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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
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『雪氷藻類』

 神力を得てから数日が経ち、雪太は毎日それを使った訓練に参加した。手に入れて間もなくは、力を上手くコントロールできないとツキヨミは言っていた。だから、まずは強弱を身につけることから教わった。担当のアメノーシは、メンバー一人ひとりにアドバイスを行ったりした。


 また、使い手によって効果が変わるという弓矢は、後から聞いたところ、「神矢じんや」というらしい。それを射る練習も行った。光河はまた、矢を焦がしてしまったが、上手くなれば矢を焦がさず、敵だけにダメージを与えることも可能なのだという。雪太含め全員、まだその力をコントールできていない。上手く扱えるようになるには、まだまだ時間が必要だとも言われた。


 話は変わるが、雪太はここ数日間、他の部隊にいる生徒達からの眼差しが、より冷たくなったように感じていた。その日も訓練が終わり、雪太は建物の廊下を歩いていたのだが、すれ違う生徒達は皆、睨むようにして過ぎていく。その原因は、雪太も自覚している。

 部隊分けは、一人ひとりの潜在能力を値化して行われた。つまり、第一線は潜在能力が高く、第六線は最も低いということになる。雪太のように例外も存在するが、それは他の生徒達は知らない。だからおそらくは、最弱組がどの部隊よりも早くに神力を得たことが気に食わないのだろう。


 第三線の五條や御所などは、明らかに不満そうな顔を向けてくる。紗矢香も、雪太の顔を見ると目を逸らしてくる。まるで、避けているかのように。雪太はこれから先も、この空気に耐え続けていかなければならないのかと思うと、少し気が重くなった。


 気分を紛らわすため、外の空気を吸いに行くことにした。そんなことを考えていると、雪太に話しかけてきた生徒がいた。


「やぁ、奇遇だね」


 振り向くと、一条が壁にもたれかかっている。一条のいる第二線は一回戦で負けているから、雪太達とは戦っていないのだ。久々に聞く、人を見下したような言い方は、雪太の気持ちを更に暗くした。


「何の用だよ」

「まぁ、そう不機嫌にならないでくれよ。ちょっと確かめたいことがあってね」


 一条は、行き場を塞ぐように雪太の前に立った。それにしても、何を確かめようというのだろうか。第六線が不正をして神力を手に入れたとか、根も葉もないことを言うつもりかもしれない。雪太がそんなことを勝手に想像していると、一条が尋ねてきた。


「君達が神力を得たって言うのは、本当かい?」

「あぁ。お前、もしかしてあの時、あそこにいなかったのか?」

「まあね。順当に、第一線が勝つと思ってたからね。君達が決勝まで進んだのも、まぐれに他ならないと考えていた。普通に考えて、最弱組が第一線に勝てる方がおかしい」


 やはり、裏で誰かが手を回していたとでも言いたそうだ。雪太はそう確信したが、一条は思わぬことを口にするのだった。


「で、もしかしたら部隊分けは、能力を数値化して振り分けただけじゃないと思ったんだ。君は運動神経もいいし、残念だけど僕より頭もいい。そんな君が、何故第六線にいるのか、ずっと不思議でならなかったんだ。平城君も同じようなもんさ。ひょっとしたら、君には重大な欠点があるんじゃないかな。この世界で生き残っていく上で、致命的な欠点が」

「なんで、それを……」

「勘だよ。どうやら、当たっているようだね。まぁ、聞いたんだけどね。君、あれだろ? 小さい時、両親を殺されてるんだってね」

「……誰から聞いた?」

「桜井さん。君の幼馴染らしいから、何か知っているんじゃないかって思ってさ。まぁ、多目に見てくれると嬉しいな。呼び止めて悪かったね」


 言い終わると、一条はどこかへ消えてしまった。雪太の心拍数は、急激に上昇している。今にも、体内から何かが飛び出してきそうだ。あの日、雪太が帰宅すると家は地獄と化していた。その後、家を襲った強盗犯は捕まったが、雪太は帰る場所を失ってしまったのだ。それから程なくして、母親の姉の家に引き取られた。


 雪太は外に出ると、風に当たった。建物の側に座り込み、心を落ち着かせた。あの話を、まさか一条から聞くとは思わなかった。明日香も、何故話したのだろう。確かに幼馴染ということもあり、明日香は雪太の事情を知っている。それでも、赤の他人に教えなくてもよかっただろうに。雪太は、深く溜息をつく。

 その時、誰かの気配を感じた。誰かというよりは、複数の視線を感じたと言った方が今は適切だろう。顔を上げると、雪太はいつもの三人に囲まれていた。


「よう、こんなところで何してんだ?」


 瑛はまた、ニヤニヤしながら雪太を見下ろしている。その横では広陵も、


「お前、なんか最近調子乗ってね? まぐれで俺達に勝てたからって、自分は強いとでも勘違いしてんだろ」


 と言い、バカにしたような笑みを浮かべる。勘違いしているのはどっちだと思いつつ、雪太は無言のまま三人を見つめ返していた。それが気に食わなかったらしく、瑛の表情が怒りの表情へと変わる。


「おい、何か文句あんのか!」


 瑛は雪太の襟を掴むと、拳を振り上げた。これは八つ当たりだろう、と雪太は思った。そして、瑛は振り上げた拳を雪太目がけて振り下ろしてくる。どうやら、本気のようだ。雪太は咄嗟に、その拳を受け止めた。その時、雪太にとっても想定外のことが起きた。

 受け止めたまではよいが、なんと瑛の拳が凍り出したのだ。


「な……、何だよこれは!」

「瑛君、大丈夫?」


 隣にいた大淀が、驚きでグラついた瑛の身体を支えた。それが更に怒りに火をつけたのか、今度は広陵が雪太の襟を掴む。その時、近くから別の声が聞こえた。


「うるさいなぁ……」


 近くの草むらで、むくりと誰かが起き上がる。光河だ。光河は、ここで寝ていたのだ。今までずっと草むらに隠れていたため、雪太も今まで気づかなかった。光河は欠伸をすると、雪太が広陵達に絡まれていることに気づいた。


「あれ、何してんの?」

「あ? 文句あんのかよ。こいつ、瑛の手を凍らせやがったんだよ! てめえも、文句があるって言うなら相手になるぞ!」


 広陵は言うが、瑛は未だに放心状態だ。それを、大淀が心配そうに支えている。光河も、それを見て理解したようだ。


「ふ~ん。でも、それって、お前らに非があるんじゃないの?」

「あ?」

「何? 違う? 雪太は何もしてないでしょ。またお前らが難癖つけて、絡んでただけなんだろ?」

「はぁ? こいつのしたことも許されねーだろ!」

「神力は誰でも、最初は上手く扱えないから仕方ないよ。とりあえず、安眠妨害でお前らを処分したいんだけど。俺も、自分の力を上手くコントロールできてないから、どうなるか分かんないよ? お前ら全員燃え尽きるかもしれないけど、それでもやる?」


 光河は、右手に炎を灯して見せた。それはボウッと燃え上がり、周りの草木に燃え移れば山火事になり兼ねない。それに恐れをなしてか、三人は怖気づいた様子を見せ、慌てて逃げていった。それを見計らい、光河は火を消した。

 その後、光河は雪太の隣に座った。雪太も、光河に助けられるとは思っていなかった。あの状況を打開するには、かなりの勇気がいたに違いない。雪太には、光河に対して感謝の言葉もなかった。更に、光河は何故か雪太にすり寄ってきた。


「雪太、冷たくて気持ちいい……」


 雪太は氷人だから、身体も他の人間と比べると冷たくなっているのだ。雪太にとっては嫌だったが、助けてもらったのだから仕方がないと何も言わないことにした。光河は雪太の肩に寄り添ったまま、また眠ってしまった。


 その後、雪太はその場を動かずに考えた。この力は、神からの贈り物だ。絶対に上手く扱えるようになってみせる。スノーも言っていたが、この力を使いこなせるかどうかが、大切なのだ。明日からもまた、訓練がある。この国を守るために、まずは自分達が周りを率いていかなければならない、と雪太は気持ちを新たにした。神力を最初に手に入れた者として、大和帝國で暮らす人々のためにも、そうしなければならないだろう。



 一方、ここは大和帝國から幾里離れた場所。勢力を伸ばしていたヤマタイ族は、小さな都市を形成していた。屋敷の一角では二人の人間がいて、何やら話し合いのようなものをしている。


「ねーねー、召喚者って知ってる?」

「召喚者?」

「なんかねー、帝國の国王のイーザが呼んだんだって」

「へえ、そんなことしても無意味なのにね」

「でもでもー、私戦ってみたいなー」


 興奮気味で話しているのは、キトラという少女だ。


「はいはい、まだヒーミ様のお達しがないから、勝手なことしたら大目玉よ?」

「でも、タカマツヅカ姉さんだって暇そうにしてるじゃん。今だったら神力もろくに与えられてないから、余裕で勝てると思うよ!」

「でも、それじゃ却って尻込みしちゃうわね。キトラ、こっち来て」


 タカマツヅカという女は、キトラを連れて部屋を出ていった。屋敷の外では、人が化物を操っている。ヤマタイ族は、度々帝國を襲っていたのだ。そして、その魔の手は確実に雪太達にも迫っていたのは言うまでもない。

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