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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
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『ようこそ異世界へ』

 雪太は、ふと目を開けた。最初に視界に入ってきたのは、石でできた天井だった。今、自分がどこにいるのかも分からない。覚えているのは、教室が途轍もなく強い光によって照らされた、あの時までだ。


 起き上がってみると、まずは周りを確認した。そこは、時代劇でよく目にする、牢獄のような部屋だった。天井が非常に高く、窓も高い位置にしかないため、脱出を試みても外に出るのは不可能だろう。仮に壁を登れたとしても、鍵が開いているという保証はない。


 周りを見れば、雪太の傍には石製の高そうな壺が置いてある。西洋風ではなく、それには日本風の柄が描かれてある。龍が天に昇っているような、古風な絵。ここは一体、どこだというのか。夢なのだろうか。もしや、春也の言った通り、本当に異世界へ来てしまったのだろうか。いや、そんなはずはない。異世界など存在するはずがない。常識という概念を鑑みれば、夢としか思えない。しかし、そこで雪太は違和感を覚える。夢にしては、意識がはっきりとし過ぎているのだ。


 では、これはやはり現実なのだろうか。雪太は、信じられないという思いに押し潰されそうになった。部屋には、他に人の姿はない。クラスの皆は、どこに行ってしまったのだろう。そしてここはどこなのか。一体、誰が何を思って、自分をこんなところへ閉じ込めたのだろう、雪太は胡座をかいて目を閉じながら、只管考えていた。



 幾分経っただろうか、僅かな足音を雪太は聞いた。誰かがまっすぐ、自分のいるところに向かって歩いてくるのだ。その瞬間、雪太はゆっくりと瞼を開けた。


 その時、暗闇から誰かが姿を現す。吊り上がった目で、牢越しに雪太を見つめている。長い髪を上の方で括り、男とも女ともとれる、中性的な顔立ちをしている。雪太も、今は余計な行動はできるだけ控えた方が良いと感じ、座ったまま見つめ返していた。その人物はしばらく雪太を見下ろしていたが、その後、牢の扉を開けた。雪太は内心、その人物を恐ろしく感じた。だが、なるべく顔には出さないよう努めた。

 その人物は、雪太の前に来るとこう告げた。


「大和帝國へようこそ。広間に、皆集まっている。お前も来るといい」



 案内され、雪太は広間へと連れてこられた。


 部屋の戸が開き、雪太は中に入ると、そこにはクラスメイト達がいたのだ。どうやら、雪太が最後だったようだ。


 クラスメイトの中には、状況についていけずに放心する者、泣いている者、様々いる。雪太は、真先に明日香を探した。広間の面積は体育館よりやや広く、畳が敷き詰められている。前には舞台のようなスペースがあり、まるで宴会場のような造りだ。そこで、雪太は明日香を見つけた。彼女は、舞台に比較的近い場所で体育館座りしていた。すぐに雪太は、明日香に近づいた。そして、声をかける。それでも、明日香も他の生徒達と同じように放心状態であった。


 雪太は、明日香の隣に座る。何が起きたのか、これから何が起きるのか、まだ皆目見当がつかないが、それでも雪太は明日香のことを心配した。すると、明日香の口が開く。


「雪ちゃん……。私達、これからどうなるんだろう……」


 その声は、やはり震えていた。



 数分ほどが経ち、広間の戸が開かれると数人の男達が中に入ってきた。皆、袈裟のような白装束に身を包み、これから何かの儀式が始まるかのような雰囲気を醸し出している。最後に登場したのは、雪太がここに来て初めに見たあの人物だ。他の者達とは違い、高貴そうな着物を着て、その上に鎧を身に纏っている。例えるなら、戦国時代の武将。


 その人物が舞台の中央に上がると、雪太を含む生徒達を見渡しながら話し始める。


「皆、驚かせてしまってすまない。私は、ツキヨミ・ウルフットという者だ。突然だが、お前達をここへ呼んだのは、我々に力を貸してほしいからだ」


 それを聞いたクラスメイト達を、更に混乱が襲った。急に、「力を貸してほしい」などと言われたのだから。


 その後、ツキヨミが詳しい事情説明を加える。


「ここは大和帝國。この国は、数万年前にナギという人物により、建国された。それ以来、我が一族は先祖代々、この国を治め続けてきた。国は三つに分断され、それぞれタカマ、ヤヨイ、ウナバラという名が付けられている。そしてそれを、それぞれの士族が統治しているのだ。


 因みに、ヤヨイはヨヤヨイ族が、ウナバラはウカイ族が、それぞれ治めている。そしてタカマを治めているのが、我らコージ族だ。数万年もの間、我ら三族が結束してこの国を平和に守り抜いてきた。


 しかし現在、ヤマタイ族と名乗る士族が、この国を攻めて来るようになってしまった。化物を送り込んできては、この国を荒らし回っている。まずはその話からしよう。


 この国では、百年に一度、神に祈りを捧げる儀式がある。我が国の中心部にある祠に、この国で獲れた食べ物などを献上し、奉納しなければならない。我らは、ずっとその教えを貫いてきた。


 それがある日、神に感謝をしないものが増えてきたせいか、反発の声を上げる者も出てきてな。反乱が起き、それを父上が軍隊で制圧されたのだ。その者達はこの国を追われ、外に出ていったが、それがこの国を化物が襲う理由となってしまった。追放された者達はのちにヤマタイ族と名乗り、怪しい術を身につけ、化物を作り出し、この国へ送り込んでくるようになった。そして、村などを荒らすようになったというわけだ。


 奴らは復讐のために、この国を滅ぼすつもりなのではないかというような噂も後を絶たない。父上が幾度も軍隊を派遣されが、帰ってきた者はいない。そして、ヤマタイ族が兵士達を洗脳し、味方にしているという噂が流れるようになり、誰もそこへ行きたがらなくなってしまった。


 そして危機を察した父上が、人間界から援軍をお呼びになったのだ。彼らであればこの国を救えるかもしれないと、そう仰せであった。それが、お前達だ。だから、誠に勝ってだとは思うが、どうか我々と共に戦ってほしい。勝手に連れてきた償いは、必ずする。故に、どうかお願いしたい!」


 話し終えると、ツキヨミは深く頭を下げる。そうすると、生徒達からはこんな声が飛び交った。


「ふざけんな!!」

「戦争なんて、できるわけないじゃん!」

「早く家に返してよ!」


 ツキヨミはその反応を予め読んでいたのか、顔を上げると冷静な顔で言った。


「すまない、説明不足だったな。父上は、御自ら神の祠に赴き、神に祈りを捧げたのだ。その願いが神に通じ、お前達を呼ぶことに成功した、とでも言おうか。それ故、お前達を元の世界に帰す方法は、今のところ不明なのだ」


 その言葉で、すべての生徒達は「絶望」を味わった。意味が分からずに、また泣き出し始める者もいる。要するに、ヤマタイ族との戦争に雪太達を駆り出そうというのだろう。雪太は、再び明日香の方を向いた。先ほどまでとは違い、明日香は平常心を取り戻しつつあるのか、真っ直ぐツキヨミの顔を見つめている。それを見て、雪太は少し安堵した。


 ツキヨミは全体を見渡しながら、話を続ける。


「もちろん、一人ひとりの能力はある程度は底上げしてあるので心配はいらない。また、後々それなりの力は授けるつもりだ。お前達が目を覚ます前に、皆の資質、能力といったものを調べさせてもらった。それをランク分けし、六つの部隊を編成した。お前達の手首に、飾りが付いているだろう。その色が、それぞれの強さを表している」


 雪太が自分の右手首を見ると、確かに黄色の勾玉をリング状に何個も通した飾りがはめられている。それほど重くないため、今まで付けられていることに気づかなかったのだ。


 ツキヨミが言うには、部隊は「第一線」から「第六線」まであり、勾玉の色で分けられ、数字が小さくなっていくに連れ、能力が上級ということを表しているのだという。


 因みに、第一線が赤、第二線が青、第三線が緑、第四線が藍、第五線が橙、そして第六線が黄色なのだという。雪太は、改めて自分の右手首に付いている、勾玉の色を確認する。もうお分かりだろう。雪太の勾玉の色は黄色。つまり、第六線。そして雪太は、更に絶望という名の扉を開けることとなった。雪太の入れられた部隊は、最弱の部隊ということになる。


「急に連れてこられて、混乱するのは当然だろう。しかし父上は、お前達を必要とされている。そして、私達もそれは同じだ。改めて言うが、どうか、力を貸してほしい」


 ツキヨミの言葉を聞いて、皆は互いに顔を見合わせている。誰も、何も答えようとはしない。安易に、戦争に参加するなどと答えてしまうと、それはほとんど「死」を意味するからだ。無論、雪太も答えることはできなかった。その時、誰かがふと立ち上がった。


「私、戦います!」


 明日香だった。驚きのあまり、雪太はただ彼女を見つめることしかできなかった。普段は活発な男子生徒でさえも、今は気が沈んでしまっている。それにもかかわらず、明日香が真っ先に立ち上がったのだ。


「だって、どうせ帰れないんでしょ? だったら、何もやらないよりはましだよ! 怖いのはみんな一緒だけど、それでも困っている人を黙って見ているだけなんて嫌! 私一人だけでも、戦います!」


 雪太は十年余りもの間、このように強気な明日香を、未だ嘗て見たことがあるだろうか。ずっと雪太を陰ながら支え、自分が目立つようなことは一切してこなかった。本当に自分の知っている明日香なのだろうかと、雪太は疑うほどに驚いた。すると、


「私も、戦います!」


 と、学級委員の西京子も立ち上がって言う。その後、我を取り戻した生徒達が、次々と名を上げる。結果的には、半数以上の生徒が宣誓することになった。


 ツキヨミ自身も、これは予想していなかったらしく、しばらく呆気にとられていた。

 そして、


「ありがとう。隣の建物に、それぞれの部隊用に用意した部屋がある。皆、そこへ戻って次の伝達が来るまで待機していてくれ」


 と、言うのだった。


 皆、広間を出ていく用意を始めた。一方、最後まで雪太が声を発することはなかった。迷いに邪魔をされ、うまく思考が回らなかったのだ。これから、どんな試練が待ち受けているのだろう。そればかりが、雪太の頭の中にあった。


 そしてその時、雪太は見てしまったのだ。明日香の左手首で、幾つもの赤の勾玉が揺れているのを。

残りの登場人物は、少しずつ出していく予定です。

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