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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
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『絶望と決意』

今回は、舞台設定の説明がほとんどになっていると思います・・・。

 ツキヨミに言われた通り、雪太達は午後、再び広間に集まった。皆、また落ち着かないのように、私語が少ない。座る場所は部隊ごとに分けられており、雪太含む第六線は一番後ろに座った。


 部屋に入ってから数分が経過した頃、ツキヨミがまた家来達を引き連れて中に入ってきた。そして舞台に上がり、生徒達を見渡した。その目、表情には、生徒達への敬意は微塵も感じられず、何かを見極めているようにも見えた。


 やがて、ツキヨミは話を開始する。


 その内容は、主にこの国を統治している種族についてだ。

 まとめると、まず、この国はナギという人物によって建国され、そのナギの家来だったのが、ヤミ、カイという名の男だった。ナギはそれぞれ国を三地方に分割し、一つはヤミに、一つはカイに治めさせ、最後の一つは自らが治めることにしたのだという。二人は、ナギから最も信頼されていたため、二つの国をその二人に治めさせることによって、この国の安泰を図ろうとしたという話であった。


 ナギの治める地方は「タカマ」と呼ばれ、大和帝國一番の発展都市となった。そこに住まう種族は、コージ族と呼ばれた。一方、ヤミが治めることになった地方は、「ヤヨイ」と名付けられ、そこに住む種族はヨヤヨイ族と呼ばれるようになった。そして最後に、カイの地方はウナバラと呼ばれ、種族名はウカイ族となった。


 そこから様々な発展を遂げ、今日に至るというわけだった。三つの種族は、互いに交友関係を持ち、特に諍いもなく平穏に暮らしていた。しかし例の一件により、ヤマタイ族が襲ってくるようになったというのだ。

 因みに、ヤマタイという種族は、タカマを追い出された者達の総称だ。


 一通り、ツキヨミから大和帝國の歴史について聞かされたものの、皆は首を傾げている。まだ、よく理解できていないようだ。


「では、今日はここまでとする。明日は、訓練についての話をしようと思う。そのつもりで今日は休んでいてくれ」


 そう言い残すと、ツキヨミはまた、家来達とともに部屋を出ていってしまった。それを、生徒達は呆然と見送った。少し疑問を抱いているらしい。


「……え? 能力についての話とかはナシな感じ?」

「ちょっと期待したのにな〜」

「まさか、俺達って別に能力とか与えられないんじゃ……」

「いやいや、それはないでしょ。死んじゃうんじゃん」


 生徒達は、互いにそのように囁き合っている。雪太も、実を言えば少し期待していた。漫画などでは、このような展開になれば個人に特別な能力が与えられたりする。この生徒達の中にも、そう思った者が少なくなかったのだろう。雪太もまた、もしかしたらという淡い期待を抱いていたのだ。

 雪太達がこの世界に来た直後、ツキヨミは「それなりの能力は与える」と言っていた。あの言葉は、一体何を意味していたのだろうか。雪太はあの時のことを思い出しながら、疑問に首を傾げた。



 雪太は、春也と一緒に部屋に戻ろうと建物の廊下を歩いていた。隣を歩きながら、春也がこんなことを言ってきた。


「いやぁ〜、それにしてもあの人、ナイスバディだよね。もう少し愛想よくなれば、完璧だと思うんだけどね」

「あの人って、ツキヨミさんのことか?」

「そうそう、あの確乎不抜とした佇まいは、誰だって惚れ惚れとしちゃうと思うね」


 能天気に話す春也に、雪太は尋ねた。少しだけ、気になることがあったのだ。


「なぁ、春也。お前、どう思ってるんだ? 本気で戦うつもりなのか?」

「戦う? 冗談じゃないね。僕はそんなこと、真っ平御免だよ。能力もなければ、特別な力を宿しているというわけでもない。おまけに回復力もないからね。攻撃を受けたら即終了。しかも俺みたいに運動神経が悪い奴は、みんなの足を引っ張るだけだよ。今夜のうちにでも、逃げ出すつもりさ。よかったら、雪太も一緒に行かない?」


 それは、春也なりに出した答えなのだろう。その気持ちは、雪太にも十分理解できた。一般人に、いきなり戦争をしろと言ってもできるはずがない。平和ボケしすぎた現代人なのだから、尚更無理である。特別な能力でもあるのなら、まだ話は別だが。それすらないと言われたら、逃げ出すかしか方法はないだろう。春也の考えは、賢明だったのだ。


「ほんとに、戦争は嫌だね。本気で殺し合いをするんだから。少なくとも俺には向かないよ。何を思って、あの人達は俺達をこの世界に呼び寄せたんだろうね。それを考えると、不思議で仕方がないよ」


 そんな話をしながら春也は歩いている。春也の話を聞いていた雪太は、次第に歩く速度を落とす。確かに、能力もなしに戦えという方がおかしい。もしかすると、敢えて能力の話をしなかったのではないだろうか。それなら、何故言わなかったのだろうか。どちらにしろ、ツキヨミ達は自分達に何かを隠している、それは明白だった。

 いつの間にか足が止まっていた雪太に、春也が心配そうに前から声をかける。


「雪太、どうしたの?」

「ごめん、春也。先に戻っててくれ」


 雪太はそう告げると、引き返した。ツキヨミに、確かめたいことがある。その思いが、何よりも強かったのだ。


 広間の近くまで戻ると、ツキヨミを探した。そうしていると、向こうから何やら話し声が聞こえてくる。聞いたことのある声だ。おそらく、まだ外ではクラスメイト達が騒いでいるのだと雪太は予想する。


 声がする方に行ってみると、そこには数人の生徒が集まり、その中央には鞠のような球でリフティングをしている一人の男子がいた。

 一条いちじょうまなぶ。雪太と同じクラスの、少し大人びた男子生徒だ。その周りでは、吹部の三人組が一条に声援を送っている。何故、蹴鞠などしているのだろうと雪太は、しばらくそこに立ってその様子を眺めていた。

 すると、一条が雪太の存在に気づく。


 経緯を聞くと、部屋に戻る途中に建物の管理人が蹴鞠をしているのを見かけ、声をかけたら勝負を申し込まれたのだという。一条はサッカー部に所属していたため余裕で勝利し、その蹴鞠を譲ってもらったらしい。


 彼が所属する部隊は、第二線だ。故に、雪太に対して上から話しかけてくる。


「まさか、君がこんなところにいるなんて思わなかったよ」


 言い方からして、完全に見下されているように聞こえる。一条は頭もそこそこよく、顔立ちも目を引くため、女子達からは「超」がつくほどの人気だった。また、口も春也並みに達者なのだ。


「よかったら、君、僕と勝負してみない?」

「あ、いや、でも……」

「ルールは簡単だよ。サッカーのリフティングとほとんど同じだから。この鞠を蹴り上げて、どちらが長く蹴り続けていられるかを競うんだよ」


 一条は、微笑しながらそのように誘ってくるが、雪太は気乗りしなかった。


「あ……いや、悪い。今は、ちょっとそんな気分じゃないんだ」


 雪太は再び、背を向けて中に入ろうとした。そうしたら、一条から呼び止められたのだ。


「逃げるのかい?」


 その言葉に、雪太は足を止めた。すると、後ろから一条が更に煽ってくる。


「僕に負けるのが怖いから、やらないんだろう?」


 別にそういうわけではない。雪太は、挑発になど乗ってやるものかと振り返らずに足を進めた。しかし今度は、周りにいた女子達の陰口のような声が聞こえてくる。……好きに言えばいい、雪太はそんな気持ちだった。


 雪太自身、運動神経もそれなりにあるため、大概のスポーツはできる。これまでにやったことがないようなことでも、見ただけで人並みにはできる。ただ、目立ちたいからなどという理由で、人前に出るようなことはしない。目立たないに越したことはないからだ。

 その思考は、今も昔も変わらなかった。



 建物から少し離れると、一面に青空が広がり、遠くに村のようものが見える。あの建物は、山の頂上にあったのだ。それをこの時、雪太は初めて知った。ツキヨミを探すために出てきたが、どこで暮らしているのか分からない。

 雪太は諦め、一度戻ろうと引き返した。その途中、屋敷のような家を発見した。


 庭を覗くと、中はしんと静まり返っており、誰の気配も感じない。ここにはどのような人が住んでいるのだろうか。不思議と興味が湧いてきた雪太は、庭に足を踏み入れる。


 屋敷は縁側で囲まれており、それに面して部屋がいくつも並んでいる。雪太は、靴を脱いで縁側に上がり込んだ。

 まず、ここの住人を見つけ、詳しいことを聞き出さなくてはならない。とは言うものの、広すぎてどちらに行けばよいのか分からない。

 仕方がないので、雪太は適当に足を進めることにした。


 ある部屋の前まで来ると、仕切りがされ、それ以上は行けないようになっている。結局、誰とも会うことはなかった。

 帰ろうとした時、どこからか啜り泣きのような声が聞こえた。横を見ると、幾つも部屋が並んでおり、襖はすべて閉まっている。その中から、確かに人の泣き声が聞こえてくるのだ。声から推測すると、雪太と同年くらいの少女のようだった。

 雪太は意を決し、襖に手をかける。そして、開けようと右手に力を入れると……。


 開かない。思いきり横に引こうとしてみても、びくともしない。それでも、中に誰かがいるのは明白だ。

 その時……。


「誰だ、お前!」


 不意に真後ろから、子供が怒鳴るような声がする。雪太は驚き、急いで振り返ってみると、そこには太刀を構えた少女が立っていた。髪を後ろで一つに括り、雪太を精一杯睨みつけている。

 見たところ、雪太の世界で言うと、小学校に上がるかどうかといった歳に見える。また、首に緑色の勾玉が付いた飾りをつけている。その少女は、驚いて尻餅をついている雪太の喉に、持っている太刀を突きつけた。更に、すごい剣幕で雪太に迫った。


「お前、どこからこの屋敷に入った!」

「あ、いや……、普通に入りましたけど……」


 雪太が通った時、この屋敷の門は開いていたのだ。


「もしやお前、ヤマタイ族の一味か! おのれ、このスノー様が成敗してくれる!」


 自分のことを「スノー」と言ったその少女は、刀を振り上げてくる。咄嗟のことで雪太は逃げられず、両腕を顔の前に持ってくることしかできなかった。

 もう駄目だ、と思った時、別の声が聞こえた。


「やめろ、スノー」


 その声により、スノーは動きを止める。庭には、ツキヨミが立っている。スノーはそれを見ると、先ほどの剣幕とは打って変わり、おとなしくなった。


「あ、ツキヨミの姉御。怪しい者がいます! 姉上の部屋を、開けようとしていたのです!」


 スノーが訴えるのを聞き、ツキヨミは雪太の方に目を向ける。雪太も気まずくなり、苦笑して誤魔化した。

 ツキヨミは雪太の顔をじっと見つめ、スノーに言った。


「この者は、怪しい者ではない」

「え、しかし!」

「父上から聞いているだろう。ヤマタイ族に対抗するために呼ばれた、召喚者だ。お前は、向こうに行っていろ。あとは、私で何とかする」


 ツキヨミの話を聞いても、スノーは少々不満そうだ。そしてむくれたような表情を見せ、刀を仕舞うとその場から走り去っていった。

 雪太は、助かったと胸を撫で下ろす。しかし、まだ事態が収束したわけではない。

 何と説明しようか悩んでいる雪太に、なんとツキヨミ自身が近付いてきたのだ。隣に腰を下ろすので、雪太は少しドキッとした。近くで見ると、春也の言っていた通り確かに胸が大きい。


「妹が迷惑をかけてすまない。あいつも、悪気があってやったわけではないのだ」


 ツキヨミは開口一番、雪太に詫びた。その後、雪太はツキヨミから詳しい話を聞かされた。


 スノーは三姉妹の末っ子であり、二人の姉に当たるのが、アマテルという人物らしい。しかし、そのアマテルは今、部屋に閉じこもったきり、出てこなくなってしまったのだという。その原因は、どうやらスノーにあるようだ。更に、ツキヨミは続けた。


「私達は、この国の建国者、ナギの子孫に当たる。父上であるイーザ様も、その血を受け継ぐ者として、このタカマの統治を行ってこられた。その父のもとに生まれたのが、我ら三姉妹だ」


 しかし母が病弱であったため、スノーが生まれて間もなくこの世を去った。それ故に、スノーは母の顔を知らない。そんなスノーを一番よく世話していたのが、長女のアマテルだった。


 アマテルは優しく、スノーがどのような我儘を言っても、怒ることなく、聞いていたのだという。しかしそれが原因となり、スノーは乱暴者に育ってしまった。

 村人が育てた稲を荒らしたり、穀物を盗んだりと騒ぎを起こし続けたのだ。それも段々とエスカレートしていき、終いには山火事を引き起こす原因をも作ってしまったのだという。


 アマテルはそれらに責任を感じたのか、とうとう我慢できなくなり、自分の部屋に閉じ籠もってしまった。それをスノーは、自分のせいだとは気付いておらず、姉の部屋を用心棒として守っているのだという。


 また、アマテルは神から授かった力を宿しており、それによってしばらくはヤマタイ族が襲ってきても、大和帝國を守れていたのだという。しかし、アマテルが欠けてしまった今の戦力では、どうにも太刀打ちできない。そこで、ナギの子孫であり国王のイーザが、神の祠の前で祈りを捧げ、人間界から雪太達を招いたのだ。

 ツキヨミは、更に雪太にこう言った。


「お前達が乗り気でないのは、十分に理解している。ただ今の状態では、この大和帝國が滅びるのは時間の問題だろう。帰りたいのならば、私から父に願い出てもいい。私なりに、説得するつもりだ」


 その言葉を聞き、雪太は考えた。

 もしも、自分達が戦いを放棄した場合、この国の人々はどうなってしまうのだろう。

 そして、明日香の言った言葉を思い出した。「困っている人を見殺しにできない」、あの言葉は、明日香の本心だったのだろうと今になって思える。

 彼女のような気持ちは、あの時の雪太にはなかった。それでも、ツキヨミの話を聞けば、事態は思ったよりも重大のようだ。このまま、帰れるわけがない。


「俺……、今までずっと考えてたんですよ。自分に、何ができるんだろうって。けど、今の話を聞いて決心しました。俺、戦います。特に能力があるわけじゃないけど、運動神経には自信があるんで。俺も、困ってる人を助けないのは、性に合わないっていうか……。だから、安心してくださいよ」


 これが、雪太から出た精一杯の言葉だった。しかし、ツキヨミの今まで硬かった表情は、一瞬にして柔らかくなった。


「ありがとう、君のような子がいるなど正直、思っていなかった。だから、すごく嬉しい」


 ツキヨミが言った。まるで、これまでの態度を改めたかのような口調だ。更にツキヨミは立ち上がると、雪太に正面を向け、スッと手を差し伸べてきた。雪太も、それを握った。


「これから、よろしく頼む。雪太君」

「雪太でいいですよ、ツキヨミさん」


 ツキヨミは、フッと笑った。その時、雪太は気持ちが吹っ切れたような、清々しい気分を味わった。ずっと自分の中にあった痞えがなくなり、大空に解き放たれたような解放感に浸った。ツキヨミは、


「困ったことがあったら、何でも言ってくれ。私なりに、配慮はするつもりでいる」


 とだけ言うと、その場から去っていった。その後、雪太はまた心の中で誓いを立てる。現時点では、自分に何ができるのか分からないが、それでも、やれるだけやってみよう。それが、今の自分を変えるチャンスなのだからと。

第一章では、基本的に登場人物紹介がほとんどになると思います。

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