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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第二篇 オロチ
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『帝國での来訪者』

 雪太が神力を得てから約一週間が経過し、徐々に氷の扱いにも慣れてきた。というより、慣れさせられたと言った方が適切かもしれない。毎日、朝から晩までスノーの特訓に付き合わされていていたのだ。他の皆はアメノーシに見てもらっていたが、雪太だけがスノーの我儘によって隔離されていたというわけだ。

 それには、仲間からも同情の目で見られていた。


「雪太は大変だね~」

「郡山君、お疲れ様~」


 などと、部屋に戻る度に春也や由佳から言われた。正直うんざりしてきて、逃げ出したくなる。スノーは何故、こんなにも自分に構うのだろう。雪太には、皆目分からなかった。


 次の日も、建物を出るとスノーが待っていた。


「遅かったな」

「悪いが、今日はこいつらと一緒にやることにするよ」


 雪太は、近くにいる春也達を見ながら言った。しかし春也も分かっているのか、


「雪太。せっかく誘ってくれてるんだから、行くべきだと思うよ」


 と、余計な助言をする。それを聞いてスノーは、更に調子に乗ったように笑い、雪太の腕を引っ張った。とても八歳とは思えない力の強さに、少し引いた。


 いつもは森の中で修行するのだが、この日は森を通り抜け、屋敷へと向かった。雪太は不思議に思いながらも、スノーの後に続いた。


 屋敷に着くと、スノーは雪太を座敷に上げた。未だに、スノーの行動が読めない。何をしようとしているのか、今ひとつ掴めないのだ。

 雪太が考えていると、スノーはある部屋の襖を開ける。そこには子連れの夫婦、そしてウヅメの姿もあった。


「スノー様、用事って雪太様を連れてくることだったのですね!」


 雪太を見ると、ウヅメは嬉しそうに言った。しかし、まだよく状況が分からない。一体今から、何が始まるというのか。ウヅメに案内され、雪太は夫婦の前に座った。すると、夫婦の間にいた少女が挨拶してきた。


「初めまして。私、クシハダと申します」


 クシハダという少女は、丁寧に頭を下げた。それにつられ、雪太も軽く礼をする。歳は、スノーと同じくらいだろうか。しかし、スノーよりもしっかりしていて、よくできた娘のようだ。以前、スノーが幼馴染の話をしていたが、彼女がその幼馴染なのだろうと雪太は推測した。

 そして今度は、夫婦も雪太に挨拶をする。


「クシハダの父、イカヅチと申します」

「母のカナヅチです。スノー様のご友人と聞いて、お会いするのをたいへん楽しみにしておりました」


 この夫婦は、雪太をスノーの友人だと思っているらしい。しかし、スノーは雪太のことを奴隷だと思っており、何でも言うことをきく下僕だと思っているのだ。


「こいつは、神力も持ってるんだぜ!」


 スノーが二人に言うと、イカヅチとカナヅチは雪太に対し、驚きの目を向ける。神力を持つ者は、帝國の中でもかなり珍しいのだ。それ故に、驚くのも無理はない。


「雪太様は、異国からの召喚者だとお聞きしました。あちらの世界は、どのようなところなのですか?」


 イカヅチが興味深そうな目をして、雪太に尋ねてくる。不意をつくような質問をされ、雪太は何と答えればよいか分からなくなった。普段何となく生活をしていた世界だから、急にどんなところかときかれても、うまく説明できない。


「ここと違って……、建物が密集している世界です」


 雪太は、思いついたままを話した。夫婦二人は、また驚いた目で顔を見合わせている。驚くほどのことでもなさそうだが、それでもこの国の人間には想像もつかないのだろう。

 次に、


「他に、何があるのですか?」


 と、今度はカナヅチが尋ねてきた。それについても、雪太は適当に答える。


「自動車とかが、走ってますね」

「自動車……? それは、生き物か何かですか?」


 余計なことを言ってしまった、と雪太は後悔した。この国には自動車がないようだ。


「いや、生き物じゃなくて……乗り物です」


 雪太が説明すると二人は納得したような表情をするが、まだ何かまでは分かっていないだろう。仕方なく、雪太は自動車について二人に詳しく話した。二人は目を輝かせながら、その話を興味津々に聞いていた。クシハダも、黙って雪太の話に耳を傾けていた。


 話し終えると、二人は拍手をした。こんな話は初めてだ、是非とも行ってみたい、そんな言葉が飛び出した。一方、スノーは退屈そうに欠伸をしている。興味がないこと、まる分かりだ。


「いやぁ、今日は実に興味深い話を聞かせていただきました。また機会があれば、お話の続きをお聞かせください」


 イカヅチがそう挨拶すると、三人は帰っていった。それを見送りながら、


「とてもよいお顔をされておられましたね」


 と、ウヅメが感想を述べた。結局、あの三人はただ遊びに来ただけだったのだろうか。雪太は、それが最後まで分からなかった。雪太が何気なく後ろを振り返ると、またスノーの姿が見えなくなっていた。雪太に構ってもらえなかったので、拗ねてしまったのだろうか。しかし、これも雪太にとっては好都合であった。雪太には、帰る前に寄りたい場所があったからだ。


 雪太は帰り際、ある部屋に立ち寄った。スノーの姉、アマテルの部屋だ。雪太は、彼女の顔をまだ知らない。この世界に来た時には、すでに引きこもってしまった後だった。

 しばらくはここに来る機会がなかったが、最近は少し余裕ができたということもあり、時々こうして足を運んでいるのだ。雪太は部屋の外から、中にいるアマテルに話しかけた。


「今日、スノーの幼馴染が来てた。両親が俺達の住んでた世界についてきいてきたから、詳しく教えたら目を輝かせてたぜ」


 そうすると、襖の下の隙間から一枚の紙が這うように出てきた。雪太はそれを手に取ると、その紙にはこう書かれてあった。


『それは、イカヅチ様とカナヅチ様ですね。あの方達はとても好奇心が強いので、一度気になり始めたら、とことん追求なさってくるので、お気をつけください』


 確かに、雪太も二人を納得させるのにかなりの時間を費やした。それでも、真剣に話を聞いてくれていたので、雪太にとってもそれなりに話し甲斐があった。

 雪太は話題を変え、アマテルに尋ねてみた。


「最近、調子はどうだ? 今日は天気がいいから、たまには外に出てみないか」


 しかし、返事は返ってこない。紙も出てこない。それほどまで、アマテルは自分に自信が持てなくなったのだろうか。

 アマテルが引きこもってしまった原因は、スノーにある。スノーの悪戯が酷く、帝國の人々に迷惑をかけ続けた結果、当時世話役だったアマテルが自分の部屋に閉じこもったきり、出てこなくなってしまった。彼女を部屋から連れ出す方法はないかと、雪太はここのところそればかりを考えていた。


 すると、不意に誰かの気配を感じ、振り向くとそこにはツキヨミの姿があった。


「来ていたのか」

「あ、はい。すみません」

「謝ることはない。姉上のことを思って、今日も来てくれたのだろう。感謝している」


 ツキヨミも、初めて会った時よりは笑顔を見せてくれるようになった。その日もまた、穏やかな笑顔で雪太に言った。笑うと、女性らしく、可愛らしい表情になる。雪太は彼女の笑顔を見る度に、そう感じていた。

 ツキヨミは雪太の隣に腰を下ろすと、話を始める。


「せっかく来てもらっている君に、このようなことを言うのは少し気が引けるが……姉上はまだ、以前のような心を取り戻せていない。スノーの行いを自分のせいにして、自分を悪者にしてしまっている。姉上は、大切なスノーのことを庇っておられるのだ」


 ツキヨミの話を聞きながら、雪太はアマテルに同情した。本当に、スノーが好きなのだということは明白だ。ならば、スノーをここに連れてきて謝らせるしかないだろう。


「ツキヨミさん。スノーをここに連れてきます」


 ツキヨミも、雪太が何をしようとしているのか分かったのか、歩いていこうとする彼を呼び止めた。


「待て。君の行動に水を差すようで申し訳ないのだが、スノーはまだ、原因が自分にあることを理解していない。姉上の部屋を守っているのも、そのためだ」


 ツキヨミは立ち上がると、雪太の肩にポンと手を置き、向こうへ歩いていってしまった。雪太は突然、遣る瀬無い気持ちになった。アマテルが、不憫に思えて仕方がない。スノーに、本当のことを伝えなければならない。しかし、相手に悪気がないのであればどう伝えればよいのだろうか。考えれば考えるほど、分からくなっていく。


 雪太が屋敷の敷地を出ようとした時、どこからか笛のような音色が聴こえてきた。近くで、祭りでもやっているのだろうかと気になった雪太は、音のする方へ行ってみることにした。

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