自分という自分 2
源鹿は東京の名の知れた高校に入学している。「豊名高校」
偏差値においては中の中だが、部活動がすごい。
今年の夏、陸上 柔道 水泳 バスケ テニス で全国行を決め、水泳 テニスにおいては全国優勝してしまっている。
そんな部活動盛んなこの高校で、帰宅部なんていう何にもせず帰宅する部に入っている僕。
「とりあえず、なんかやったら?暇なんだろ?」
今は話してるのは、「浅井燈八」。腐れ縁ってやつなのか、幼稚園小中高と常に一緒のクラス。家も近く。一緒じゃないのは、登校と下校くらいか。
「この僕が何かできるとでも?一番傍で僕を見てきた君がいうセリフかい?」
「その言葉何回言や気が済むんだ?」
「君が途方の無い質問をするからだろう?」
「ってことで、宿題見せてくんね?」
「意味が分からない」
「いつものことだろ?」
そう。この男はいつもこんな感じなのだ。
自由人。
その一言に尽きる。
「そろそろ、席に着いたらどうだい?我が親友よ」
チャイムが鳴るのはその数秒後のことだ。
学校とは勉学に励むところとは、よくいったものだ。
授業中に紙の飛ぶ教室は賑やかなものだった。
もちろん、僕のところにも飛んでくる。
燈八から投げられたその紙には、こんなことが書かれていた。
次の現国のノート
映させてくれね?
寝るんですね、はい。
紙に「知るか」と書いて投げ捨てる。
紙は見事に燈八の机に着地する。
その後返事が返ってくることはなかった。
時間がたつのは早い。気づけば昼を超え、もう放課後前のホームルーム。
「さて、来週の月曜から中間試験になるが。赤点を取ったやつは追試だからな。当たり前だけどな」
まぁ、赤点なんて無縁なんだよな。
普通に勉強してれば半分は簡単に取れるしな。
・・・半分しかとったことないんだよな。
解散後にやってきたのは、燈八だった。
「なぁ、土日暇だろ?勉強しようぜ」
「主にお前のか?」
「お願いします、源鹿ティーチャー」
「しょうがない。僕の家でいいかい?」
「ははぁ。私は、あなたに教えを請えるならどこへでも行きます」
こうして、勉強をすることになった僕。
とりあえず、帰宅するルートへ足を向かせる。
帰るときは必ず電気街を通る。進んで来ている訳ではない。どう足掻いても通る道なのだ。
電車通学でもバス通学でもない為、源鹿の足は必ずここのどこかで止まるのである。
数々の電化製品を置いているこの街は、要するにオタクの通い場。
源鹿はアニメやゲームといった類には興味が無いので、機械オタクというカテゴリーに部類される。
街中を歩いていると、誘惑はたくさん降りかかる。
「中古PC安売り」
「新品部品入荷」
見出しはいくらでも出てくる。
歩けば視界に入る。どこまでも付きまとう。
頭の中では分かっていた。来週はテスト。そして今日は金曜。明日は親友と勉強。そして、誘惑に打ち勝ち街の端まで歩いた。
「おう。源鹿」
その声は横から飛んできた。
その聞き馴染みのある声は源鹿の足を止めさせてしまった。
「帰りか?」
「ヤスさん・・・」
康成がニヤニヤしながらこちらに歩いてくる。ってことは、何かある。
こんな時、康成は何かをやらかす。
源鹿はここから逃げなければならないと思った。
本能が告げている。
「じゃ、ヤスさん。僕はこれで」
颯爽と帰ろうとする源鹿に、康成は笑顔で答えた。
「発売したぞ」
その一言で、源鹿の足はターンした。
その足は康成は方に向けられ、とても嬉しそうで急いだ足取りで向かっていった。
「でっ何がです?」
その焦った言葉には、もはや怒気が篭った様な言葉にも聞こえた。
「まぁ・・・まぁ落ち着け落ち着け」
康成は店に源鹿を誘い、入っていく。
「ちょっと待ってて」と言われ、店のレジ前の相談カウンターに座って待っていた。
周りを見渡すと、あらかた見たことのある電化製品や付属部品の塊。
しばらくすると、奥から長方形状の白い箱を大事に一つ持ってきた。
康成はその箱を源鹿の目の前に置いた。
その上面には「Ⅹp」という文字が中央に普通サイズの文字で書かれていた。
源鹿はその文字を目に言葉が出なかった。
「これな、発売したというより店側に情報だけ流しておいて本当にお求めになる客だけに出すような仕組みで店側に提供してるみたいでな」
その言葉は勿論、源鹿の耳の手前でブロックされていた。
源鹿の思考は今、この目の前にある「Ⅹp」という得体の知れない箱とのにらめっこで全ての思考が放棄されているためである。
「で、店側に提供された値段が以上に高くてな。うちは2つしか買えなかった。お前が買うならそれなりの値段するが。
それでも、買うか?」
源鹿には最後の「買うか?」しか聞こえておらず、全ての思考が動いた段階ではもう既に手に入ることが確定してしまっていたのである。
「無論」
即答。しかもとんでもなく大きな声。恥ずかしくないのかとは思うあれもなく、源鹿は今。本能のままに動いている。
「それじゃ、とりあえず値段な」
「今すぐ買う」
「落ち着け。お前のポケットマネーでは間違いなく足りない 」
「分かった。なら家に帰る」
「とりあえず聞け」
その一言で席を立ち上がった源鹿は大人しく席に着席。
康成は机に腕をつけて小声で話し出した。
「いいか、この「Ⅹp」。値段は50万だ」
この言葉で源鹿の思考は一気に緊急停止をかけた。そして、自分が想像し計画していた全てのプランが崩れ去っていくのを思考が悟ったのだ。
同時に血の気の引いた真っ青な顔になっていく源鹿。
現役高校生がまともに払える額ではない。
「でだ、当たり前だが源鹿に払える値段ではないわけ」
ここで思いついた言葉を源鹿は口に出した。
「じゃ、ヤスさんの給料からてん引きで」
当たり前だが頭を叩かれた。
「50なんて俺の給料3ヵ月分だぞ」って怒られた。
「じゃ、どうすれば・・・」
その場で倒れてしまいそうだった。
こんなの目の前にして引き下がるなんてありえない。
源鹿は椅子にもたれてくたばっていた。椅子の片足がうきその勢いで後ろに倒れかけていた。気づいた時には源鹿の視界には店の外が映る。
そして、目線の先には女性がいた。
ん?どこかで見たこと?
その女性の正体は、源鹿の母だった。
店の外に無理やり体を引き裂かれた。さっきのさっきまで目の前にあったⅩpの白い箱は、店の中へとその姿を隠してしまった。
一つ救いだったのが、「この一つは源鹿にとっておいてやる。店長からは守っといてやるから」と、ヤスさんに言われたことである。
家に帰っている途中、源鹿は隣を歩く母に話しかけた。
「母さん。僕あれが欲しいんだが」
「あれって何?」
「ほら、さっき俺が目の前にしてた白い箱 」
「・・・。何かあったかしら?」
「いや、もういい」
母は、機械には疎い。
もちろんあんまり使わない。携帯ぐらいだろう。
例えば、パソコンを触らしたら、その時点でおしまいレベル。ちなみに、仕事は機械を触るお仕事ではないためそんな心配も起こりえないのだ。
そんな母だから、日常電化製品以外のものなんか全く興味無いのだろう。
「でも、欲しいんでしょ?そんな高くないなら買ってあげても」
「50万」
「諦めなさい」
「結論が早すぎるよ」
「早いもへったくれもない。どっから出てくるの?そのお金 」
「お・・・」
「お年玉じゃ足りないわね」
先読みされている。
じゃバイト・・・は、学校で禁止になってるし。
そもそも、成績が・・・。
ん?成績。
「あのさ」
「テストでいいてん取れたら買ってよ」とかい言おうとしたら
「いい点とっても出ないわよ」
これが、親の力か。子が考えることなんか、どこまでもお見通し。
そもそも、500000という数字が全ての障害になっている。
頭おかしいんじゃないのか、WiX社。
そして、家に到着。
「ただ今」
「ただ今」
久しぶりだ。帰ってきて同じ言葉言う人が二人もいるなんて。
「母さん。最近はやいね」
「え?まぁ、ね 」
あんまりいい返事じゃない。
母とともに洗面器に向かい手洗い。源鹿は鞄を置きに自分の部屋へ。
母は、家事を始めた。
源鹿は、風呂が沸けるまで勉強することに。
だが、身が入るわけがない。あんなものを見てしまったら。ベッドの上に転がって天井を眺める。
どうやったら出てくる。
テスト前の癖に頭の中は500000という数字に魘されていた。そして、頭の隅っこにあった親友との勉強会は頭から出て行ったのである。