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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
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『授けられし力』

 結局、神力が与えられる権利は第六線が得ることになった。他の生徒達からは反発の声が上がったが、それらは結局皆無視された。それも、大和帝國の国王であるイーザが直々に判断を下したのだ。引き分けという概念が存在しないこの国では、仕方がないのかもしれない。


 その後、第六線のメンバーはツキヨミに連れられ、「神域」と呼ばれる場所に来た。神域は帝国の地下にあり、そこは巨大な鍾乳洞のようになっている。階段を降り、中に入ると岩でできた巨大な台座が目に映る。

 そこの前まで来ると、ツキヨミは五人の方を振り返る。


「神力については、以前にも話した通りだ。誰でも、すぐに手に入れられるものではないことを、十分に心得ておいてくれ」


 五人も、そのことは十分に心得ているつもりだ。その時、春也がまた話をし出した。


「因みに、神力にはいくつかの型があるらしいよ」

「型って?」


 由佳も、興味ありげに尋ねる。


「そう。神力の種類は大きく分けて五種類。火生、氷成、緑心、光放、そして天操。それらの力はすべて、三つの型に分けられるんだ。一つは、攻撃型。名前の通り、攻撃メインの神力さ。この中では、火生と氷成がこの型に当てはまるね。


 次は、特殊型。攻撃型と違って、相手の能力を制御できるんだ。攻撃型と組み合わせることで、戦闘を有利に運べるそうだよ。光放と天操がそれに当たるね。


 最後は保護型。これは、緑心のみ保護型に分類される。神力の中では唯一、あまり戦闘向きじゃない。保護型、つまり緑人は仲間の傷を癒やしたり、敵から逃げる時に地面から木を生やしたりして、相手の行く手を塞いだりもできる。そうだよね、ツキヨミさん」


 言い終えると、春也はツキヨミの方を見る。ツキヨミは、


「何故君がそこまで知っているのか知らないが、まあいい。その通りだ。おかげで、説明する手間が省けた」


 と、少々呆れ気味に言う。

 おそらく、春也はまた書斎に忍び込んでは隠れて調べていたのだろう。その熱心さを、勉強にも生かせないものかと雪太も内心呆れていた。


「それで……、君達五人にその力を与えようと思うのだが……。残念ながら、どの神力を得るかは本人には選択の余地はない。その人物の身体能力、記憶、性格などに反省されると言う者もいるが、詳しいことはまだ分かっていないのだ。つまり、どれを授けられるかは神次第ということだ」


 どの神力を習得するかは、誰にも分からない。「神任せ」とはよく言ったものだと、雪太は思った。その時、雪太の耳には予想外の言葉が飛び込んできた。


「では雪太、君からあそこに立ってくれ」


 なんと、ツキヨミが目の前の台座を指さし、最初に雪太を指名したのだ。雪太も、何故自分からなのか分からなかった。初めは、リーダーだからかと思ったが、実際はそれだけではなかった。


「君がいなければ、この部隊は優勝できなかっただろう。その代表として、君に一番最初に神力を与えたいと思う」


 ツキヨミは言うが、雪太は何故か気乗りしなかった。最初となると、それなりに不安だ。神力がどういうものかを、まだよく理解していない。


「雪太。ツキヨミさんの言う通り、君が最初に行くべきだよ」

「私もそう思う。郡山君がいなかったら、一回戦で負けてただろうしね」


 横を見ると、春也や由佳も笑いかけてくる。一回戦に関しては、雪太は特に何もしていないのだが、それはあまり言わないでおこう。


「俺は……、最後でいい……」


 しかし結局、断ってしまった。すると、


「じゃあ、俺が」


 と言いながら、光河が前に出てきた。光河こそ、何もしていないだろうと皆は思ったに違いない。挙げるとするならば、第三線との合戦の時、五條と御所を二人同時に瞬殺したくらいだ。

 雪太が拒んだ以上、仕方ないので、光河が先にやることになった。言われた通り、光河は台座の上に立った。


「どんな感じ~?」

「なんか、すげー力が漲ってくる感じ!」


 春也が尋ねると、光河は興奮気味に答えた。その様子から、どうやらそれは本当らしい。その時、急に台座が青色に輝き出した。


「少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ」


 ツキヨミは、光河に話しかける。すると、光河の足元に模様が現れた。この時、光河は何かが自分の体の中に入っていく感覚を味わった。やがて、その光は治まった。


 光河が台座から降りてくると、ツキヨミは弓矢を渡した。そして、これを的にいるように指示した。見ると、神域の中にはいくつも的が用意されている。雪太は最初、これらは一体何に使うのかと思っていたが、それで神力を確かめるということだろうか。


 言われた通り、光河は弓を構えると的に狙いを定めた。そして、勢いよく矢を飛ばす。その瞬間、矢に火が点いたのだ。そのままその矢は、的の中央を射ると燃え尽きて消えてしまった。皆、その光景に釘付けになった。


「君は火の神力、つまり‘火生’を修得したようだ。この弓矢は、使う人間によって効果が変わってくる」


 ツキヨミの話を聞き、皆は納得した。やはり、これは神力を確かめるためのものだったのだ。


 二人目は、春也だった。春也が台座に上がると、また光り始めた。そして模様が現れるが、今度は光河の時とは少し違う模様だった。

 春也も降りてくると、ツキヨミから渡された弓矢を引いた。矢を放った瞬間、カメラのフラッシュの十倍はありそうな光が、神域に一瞬だけ広がった。皆は目を瞑り、開けると矢は的ではなく、傍の岩に刺さっていた。安定の的外しである。

 春也は光の神力、‘光放’を得た。つまり、光人と呼ばれる神力使いとなったのだ。その後も、一人ずつ台座に上がっては自分の神力を確かめた。


 そこで麻依は天人、由佳は緑人だということが分かり、いよいよ雪太を残すのみとなった。雪太は、緊張しながらも台座に上がった。するとすぐに、台座は青く輝きを放った。これまで見てきた誰よりも、眩い光に神域全体が包まれる。雪太はその時、まるで雪女にでも襲われたように、自分の身体が冷えていくのが分かった。光は消え、雪太は台座から降りた。


 そして皆と同じく、ツキヨミから弓矢が渡される。雪太はそれを受け取り、的に狙いを定めた。手を離すと矢が宙を舞い、的を射た瞬間、それが凍りついたのだ。よって、雪太は‘氷成’という神力を手に入れたことが分かった。


 これで全員が無事、神力を手に入れたことになる。見事に五人は、それぞれ違う神力を手に入れたのだ。ツキヨミも、これは予想外といった表情をしている。


「これにて終了だ。明日から、訓練の方法なども変わってくるだろう。詳しい話は、明日にでも話す。ひとまず、心の準備だけはしておいてくれ」

「ところで、今のでどれだけの資源を使ったんですか?」


 春也が尋ねた。神力は、国の地下に眠っている資源エネルギーを人間の体内に流し込むことにより、生成されるのだ。


「おそらく、全体の三分の一ほどだろう。資源は毎日少しずつ生成されるが、神力を全員一斉に与えるとなると、すぐに底が尽きてしまうからな。だから部隊同士を戦わせ、力量を確かめたのだ」


 ツキヨミは語る。確かに資源がなくなれば、この国の人々は困ってしまうだろう。神力は誰でも得られるわけではないというのも、今となっては頷ける。更に、ツキヨミは背を向けながら話した。


「私は、君達に期待していた。君達なら、きっと他の部隊に勝ってくれると。今思えば、それはただの過大評価だったのかもしれない。しかし私は、君達を信じ続けた。そして、その期待を裏切ることなく、君達は勝ち残ってくれた……」


 そして、また五人の方を振り向き、


「私の勘に、狂いはなかったということだな」


 と言ったツキヨミは、これまでにない優しい表情をしていた。そこには、嘘は一文字も含まれていないということが伝わってくる。皆も互いを見て、笑い合った。今まで消えていた笑顔が、また戻ってきたようだ。もしかしたら、こんなに笑い合えるのは今だけかもしれない。だが、その「今」という時間を大切にしたい。皆、そう願っただろう。



 雪太は部屋に戻ろうと、森の中を歩いていた。あの後、他の四人は先に帰ったが、いつものように雪太だけが残り、ツキヨミから様々なことを聞いていた。この国を度々襲ってくる、ヤマタイ族という種族について詳しく聞いていたのだ。そのせいで、帰りが遅くなってしまった。


 この神力を生かし、どのように戦っていけばよいか歩きながら考えていた。その時……。


「おい!」


 そんな声がするので、下を向いていた雪太は顔を上げた。目の前で、スノーが仁王立ちしている。


「なんだ、お前か」

「なんだとは何だ!」

「何か用か?」

「お前んとこの部隊、優勝できたんだってな。やっぱり、おいらの特訓のおかげかな~」


 相変わらず、とても女とは思えない口ぶりだ。


「それより、お前の神力って何だったんだ?」

「氷……」

「おぉ、流石アイス!」

「だからその呼び方やめろよ……」


 雪太が言うのを無視したかと思えば、スノーは雪太の手を引っ張ってきたのだ。


「よし、じゃあ奴隷、こっちに来い!」

「だから奴隷じゃ……」


 言い終わらないうちに、雪太はスノーに引っ張られていった。一体どこへ向かうのか、気になったが敢えてきかなかった。どうせ、帰っても夕食をとって寝るだけだ。


 スノーに連れて来られたのは、森の奥にある湖だった。


「よし。じゃあ、この水面に両手を置いてみろ。そして、『氷結』って唱えるんだ!」


 スノーが、荒々しく命令する。やはり、雪太のことを自分の奴隷だと思っているらしい。雪太も仕方なく、言われた通りにしゃがみ込むと、水面に手を置いて唱えた。


「氷結……」


 すると、雪太の手の周りから水が突然凍り始め、見る見るうちに湖全体にまで広がっていった。予想外の出来事に、雪太は驚きを隠せない。自分でしたことながら、感動すら覚えるほどだった。


「これがお前の力だよ。神力っていうのは、これだけ絶大な力があるんだ。それを上手く使いこなせるかどうかが、大切なんだ」


 後ろから、スノーが話しかけてくる。スノーは雪太に神力の強さを伝えるために、ここに連れてきたのだろう。この力を使いこなせるかどうかで、その人物の力量がどれくらいなのか分かる。それは、雪太も薄々勘付いていた。持っているだけでは、宝の持ち腐れというのだろうか、価値がない。

 雪太は、再び決心を固めた。この力を上手く使おう、そしてこの国を守ろう。そう約束したのだから。

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