおお!」
そして、俺の時と同じように唐突にテーブルに乗り出し、向かい側に座っているエリザベスの胸を両手で力強く揉みしだき始めた。
「あ… ん…」
13歳とは思えない色気のある吐息。
「何食べた! 何食べてこんなにでかくなったああああああ! 今までの献立言ってみろおおおおお!」
静奈は、年下の巨乳には昔(思春期)から敵意を剥き出しにし、無駄に強気だった。
19時36分42秒79、ガールズトーク終了。
静奈は一通りエリザベスの胸を揉みしだいた後、何事も無かったかの様に質問を始めた。
「もしかしてずっとお部屋で独りぼっちだったの?」
「ハァ、ハァ… はい、3年間ずっと部屋で、他種族の方はいたのですが、 ハァ… 少しくらいの外出は許されたのですが、魔王城の周りは瘴気が濃くて ハァ…」
エリザベスは息が切れまくっているせいか、言っていることがよく分からない。
それに対して静奈の方は全く疲れを見せていない、運動量的には明らかに静永がエリザベスを上回っていたというのに。
「そうなんだ」
「そうなんだって、お前よく分かったな。俺はよく分からなかったぞ、瘴気とか他種族とか意味不明なんだが?」
「可哀そうだね」
「無視かい」
「ハァハァ… でも、本当に今日は楽しかったです。 ハァ… 久しぶりに、人間の方とも、お話が出来て」
そう言うと、エリザベスは涙をこぼした。
訂正、涙は静奈の握力によって既にこぼしていた。
正確には違う種類の涙をこぼした。
「よっ!」
エリザベスの違う種類の涙を見た静奈が立ち上がる。
「お兄ちゃん、エリちゃんの事、私達で守ろ!」
妹がまるで勇者みたいな事を口にしている。
そう言えばこいつは昔から正義感は強かったな。小さい頃の夢も仮面ライダーの様な正義の味方になりたいとかなんとか言ってた気がする。
はぁ… 流石に静奈のこのセリフの後にかっこ悪い真似は出来ないよな。
「そうだな、これも何かの縁だし、いっちょやりますか」
「うん!」
俺と静奈は結託した。
とは言え、一般市民の兄と妹、魔王相手に一体何ができるのだろうか?
具体的に魔王がどんなものかも知らないし…
でもまぁ、あれだろ? いかついおっさんで角とか生やして玉座で踏ん反り返ってる奴だろ? 悪の親玉でとにかく強いの、普通に考えて俺達にどうこう出来るわけないと思うんだが?
「うーん」
何か言いアイディアがないかと頭を悩ませていたら、
「よし、今日のところはDプランで行こうお兄ちゃん!」
と、静奈が張り切った。
「何か良い作戦があるみたいだな」
「うん」
「でも見栄は張らない方がいいぞ」
「ん?」
「どう見たってお前はA」
ドゴ!!
俺は再度気を失った。
そして目が覚めると、
「じゃあお兄ちゃん、明日の朝になったら鍵開けるから、それまでエリちゃんの部屋でエリちゃんんぼ身代わりお願いね。誰か来たらエリちゃんのフリしてやり過ごしてね」
「おい妹よ、これは違うだろ。そして俺にエリザベスのフリとか難易度高過ぎ…」
ガチャ
閉められたドアの向こうからは返事が無い。
「マジかよ…」
こうして俺は、男子高校生から囚われのお姫様(?)となりました。