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(十一)「ぬ」の問題

 今回は予定を変更して、「ぬ」単独の問題について書かせていただきます。当初は付録として最後に付けるつもりだったのですが、次から「ぬ」を使った大量の例文が出てくるため、ここに入れておくことにしました。

▼「ぬ」を使用する上での問題


 完了の助動詞「つ」と「ぬ」において、私は個人的に「ぬ」の終止形「ぬ」だけの使用を強く推奨いたします。

 しかし、ちょっと確認したところ、「ぬ」には少々誤解を招きやすい面があるようなので、その点について軽く補足させていただきますね。




▼「ぬ」は紛らわしい?


 私は別に「ぬ」を紛らわしいとは思わないのですが、参考書や高校国語の副読本等によると間違えやすいと書かれていることが多いので、念のために触れておくことにします。


 ・現代語の助動詞「ぬ」(否定)の終止形

 ・古語の助動詞「ず」(否定)ないし現代語の助動詞「ぬ」(否定)の連体形

 ・古語の助動詞「ぬ」(完了)終止形


 この三つが全部「ぬ」になるので紛らわしいそうです。

 具体的にどうなるのか例文を書いてみますね。


 ――わたくし、そのようなことは知りませ()

 ――姫君は知りたまわ()ことぞ。

 ――姫君は知りたまい()


 最初の二つが否定の「ぬ」で、三つ目だけが完了の「ぬ」です。

 すなわち、前二者の場合、姫君はご存じないのですが、後者の場合は知ってしまわれたのです。


 参考書によりますと、「ぬ」を見分けるには、直前の語の活用を見よとのことです。否定の時は未然形、完了の時は連用形、だそうです。


 しかしながら、受験じゃあるまいし、そんな面倒なことを読者の方に強いるのはいかがなものかと思うのですよ(苦笑)

 そもそも、未然形と連体形が同じ活用の語の場合には、どうするんだという話にもなります。


 ですから、完了の「ぬ」を使用する場合には、小難しい文法うんぬんよりも、分かりやすい文脈で書けるかどうかが求められます。


 ――人の口に戸を立つることはいと(かた)きことなり。姫君もついに知りたまい()


 これはどう見ても否定じゃないです……よね?(もっといい例文を思いついたら、差し替えるかもしれません)


 もう一つ、終止形「ぬ」が紛らわしいのなら、連体形「ぬる」にする、という方法も取れないこともありません。しかし、それはそれでまた別の問題が発生する可能性があります。


 ――醜聞は、たちまち下位貴族にいたるまで知られ()()こととなれ()


 一応例文を作ってはみましたが、終止形「ぬ」はともかく、連体形「ぬる」はあまり一般的ではないと思うんです。受験で活用を覚えても、忘れてしまわれる方も多いのではないでしょうか。

 ライトノベルの一般読者層の方々に、この手の文章が本当にご理解いただけるのか、私としては非常に不安でなりません。




▼「ぬ」の無駄撃ちについて


 「ぬ」にはもう一つ、受験用の古典文法を真面目に勉強された方が陥りがちな罠もあります。


 時々お見かけするんですよ。私よりもよほど古語の知識がおありのようなのに、なぜか「ぬ」の無駄遣いをされる方を。

 ここで「ぬ」は要らないだろう、という場面にまで「ぬ」がやたらと使われているんです。その結果、いびつな擬古文になってしまうのです。


 確かに、「つ」と「ぬ」は同じ完了の助動詞でありながら、本物の古文における出現率には明らかな違いがあります。性質的に、どうしても「ぬ」が多くなります。


 そのため、「つ」「ぬ」を受験文法で機械的に学習してしまった方々が惑わされてしまうのは、無理もないのかもしれませんが……。


 「ぬ」は(「つ」も含めて)大盤振る舞いするものではありません。下手に使うと、本質を知らないことがばれてしまうので、くれぐれもご注意ください。




▼まとめ


 簡単にまとめますね。

 完了の「ぬ」を使う上では、くれぐれもご用心を。

 うまく使うと一番カッコいいのですが、危険は避けるに越したことはありません。





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