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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
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『美味佳肴』

 一日目の夜になったが、雪太はなかなか寝付けずにいた。いきなり知らない世界に送り込まれた挙句、第六線という最弱部隊に配属され、あまつさえろくな接待を受けられず、不味い料理を振る舞われた。そのため、雪太含め第六線にいる五人は、ほとんどの夕飯を残し、空腹のまま夜を迎えたのだ。眠れないので雪太は起き上がり、まだ完全に整理できていない記憶を一つひとつ片付けることにした。


 まず、ツキヨミの話によると、この国は大和帝國と呼ばれており、数万年前にナギという人物によって建国された。また、大和帝國は三つの地方に分かれており、三つの種族がそれぞれの地域で治安を維持している。


 更に、この国はヤマタイ族という種族に狙われており、遠くから化物を送り込んでくるのだと言っていた。そのヤマタイ族というのは、もともと大和帝國に住んでおり、儀式に異を唱えたため、国から追放されてしまったらしい。その復讐のため、この国を襲うようになったという話だった。


 しかし、雪太にはどうしても合点がいかないところがあった。というのは、彼らは何故、神を崇める儀式に反発したのかということだ。ツキヨミは、そのことについては話の中で触れなかった。考えれば考えるほど、目が冴えていく。

 雪太がベッドの上に座っていると、突如として部屋が明るく照らされた。ふと窓の外を見やると、満月が煌々と光り輝いている。それは、雪太達の住んでいた世界で見える月と比較しても、数倍の明るさだった。それよりも、他のみんなは大丈夫なのだろうか。ふと、そんな不安が過る。


 雪太は、他の四人が眠っているのを確認し、そっとドアを開けて部屋の外に出た。眠れないのなら、少し探索でもしようと思い立ったのだ。雪太は建物を出て、暗闇の中を歩く。頼れる光は、月による明かりのみだった。

 どうしても落ち着かず、じっとしていられなかったのかもしれない。


 雪太は、階段を見つけた。神社でよく見かけるような、石製の階段だった。一旦そこに座り、気持ちを落ち着かせようとした。これから、自分達はどうなってしまうのだろうか。その憂慮だけが脳内を駆け巡り、雪太は苦悶した。その時、後ろから誰かの気配を感じた。


「雪ちゃん……?」


 優しい声だ。雪太は、ゆっくりと振り返った。


「桜井……?」


 そこには、明日香の姿があった。彼女は、驚いている雪太に優しく笑いかける。そして、石段の側に来て雪太の隣に腰を下ろした。


「雪ちゃんも、眠れないの?」

「あ……、うん。お前は?」

「私も……」


 横を向くと、明日香は空を見上げている。満月が、二人に微笑みかけるように、深々と輝きを放ち続けている。二人は、しばらくその月に見とれていた。すると、突然明日香が雪太に話しかけた。


「そうだ。これ、余ったから食べていいよ。今日の、晩ご飯」


 紙によって包まれた何かを、明日香は制服の上着のポケットから取り出す。それを雪太に渡した。受け取ると、それを開けてみる。中には、骨付き肉のようなものが入っていた。おそらく、鳥か何かだろうと思う。これが第一線に出された料理だろうか、と雪太は感動を覚えた。

 そして、同時に敗北感が襲ってくる。自分は、戦闘における資質が低いために、第六線という戦力にもならないような部隊に入れられてしまった。そのことが、何よりも悔しかったのかもしれない。


「……どうしたの?」


 不思議そうに、雪太を見つめながら声をかけてくる明日香。返答に困る雪太。


「……いや、何でもない。ありがとな」

「雪ちゃんのとこは、どんな料理が出たの?」

「あ、いや、まあ、豪勢だったよ。あんなの、今まで食べたことがなかったなぁ」

「私も。あぁ、もうちょっと食べたかったかも」


 明日香を安堵させるために、雪太はありきたりな嘘をついた。それと同時に、彼女の言葉を聞いて、それなら何故残したのだろうと思った。それについて、大体想像がついた。明日香自身、すべて見透かしていたのかもしれない。第一線と第六線では、待遇が異なるのだということをすでに分かっていたのかもしれない。それを知っていたからこそ、雪太のために自分の分を残してくれたのだろう。


「じゃあ私、もう行くね」


 明日香が立ち上がると、そう言って手を振った。


「なぁ、桜井」

「何?」

「あ、いや、やっぱり何でもない。頑張ろうな」

「……うん」


 明日香は、最後にいい笑顔を見せた。そして、走って再び建物の中に入っていった。

 雪太は、しばらくそこに残って呆けていた。先ほどまで辺りを照らしていた月も、今は雲に隠れて見えなくなってしまっている。雪太は、明日香からもらった肉を一口かじった。


(美味い……)


 それこそ、今までに食したことのないくらい、美味だったのだ。彼女は、これを自分のために残してくれていたのだろうか。そう思うと、次第に視界が水滴で覆われていくのが雪太には分かった。


 雪太は心底、明日香が戻っていった後に食べてよかったと思った。このようなところを見られてしまったら、しばらく彼女と顔を合わせられなくなるかもしれない。同級生の、それも幼馴染の女子の前で涙を流すなど、男としては絶対にあるまじき行為だと雪太は思った。


 そして、雪太も部屋に戻る決心をした。どうせ眠れないだろうが、夜ということもあり、外は少し肌寒い。腹も明日香がくれた肉で、だいぶ満たされた気がした。心も先ほどよりは落ち着きを取り戻し、今なら、もしかすると寝付けるかもしれない。



 部屋に戻ると、やはり先ほどと同じように、しんと静まり返っている。雪太は、自分のベッドで横になり、ゆっくりと目を閉じる。すると、数分も経たないうちに、意識が朦朧とし始めた。そしてそのまま、ゆっくりと眠りにつくのだった。



 朝、目覚めると雪太は起き上がった。部屋を見渡すと、どうやら皆起きた後のようで、部屋には誰もいない。まずい、寝すぎてしまったようだ。雪太は内心焦りながら、部屋の様子を回していると、窓から眩しい朝陽が差し込んでいるのを感じた。暖かい。その時、部屋の戸が開いた。そして、春也が顔を出す。


「やあ、やっと起きたね。みんな、広間で朝食をとってるよ。雪太も早く来なよ」


 春也の言葉を聞き、雪太は一安心する。その後、春也と一緒にそこへ向かうことにした。


 着くと、皆は友達同士などで会話したりしながら、食事をとっている。一晩寝ることにより、皆もだいぶ状況を把握できてきたのか、来た時に比べて笑顔もちらほら見える。

 見たところ、食べているものは全員一緒のようだ。


 雪太が席に着くと、春也もその隣に座る。


「ねぇ、雪太はさ、昨日の晩どこに行ってたの?」

「起きてたのかよ、言えよ」

「まあ、声をかけたとしても、無視されると思ったからね。なんか、陰々滅々とした雰囲気にも見えたからさ」


 二人の会話を聞いていたのか、正面に座っている麻依がきいた。


「ねぇ、陰々滅々って?」

「あぁ、簡単に言うとね、気分が暗いっていう意味さ」


 春也が説明する。


「ふ〜ん。ねぇ、シキちゃん知ってた?」

「わかんない。私、頭の中ピーマンだから」


 麻依が隣にいた由佳にきくと、由佳は答えた。


「だよね〜」


 麻依も笑った。すると春也が、次のように言う。


「でもそれって、栄養補給するには十分すぎる野菜だよね。空っぽに見えて、実は空っぽじゃない。人も同じ。何も考えてなさそうに見える人ほど、実は何かを考えているもんさ。だから、人は外見で判断しちゃいけないよ。人にはそれぞれ、その人だけに限られた素質がある。俺はそう思うな」


 また春也の演説が始まった、と雪太は思う。春也はたまに、どこかの教授のようなことを言い出すことがある。雪太はそれに慣れているため、毎回聞き流しているのだが。この時も、特に気にすることなく、無言で朝食をとっていた。

 その時、由佳と麻依がこんな会話を始める。


「でも、私達はその素質? っていうのが低いから、第六線なんでしょ?」

「そうそう。普段から何も考えてなさそうな平城君もいるし」


 早速、春也が論破されているな、と雪太は心の中で嘲笑った。それにしても、一体何を基準に部隊分けを行ったのか、未だによく理解できない。体力なのか、頭脳なのか、あるいは潜在能力か何かなのか。この編成を見ていても、ただ個性に溢れている奴の集まりとしか思えない。雪太の箸は、いつの間にか止まっていた。


 すると、近くから誰かの寝息が聞こえてくる。横を見ると、光河が丸まって寝ているのが見えた。よくこのような状況で寝ていられるもんだ、と雪太は呆れ返った。それどころか逆に、光河のその平静さが羨ましいとも思えた。それに、由佳と麻依も気付いたようだ。


「あれれ、平城君また寝ちゃってる」

「さっきまでは、ちゃんと起きてたのにね〜」

「まぁ、平城君は基本、マイペースだからね」


 春也が言うのを聞いて、マイペースというよりは状況を把握しきれていないだけなのではないかと雪太は心配になってしまった。そして、起こそうと平城の身体を揺すってみる。


「おい、平城。いい加減起きろよ。置いてくぞ」


 しかし、平城は目を覚ますどころか、こんな寝言まで呟いている。


「ん〜……、二位は一位に勝てない……。そして俺も……、三位は二位に勝てない……」


 雪太は、グサッと心に何かが刺さったような感覚を味わった。


「いや〜、雪太。痛いところ突かれちゃったね。まぁ、雪太は基本、勉強とスポーツ以外は特に取柄がないからね。だから、どう頑張っても、大和には勝てないんだよ」

「うるせーな」


 春也にもとどめを刺され、雪太は落胆する。確かに雪太は、勉強でもスポーツでも、何においても大和に勝った試しがない。それだけ、大和が完璧だということだ。


 そうこうしていると、その部屋の戸が激しく開かれる音がした。そして食事をしていたクラスメイト全員が、一斉にその方を振り返る。すると、家来達を引き連れてツキヨミが入ってくるのが見えた。また、雪太の全身に嫌な予感が走る。ツキヨミはまた舞台の中央に立つと、口を開いた。


「今日の午後、大和帝國の種族についての説明を行う。それまでは、各々部屋で待機していてくれ。今は、それだけだ」


 それだけ告げると、ツキヨミ達はまた部屋を出ていった。それを受け、クラスメイト達は再びザワザワし始める。それは、雪太のいる第六線も例外ではない。互いに顔を見合わせながら、不安を分かち合っている。雪太もそろそろ、本格的に現実を受け入れなければならない、そう認めざるを得ないと悟った。

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