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孤独の都~空に陽はあり月はなく~  作者: 紫鱗
第一章 不可視
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第九話

 知りたいことはいくらでもあった。けれども余りにもたくさん浮かび上がってくるものだから、一旦考えるのをやめて最初に思い付いたいくつかの疑問を黒板で質問してみようと思った。

 黒板の前にたどり着き、他の質問を見渡してみると字の読み方や詩の詠い方ばかりで、僕が思い浮かべた疑問については誰も触れていないようだった。


 僕はふと詩話法の書物の巻頭には”詩を通じて言葉を、詠い方を覚えましょう”と書かれていたのを思い出した。

 でも詠い方はわからないものの、言葉についての意味は分からずとも読み方がわからないということを感じたことがなかった。

 だから詠い方はともかく読み方の質問に対しては、なぜこんな質問するのだろうと不思議に感じた。

 

 ハッと僕は黒板の前で考えにふけっていたことに気付いて、慌てて先ほど真っ先に思い付いた二つの質問を黒板に書き込んだ。

 「微風とは何ですか」「ヤギやシカとは何ですか」

 振り返って自分の席に座ってもう一度黒板を見ると、それぞれの質問に対して丁寧に回答が追記されていた。


 僕の質問にはこのように回答されていた。

 「微風とは何ですか」の質問には「風がゆっくりと吹いていること」

 「ヤギやシカとは何ですか」の質問には「ともに四つの足がある動物のことで、私たちは二本の手と二本の足がある、詳しくは動物学で質問せよ」


 回答を見てさらなる疑問が浮かんできた。風……風って何?

 もう一度質問をしようと席を立とうとしたところ、講義の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。時計は9と10の中間を指し示している。


 僕は詩話法の書物をバッグにしまい講義室を出た。

 解決しなかった疑問が僕の思考に靄をかけていた。講堂を後にし、中央の広場で少し休憩をしようと思った。


 中央の広場のベンチに座り、一息つく。次の動植物学は10時からで、学術棟と呼ばれる講堂で行われる。

 僕はもやもやした思考のまま空を仰いだ、一番明るいところがカンテラや聖堂のランプの明かりに比べてはるかに明るい。

 なんだか気持ちが空に吸い込まれていきそうになった。

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