自分という自分 7
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新学期の始めの日、源鹿の隣には燈八がいた。登校前に源鹿が燈八と歩くのは小学生以来だろうか?
記憶にないと思っていると、燈八かららしくない言葉が飛んできた。
「源鹿は進路どうする?」
この一言に源鹿は燈八の顔を見た。
ものすごい勢いで首をひねり真剣な眼差しをこちらに向けながら歩いている燈八を見た。
「お前、誰だ?」
らしくなさ過ぎて思わずそんなことを口走った。
「いや、源鹿ティーチャーの親友ですがな」
「それで、回答は?」
少し悩んで「決めてない」の一言。
突然言われたし、まさか燈八から聞かれるなんて微塵も思っていなかったから。
「そうか」
燈八の成績は源鹿より下だ。
「でも、いきなり何でそんなこと?」
「そりゃ、俺達もうすぐで3年だぜ」
「えらい現実的だな。そんな真面目系だったか?」
「たしかにらしくないな」
燈八がいつも見せている笑顔とはどこか表情が違って見えた。
どうだろ?
こんな真面目な会話もいつ以来だろうか。
燈八が小学生の時、好きな奴がいるって言った時以来だろうか?
学校につくといつも通りの燈八に戻っていた。馬鹿みたいにはしゃいで笑うあいつの方がいいと、そう思ったのだ。
窓から眺める景色をじっと見つめながら「進路」という単語に引っ掛かりを覚えた。
昔、忙しいばかりの父から「人生に答えはない。好きにやりなさい」なんて言われたことがあったっけか?ただ、自分がなにか一つ成し遂げられればとそうおもったっけか?
その日、始業式を終えて家に帰る。
玄関を開けると音が聞こえた。
それは自分の部屋から流れてくる。
Ⅹpはマナーモードのはずだ。自分の部屋に入ると、鳴っていたのはⅩpから。
その通話を繋げた。
そして
「_______________」
あの言葉だ。
アース語で会話をしている。
「もしもし」
「______________________________」
「______________________________」
その会話に介入もできず、言葉もわからない。
何が起きているのか・・・よくわからなかった。
会話が終わったのか、電話が切れた。源鹿はほうけていた。
ブーブー
Ⅹpからのメール。
須田始からのメールだった。
さきほどのでんわききましたか?
たったそれだけの本文で、慌てて送られてきたようだった。
はい
0.5秒で返した。
今の会話は我々も聞きました。
こちらでも調べますので一時アプリはメンテナンスという形で止めさせていただきます。
15秒後に返ってきたメールに
お手数かけます
と返した。
ベッドに転がり倒れてⅩpを掲げてみつめる。
これは一体なんなのか。
ブーブー
着信はラストからだった。
通話のボタンを押した。
「もしもし?」
そう言うと、
「はい」
と、ラストの声が聞こえた。
「なぁ、お前らなんなんだ?」
自分の怒りが抑えきれず、顔も知らない相手にそんなことを呟いた源鹿。
「なんなんだって言われても・・・」
返答に戸惑うのは当然。おそらく、ラストは何も知らないのだから。
「なぁ、ラスト以外にこの地球と通話してるやついるのか?」
「なんか、源鹿。こわいよ」
イライラしてならない。
自分の作ったものがこんなふうになってしまったことに。
「・・・わり」
我に返ったように一旦落ち着いた。
この前の電話で怒ったラストをさらに怒らせてしまいそうな気がしてならなかった。
「うんうん。昨日は私こそごめん。流石に子供だったよ」
源鹿から謝るつもりが向こうが謝ってしまい、自分が嫌いになりそうな源鹿。
「で、私以外に通話してる人か・・・。検討つかないね。
私はここから飛ばしてる魔力を、そっちの通信に繋いでいるからね」
ん?
「魔力ってのはここをピンポイントに飛ばしてるのか?」
「そんな正確に飛ばせるわけないよ。
たまたま通信にシンクロしてるのが、ゲンロクのところなんだと思うけど」
これか。一つ解けた。
源鹿の中では一つ区切りがついた。
別にTMLが悪かったのではない。
ようするに、他世界との交信の現象なのだ。
魔力はなにもピンポイントに的を絞って放出している訳では無いということ。たまたまこの回線でこのルートでここを辿ってる。おそらく他に聞こえる声というのはランダムだろう。
「ってことは、もうここにピンポイントで飛ばせないか?」
「えっ何で?」
「何でってもう4回も会話してるんだ。ここの位置ぐらい掴んでるだろ?」
「場所掴めてもそこにピンポイントに魔力飛ばして会話とか出来ないよ」
えっ、なんだって?
言葉は出てるのに声にならなかった。唖然としたからだ。
「ん?ゲンロク?大丈夫?」
「あっ。ああ」
また言われるところだった。
「でも何で?」
質問を元に戻して聞いてみる。
「そりゃ、魔力、というか魔法そのものがそんなに便利なものじゃないからね」