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DAIWA戦争 〜異世界古事記〜  作者: 葉之和 駆刃
第一篇 雪氷苦闘
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『.vs 第五線』

 部隊同士で合戦をすることになり、クラスメイト達は各部隊で演習を行っていた。それは、雪太達も例外ではない。皆、これを「線別対抗合戦」という名で呼び、それぞれ必ず勝ち進んでやると意気込んでいた。


 第六線の演習を担当するのは、アメノーシだ。


「これから、皆には瞬発力を身につけてもらう。これは、戦闘においてかなり重要な能力になってくる。力さえあれば何とかなるみたいな、甘い考えではいけないぞ」


 そう言うとアメノーシは、車輪の付いた木板のようなものを出してきた。それを地面に置くと、雪太達に言った。


「これに乗り、丘を滑り降りてくれ。その途中に、様々な障害物を用意した。それを、各々熟していってほしい」


 要するに、この板をスケートボードのように使い、障害物を突破しろという意味だろうと雪也は理解した。皆、不安そうに顔を見合わせている。見本もなしにやれと言われても、無理と言わざるを得ない。


 雪太は横に目を配ると、光河が寝ている。何処でも寝られるのかと呆れながら、雪太は揺すり起こす。しかし、光河はムニャムニャと言いながら起きる兆しを一向に見せない。アメノーシは、「放っておけ」と言わんばかりの目線を雪太に送る。光河は運動神経で言えば、クラスでもかなりの上位者だ。しかし、やる気が起きるまでに時間がかかる。それ故に、第六線に入れられたのだろう。


 話を戻すが、他のメンバーはなかなか腰を上げようとしない。板に乗って丘を滑り降り、その姿勢のまま題をクリアしていくとなると、かなりの運動神経を要するだろう。これは、第一線でも苦戦しそうな訓練だ。


「これ、無理じゃない? 私、ほとんど運動できないし」


 とうとう、由佳が不満を漏らす。


「こんなのは雪太か、やる気になった平城君しかできないよ」

「走るだけならできるんだけどな~」


 春也と麻依も、それには同感のようだ。これでは、訓練が一向に進まない。雪太は心を決め、立ち上がると木板を手にした。


「雪太、やるのかい?」

「あぁ」


 自分が率先してやらなければならない、雪太はそのような使命感に駆られた。その時、遠くから銃声のような音が聞こえた。それは、突き刺すようにして雪太の耳に入ってきた。近くで、どこかの部隊が演習を行っているのだ。


「射撃練習かぁ、羨ましいなぁ」


 銃声を聞きながら、春也がそう呟く。雪太は構わず、木板を足元に置く。その時、隣に光河が来た。どうやら、今の音で目が覚めたらしい。

 雪太と同じように木板を自分の足元に置くと、それに乗った。そして、強く地面を蹴ると、丘を滑り降りていく。


 途中には、いくつもの的が数メートル置きに並んでいる。手に持っていた弓矢で狙いを定めると、すべての的の中心を正確に打ち抜いていく。地面が平らになると、光河は足でブレーキをかけて止まる。それを見ていたアメノーシは、感心しながら拍手を送った。


 スピードを落とさずに、すべての的に矢を当てるのは相当の身体能力がある証でもある。雪太も、それを見て嫉妬心を燃やした。そして、同じように丘を滑り降りながら、正確に的を射抜いていった。雪太の放った矢も、すべて中心近くに突き刺さった。アメノーシは、雪太に対しても拍手を送っていた。


 その後、残りの三人もチャレンジしたが、麻依は一本しか中てることができず、由佳と春也に至っては、矢を飛ばすどころか途中で転んだりしていた。


 訓練はさらに続き、今度は大きな広場に連れて来られた。そこに、いくつか土器を埋めたとアメノーシは語った。土器が埋まっているところを予想し、掘り当てるという訓練のようだ。これは、感覚神経を強化するものらしい。また、敵がどこに隠れているかを予測することにも直結するそうだ。


 合戦が行われるまで、このようなことを延々と繰り返しやらされた。今までとは違い、早朝から日が暮れるまで行う。皆はヘトヘトになりながらも、休む間もなく訓練に励んだ。



 そして、とうとう合戦前日となった。この日は早めに終了し、残りの時間は休息にあてるよう、アメノーシは指示した。しかし、雪太だけが残って自主練をするのだった。少しでも強くなりたい、その気持ちが消えることはなかった。

 そこへ、春也が声をかけてくる。


「やぁ、雪太は真面目だね。俺は、さっさといぬまわり(帰る支度)して、先に戻ってるよ。君も、明日に備えて休んだ方がいいと思うな」


 春也の言う通り、雪太もその日はいつもより早く切り上げることにした。初戦は明日だ。合戦はトーナメント形式になっており、隣り合わせの部隊同士が戦う。


 第一線と第二線、第三線と第四線、そして第五線と第六線がそれぞれ戦うのだ。雪太達の初戦相手は、第五線。一つ上の部隊とはいえ、気が抜けない相手だ。


 因みにメンバーは、リーダーの法隆寺ほうりゅうじ大志たいしに加え、高取たかとり国才くにとし十津川とつかわすばる大宇陀おおうだ祐子ゆうこ、そして登美とみ紗矢香さやかとなっている。皆、それぞれ特有の仏力を解放させたという話を、雪太は春也から聞いていた。


 例えば、他人の考えを読むことができる「読心とくしん」、人が出す波長を感じとれる「感知」という仏力は厄介だ。合戦中、仏力を使ってはならないという決まりはない。そうなると、第六線はかなり不利な状況となる。今のところ、光河が解放させた「治癒」という能力だけが、唯一の仏力だ。べつに刀で戦うわけではないから、全く使わない仏力と言ってよい。


 春也が情報通だということはさておき、果たして勝ち目はあるのだろうか。そんなことを考えながら、雪太は部屋へと戻っていった。


 部屋の戸を開けると、そこにはなんとウヅメがいた。


「あ、雪太様。お帰りなさいませ」

「どうしたんだ?」

「あ。なんかね、服を洗濯してくれるみたいだよ?」


 春也が、事情を説明する。


「合戦のこと、スノー様からお聞きしました。なので、わたくしも何かお役に立ちたいのです。洋服の洗濯は経験がありませんが、それでも一生懸命やらせていただきます!」


 雪太は、どう答えたらよいのか戸惑ってしまった。初戦は明日だというのに、間に合うのだろうか。しかし、ウヅメの目を見ると断るに断れない状況だ。すると、春也が言った。


「まぁ、雪太の学ランは汚れが目立つからね。洗ってもらった方がいいよ。俺はブレザーだからいいけど」


 するとウヅメも、こう言うのだった。


「ご安心ください。今から干したら、明日の朝には乾きますから!」


 ウヅメが真剣に雪太を見つめてくるので、雪太もそうすることにした。今日はもう休むだけだ。あとは、ウヅメを信じて待つしかない。雪太は、制服をウヅメに渡した。ウヅメも、それを快く受け取ってくれた。


「では、明日の朝にお持ちしますね!」


 ウヅメが部屋を出ていった後、雪太はベッドに横になった。勝てるのだろうか、そればかりが脳裏に現れる。目を閉じ、精神を落ち着かせた。そして、いつの間にか深い眠りに落ちていたのだった。



 そして、朝陽が昇る。それと同時に、ウヅメが雪太の制服を持ってきた。それを雪太に渡すと、


「頑張ってくださいね」


 とだけ言い、また出ていってしまった。


 広場には、他の部隊が集まってきている。第六線も、そこに出向いた。そしていつもと同じように、複数の生徒からは軽蔑の視線を向けられる。最弱組が勝ち残れるはずがない、とでも言わんばかりの眼差しだ。


 しかし、唯一親交的な目を向けてくる者がいた。明日香は雪太に近づいてくると、


「雪ちゃん、いよいよだね。優勝できるよう、頑張ってね。私も、精一杯頑張るから」


 と、微笑んだ。そして、ブレザーのポケットから何かを取り出すと、雪太に渡した。


「これ、何かあった時に役立てて」


 それは、絆創膏だった。どこまでお節介なのだと思いながらも、これが明日香の優しさなのだと実感しながら、雪太はその絆創膏を受け取った。それを見て、瑛や広陵がしきりに睨んでくるが、明日香は気がついていないようだった。


「じゃ、戻るね」


 明日香が戻っていくと、今度は春也が来て言った。


「いやぁ、やっぱり明日香は優しいね。敵の雪太にくれるなんて」


 明日香のその性格は、今に始まったことではない。思えば、それに何度助けられたことだろう。両親を亡くし、未来に絶望していた雪太に、それまでと変わらぬ態度で手を差し伸べてくれた。それほど、雪太にとって明日香は大きな存在だった。


 その後、ついに合戦がスタートし、雪太達は第五線のメンバーと向かい合った。初戦は、そこから少し離れたところにある、古墳のような山で行われる。周りが池に囲まれており、小さな山が水面に浮かんでいるといった感じだ。


 ルールは、簡単に説明すると次のようになる。その古墳には、合計で三十三個の銅鏡が埋められているのだという。それを、時間内により多く見つけた部隊が、次のステージに進める。

 土器を見つける訓練に使った場所は、学校でいうとグラウンドを半分にしたような広さだった。面積で言うと、その十倍はあるだろう。無闇に掘っても、見つかるはずがない。


「それでは、開始!」


 アメノーシは手を挙げ、号令をかける。それをきいた瞬間、皆は一斉に走り出した。この戦いには、制限時間があるのだ。少しでも、先に戦地に赴いておきたい。


 古墳までは、数台のボートが用意されている。二人と三人に分かれ、それぞれボートに乗りこむと古墳へと向かう。


 着くと、早速銅鏡探しが開始される。どうやって探せば効率的か、皆は考えを巡らせた。しばらく歩くと、早速敵の第五線と遭遇する。


「オー、君達。銅鏡は見つけられたかい?」


 先に、向こうから話しかけてくる。癖毛が特徴の法隆寺という男子生徒だ。雪太達は、嫌な顔をする。それを見て、あちらも察したようだ。


「あ、ごめんごめん。でも悪いね。ヴィクトリーを掴み取るのは僕らだよ」


 法隆寺が言うと、今度は雪太を指さした。


「何故、君のような人が第六線にいるのかストレンジなんだけど、それでも僕らが負ける理由は一つもないね。まぁ、多少のミステリーがないと面白くないけどね!」


 流石は帰国子女、といった口ぶりだ。すると、法隆寺の後襟を誰かが掴んだ。


「おい、いつまで喋っとんねん。ほら、行くぞ」


 それは、法隆寺と同じく第五線の高取という生徒だ。


「わかった、わかった! 引っ張らないで、ユニフォームが伸びちゃうよ~」


 そして法隆寺は、高取に引きずられていった。雪太達は、呆れながら見ていた。先程の意気込みが、台無しにされてしまったような気がしてならない。


 気を取り直し、雪太は歩き出そうとした。その時、


「待って!」


 という声が聞こえ、振り返った。その声の主は、麻依だった。麻依は何かを感じ取ったように、自分の両耳に手を当てている。


「何か、音が聞こえる……」

「何の音?」

「金みたいな音」


 春也が尋ねると、麻依は答えた。しかし、他のメンバーは聞き取れなかった。すると、春也が思い出したように話し始める。


「そう言えば、ツキヨミさんの書斎に忍び込んでいた時、読んだ文献があるんだけどさ、そこに仏力のことが色々と書かれてたんだよね」


 春也が話すには、その中に金属の擦れる音を聞き取れる、「銅聴どうちょう」という能力についても書かれていたという。これがあれば、剣などの武器を持つ敵の居場所を探る時に、かなり便利だ。ある程度近くに来なければ発動されないが、仏力の中でも一部の人間にしか解放されない希少な能力だと、春也は語った。


「まさか、ここに来て仲間がその仏力を解放するなんてね~。ほんと、何が起きるかわからないよ。俺達でも、勝機はあるんじゃないかな」


 今ので、春也もやる気になったようだ。もしそのことが本当だとしたら、近くに銅鏡が埋まっているかもしれない。雪太は、試しに近くの土を掘ってみた。すると、あったのだ。光を反射する鏡のようなものが、地面から出てきた。


「よし、この調子で掘っていこう」


 春也は、皆を鼓舞し始める。すると、由佳が言った。


「そういえば、相手は数手に分かれてたみたいだよ」

「じゃあ、俺達もそうしよう。みんな、別々に行動しながら連絡を取り合うんだ。みんな、あれは持ってるね?」


 「あれ」というのは、仲間同士が連絡を取り合う際に使うための、電話型の機械だ。現代で言うと、トランシーバーのような役割をする。試合が始まる前、全員にツキヨミから渡された。これにより、どこにいても仲間と連絡が取れるというわけだ。


 春也の提案通り、五人はバラバラに行動することになった。


「じゃあ、銅鏡を見つけ次第、逐次俺に伝えて。あと、添上さんはバンバン仏力使っていいからね」


 リーダーは雪太であるにもかかわらず、春也は得意げに指示していた。


「わかった、じゃあね」

「またあとで」


 五人は、それぞれに散らばった。雪太も一人、足を進めた。予測する訓練は行ったものの、どこに埋まっているのか全くわからない。しかし、それは相手の部隊も同じだろう。あとは、麻依にかけるしかない。「銅聴」の仏力を持っている者が一人いるだけで、だいぶ心強かった。


 途中、第五戦の大宇陀という女子と、十津川という男子とすれ違った。二人は、一緒に行動しているようだったが、特に気にすることはない存在だと思い、スルーした。相手で特に警戒するべきなのは、何といっても法隆寺と高取だ。「銅聴」がないとはいえ、二人とも感覚には優れているからだ。


 しばらく歩くと、蹲っているポニーテールの女子が見える。麻依と由佳は髪を下ろしているため、味方でないのは明白だ。更に近づくと、顔がはっきりとする。紗矢香だった。足を見ると、流血している。きっと、どこかで擦り剥いたのだろう。それを見て、雪太は声をかけてみる。


「転んだのか?」


 すると向こうも雪太の存在に気づき、黙って立ち上がった。


「大丈夫。ちょっと擦り剥いただけ」


 それにしては、血の量が多い。放っておけば、菌が体の中に入ってしまう。山の周りは池だったはずだ。雪太は紗矢香に、


「ちょっと待っててくれ」


 と言うと、山を降りた。そして、手で池の水を救うと、零さないように紗矢香のところまで運び、紗矢香の足にかける。


「痛っ!」


 最後に、明日香からもらった絆創膏を貼り付けて完了だ。


「これで大丈夫だ」

「なんで、こんなことまでしてくれんの?」


 紗矢香は、疑問そうな顔で雪太を見てくる。雪太自身、困った人を見ると敵であろうとどうしても放っておけないのだ。自分が助けられたから、少しでも誰かの助けになりたいだけかもしれないが。


「まぁ、強いて言うなら、クラスメイトだからな」

「そう……。でも、負けないから。私だって、神力が欲しい。だから、格下の部隊に負けるわけにはいかないの。だから、これで媚び売ったとか思わないでね」


 紗矢香は雪太に礼も言わず、向こうに歩いていってしまった。そこで、自分だけでなく他の皆も必死なのだと実感するのだった。


 その後、春也から合計で十八個の銅鏡が見つかったという連絡が入った。最初に聞いていた個数は三十三個だったため、そこで雪太達の勝利は確定した。


 合戦終了の合図が鳴り響き、雪太は山を降りた。広場まで戻ると、そこに紗矢香の姿もあった。雪太は声をかけようと近づいたが、紗矢香は無視して向こうへ行ってしまった。あの時、格下の相手に負けるわけにはいかないと言っていた紗矢香の気持ちを、雪太は察した。


 しかし、勝負は勝負だ。第六線は、二回戦へと駒を進めることができた。次の対戦相手は、第三線か第四線。どちらが勝ったかはまだ聞かされていないが、大体は予想できた。第四線は、他の部隊に比べて一人メンバーが少ない。その分、最初からかなり不利な状況だった。よって、第二戦に進んだのはおそらく第三線だろう。


 二回戦は明日だ。今日もまた、ゆっくり疲れを癒した方がよいと担当のアメノーシから釘を刺された。雪太も、今日はそうすることにした。それより、明日香達はどうなったのだろう。第一線と第二線は、一回勝てば決勝に残ることができる。故に、明日香達は無事に決勝まで進めたのだろうか。そうならば、雪太も次勝てば明日香のいる第一線と決勝をすることになる。


 空を見上げると、太陽がいたずらに帝國中を照らし続けていた。

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