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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
18/37

『第一線 vs 第二線』

「絶対に何かあると思ってたんだよ。そうでなきゃ、わざわざ僕らをインヴィテーションしたりしないだろうからね」

「それで、わざわざ冷やかしに来たわけ」


 恵美は、腹がったような目を法隆寺に向けている。


「いや、君達をサポートしているだけさ。相手は第一線。でも正直言って、不良が三人もいるところに負けたくはないだろう?」

「そうだけど……。でも、あそこには明日香ちゃんと京子ちゃんもいるの。私も二人とは仲いいから、まさか一緒に戦うことになって不安もあるんだ」

「じゃあ、そういうことだから僕は行くね」

「どういうことよ! あんた、ほんとにそれだけ言うために来たの?」


 恵美は内心あきれ果てているようだ。それでも法隆寺は、陽気に言うのだった。


「まあ、僕のチームは結束力が高いからね。心配しなくて結構だよ」

「初戦の相手って、確か第六線でしょ? リーダーは郡山君だから、気をつけた方がいいかもよ」

「何故あの人が最弱グループなのか分からないけど、視野には入れておくよ。僕は第五線のリーダーだからね」


 法隆寺はそう言い残し、悠々と歩いていってしまった。恵美も、初戦が行われるフィールドへ向かうことにした。


 恵美が配属されている第二線は、他に一条、北、高田、高円がいる。仲は、正直あまりよくない。結束力で言えば、全部隊の中で一番悪いかもしれない。一条以外は女子ばかりで構成されていることもあり、特に吹部三人衆の仲の悪さは噂になっている。何故いつも一緒にいるのか、誰が見ても理解不能だ。


 ルールは竹刀を持って山に登り、相手チームと遭遇したら戦闘が開始される。どちらかが、相手の身体のどこかに竹刀を当てた時点で勝敗が決まる。敗者は、すぐに山を降りなければならない。


 第一線は話し合った結果、一旦全員一緒に行動することになった。山に登ると木の茂みに隠れ、再び相談することにした。


「流石に、五人で行動してたら奴らと出会った時、ヤバくねえか?」

「けどよ、逆に戦いやすいんじゃね?」


 瑛や広陵は、互いに囁き合っている。彼らにも、彼らなりの考えがあって行動しているのだろう。


「ど……、どうするの?」


 大淀は不安そうに、オドオドしている。


「よし、じゃあ決まり! ここで奴らを待伏せしよう! この場所で待機してりゃ、絶対来るだろ」

「ちょっと、勝手に決めないでよ!」


 広陵の発言に、京子が反発の声を上げた。


「んだよ、女が出しゃばんな!」

「はぁ? 別に関係ないでしょ。それに、ここのリーダーは明日香なんだから!」

「じゃ、じゃあ……、どうなんだよ?」


 広陵は、明日香の方を見た。好意を寄せている相手には、どうしても気を遣ってしまうのだろう。しかし、明日香は味気ない返事をする。


「私は、どっちでもいい。好きに決めていいよ」

「ほんとか? じゃあ、早速敵陣に乗り込もうぜ!」


 広陵が先ほどとは正反対のことを言うので、大淀が困惑の声を上げる。


「えぇ!? 言ったじゃん、さっきここで待ち伏せようって言ったじゃん!」

「気が変わったんだよ。おい、瑛。お前も来るだろ?」

「あぁ。さっさと終わらせるぜ」

「言ったじゃん、言ったじゃん! ここで待機するって言ったじゃん!」

「うるっせーな」


 広陵は、大淀の額にチョップする。そうすると、大淀も泣く泣く黙り込んでしまった。瑛は明日香と京子を見ると、


「で、お二人さんはどうすんだよ?」


 二人は異論があるのか、互いに顔を見合わせる。すると先に、明日香が話を切り出した。


「そうね。敵陣に乗り込んで、皆殺しにしましょう」

「うわわ、この人お淑やかそうな顔してえげつないこと言うよ~」


 大淀の言葉を無視し、瑛と広陵が言った。


「じゃあ、決まりだ。これを奴らに当てればいいんだな!」

「女子ばっかりだから、余裕じゃね?」


 二人は、得意げな表情で竹刀を振り回している。同時に、それを見ていた京子が不安げな表情を浮かべた。


「ちょっと、本気でやらないでよ? 相手、女の子なんだから!」

「わかってるよ。あと、お前ら二人はここで待機して、敵が近くに来たら応戦してくれ」


 京子に対し、広陵が言い放った。結局、男子達が相手を見つけに行くことになり、女子二人はその場に待機することになった。


「よし。行くぞ、大淀」

「お……、俺も……?」

「当たり前だ、ビビってんじゃーよ」

「そうだぞ、それでも不良か? そんなんじゃ、喧嘩で勝ち残れねーよ」

「だから、いつも言ってるじゃん! 俺は喧嘩専門じゃなくて、髪染めたり、制服着くずしたりする不良なの!」


 二人に対して大淀も言い返す。


「じゃあ、もういいよ。お前はここでこいつらの援護でもしてろ! 瑛、行こうぜ」


 広陵と瑛は敵を探しにいくために歩き出し、大淀はその場に残されてしまった。


「まったく、勝手なんだから!」


 京子が呟くと、今度は大淀を見て言った。


「で、あんたはどうするの?」

「え……。あ、うん。お、俺も行くよ!」


 結局、大淀も二人を追っていった。明日香と京子は、残って見張りを続けることにした。もしも、ここに敵の部隊が揃って来たら、とても二人だけでは太刀打ちできそうにない。相手部隊に女子が多いとはいえ、厳しいものになりそうだ。


「ほんっと、男子ってなんであぁ勝手なんだろ」


 京子は、少しプリプリしている。


「まあまあ、きっと何とかなるよ」


 明日香が、京子を宥めるように言った。しかし、京子の腹の虫はなかなか治まらない。


「どっから出てくんのよ、その自信」

「とりあえず、待ちましょう」


 明日香は木の陰から顔を覗かせ、相手が近くに来ていないか確かめ始めた。京子も気を取り直し、明日香と逆の方向に目を配る。こうして、二人は瑛達が戻ってくるまでの間、防備に専念することになった。



 一方、第二線側も同じことを考えていた。


「じゃあ、僕は相手の様子を見に行ってくるね。君達は、ここで見張りをしていてくれるかい」


 自信満々に、一条は四人に指示を出す。


「ひ……、一人で行くの?」


 恵美は、心配そうな顔で一条を見る。


「やっぱり、女の子を危険な目に遭わせるわけにはいかないから」

「危険って、ほんとに死ぬわけじゃあるまいし……」


 一条の発言に対し、高円は独り言のように呟く。


「じゃ、そっちのことは任せたよ」

「待って、私も行く!」


 今、名乗りを上げたのは恵美だ。


「やっぱり……、何があるかわからないし。何人かで行った方が、安全だと思うの」

「そうか……、ありがとう。じゃあ、ついて来てくれるか」


 恵美は一条の言葉に頷いた。そうして、恵美も一条と一緒に行動することになった。吹部の三人は、その場に残って見張りを続ける。


「何なの、あの子。カッコつけたつもり?」

「一条君も物好きだよね~」


 二人の後ろ姿を見ながら、北と高田は呟く。その横では、高円が木の枝を使って地面にイラストを描いている。その図から、陣地を守ろうとする気が微塵も感じられない。


「あんた、何描いてんの? ってか、うまっ!」

「ほんとだ、あんたって音楽以外にそんな特技あったんだ。他にも何か描いてみてよ」


 そのイラストを見て、北と高田が絡んでくる。しかし高円の返事は、


「うざい」


 の一言だけだった。


「ほら、なんか描きなさいよ!」

「うざい」

「私、猫がいいな~」

「うざい」


 その時、


「よぉ~、お前ら三人だけか? ちょうどよかったぜ!」


 という声が聞こえた。三人が声のした方を振り向くと、そこには瑛の姿があった。その後ろには、広陵と大淀も立っている。


「何か用?」


 いいところを邪魔されたとでも言わんばかりに、北が三人に冷たい視線を送る。それを見て、広陵も女子三人に言葉を投げつけた。


「何って、お前らを倒しに来たんだよ。女子だからって、優しくしないからな!」

「はぁ? べつに優しくしてほしいなんて言ってないんですけど。頭、大丈夫?」

「いや、普通そこまで言うか?」


 広陵は、半ば呆れ状態だ。すると、高田が口を挟む。


「ごめんね。この子、この世界に来てからずっとこんな感じなの。許してね」

「ってか、あんただって同じでしょ?」

「何よ、人がせっかく心配してあげてんのに!」

「そういうの、心配って言わないから! 皮肉よ、皮肉」


 敵の目の前で、急に喧嘩を始める二人。男子三人は、どうリアクションをとればよいのか分からずにいた。更には、こんなことまで言い始めた。


「ちょっと、あんた最近調子に乗ってない?」

「あんただって、この間の中間テストで私よりちょっと成績よかったからって、偉そうにすんのやめてくださる?」


 北と高田は、三人を無視して喧嘩を続行。それに対し、しびれを切らした瑛が叫んだ。


「おい! さっさと戦えや! じゃないと、こっちから行くぞ!」


 しかし、次に北から予想外の言葉が飛び出した。


「あ、大丈夫。私達、山を下りま~す」

「は?」

「だって、こんな状況で戦っても勝てるわけないでしょ!」


 高田も、怒ったように瑛に言う。それに高円も続く。


「結束力の欠片もない」


 これは、三人が一番思っていることだ。山を下りるということは、この試合を棄権することを意味している。三人は竹刀を持って、本当に山を下りていってしまった。これは、瑛達の不戦勝に等しい。止める理由もなく、瑛達は喜んだ。



 まだ昼間だが、木々が生い茂っている山の中は薄暗い。恵美は、一条の少し後ろを歩きながら呟いた。


「あの子達……、残してきて大丈夫だった?」

「どうだろうね、また喧嘩でもしてるんじゃないかな」

「最近、喧嘩ばっかりだよね。いつも一緒にいるのに、なんであんなに仲悪いんだろ」


 恵美は、三人のことを気にかけていた。この世界に来てから、疑心暗鬼になっているのかもしれないと、そう思っているのだ。その時、不意に一条が立ち止まった。


「……どうしたの?」

「……誰か来る」

「えっ?」


 耳を澄ますと、確かに小枝を踏むような音が聞こえてくる。二人は立ち止まり、気持ちを落ち着かせた。一条は竹刀を構え、いつでも戦える姿勢に入った。

 そこに現れたのは、明日香と京子だった。向こうも二人に気づき、足を止めた。


「あ……、あの……」


 明日香は、少し緊張しているようだ。


「じゃ、じゃあ……、始めましょうか」


 クラスメイトに、何故か敬語で話す明日香。そのくらい、戸惑っているという証拠だ。ここに来た経緯は、先に出ていった三人のことが気になって探しにいこうとしたら、その途中で敵の二人と出くわしてしまったのだという。

 女好きの一条は、明日香になかなか手を出せない。明日香も、相当躊躇っているようだ。恵美と京子も、形だけの対峙となっている。


 互いが向かい合って、数分が経過した時……。


「お前ら、こんなとこにいたのかよ!」


 瑛達がそう言いながら戻ってきた。


「二階堂君!」


 それを見て安心したのか、明日香の表情が緩む。

 一瞬にして、一条と恵美は五人に取り囲まれてしまった。絶体絶命とは、まさにこのような状態のことを言うのだろう。一条は勝てないことを自覚したのか、両手で握っていた片方の手を離して竹刀を下ろした。


「僕達は……、辞退するよ。勝てないと分かっていて戦うほど、僕は馬鹿じゃないからね」


 一条が三人を素通りし、山を下りていくと恵美も急いで彼を追いかけていった。三人はそれを止めようとしなかった。明日香もまた、その様子を後ろからただ見つめているだけだった。


 結局、この試合は第一線の勝利に終わった。試合の後、第二線のメンバーは互いに無言だった。勝てなかった一番の要因は、仲間関係が悪かったことだと誰もが感じていた。その噂は、翌日までに全部隊にまで広まった。



「いやぁ、残念だったね~。君達なら第一線に勝てる可能性があったのに、勝手にスーサイドしたようなものじゃないか。これじゃ、もう第一線の優勝は決まったようなものだね!」

「あんたんとこも結局、負けたの?」

「ひどい番狂わせだよ。一番弱いチームに負けたから、肩身が狭いよ」


 負け惜しみにしか聞こえない法隆寺の言葉を、恵美も適当に聞き流していた。しかし、それを聞いて恵美は第六線に興味を持った。今度、リーダーの雪太に話しかけてみようと思った。そして、何かアドバイスしよう。法隆寺と別れた後、恵美も部屋に戻っていった。是非とも、第六線に優勝してほしい。その薄い可能性を、期待していたのかもしれない。

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