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孤独の都~空に陽はあり月はなく~  作者: 紫鱗
第一章 不可視
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第四話

 その前に寄っておかないといけないところがある。

 僕は来た道を折り返して交差点を右折し、果樹園、聖堂、僕の家のある通りへ入る。

 少し歩き、聖堂が近づいてきたところで果樹園へ視線を向けると、木々の隙間から聖堂の壁面に小さな扉があることに気付く。きっと聖堂が果樹園を所有しているのだろうと思った。


 僕は聖堂の前に着くと、中へと足を踏み入れた。

 寄らなくてはいけないところ、それは聖堂だ。誰かに決められたわけではないけれど、一日一度ここで祈りを捧げることにしている。

 聖堂内は幅に比べて奥行きの方がはるかに長く、聖堂の門からまっすぐ伸びている青いじゅうたんの左右には、じゅうたんを挟むようにして緩やかな弧を描くような長い机が一つずつ置かれている。机の中央が一番じゅうたんに近く、机の両端に進むごとにじゅうたんと机の間は広がっていく。椅子は机の壁面側の方に机に向かうようにして等間隔に並べられている。これらの椅子の後ろには3列の椅子が同じようにして並べられている。これらの椅子は弧状に設置されているのではなく、直線状に整然と並べられている。

 薄暗い聖堂だが、左右の壁面の天井から少し下のあたりには火の灯ったランプがお椅子の間隔3つ分ごとに吊るされている。そして聖堂奥の中央には四足の生き物をかたどった石像が、僕が手伸ばしてやっと届く程度の高さの台座に据えられている。体は壁面に沿うように横を向いているが、両耳をぴんと立てた細長い顔は僕を見下ろすようにこちらに向いている。聖堂奥部の左右には天井にひとつずつ円いガラスの窓があり、そこから採光された光は石像を照らしている。左の窓は橙で、右の窓は白みがかった青だ。


 石像から少し離れたところ、じゅうたんの終わる手前まで行き、方ひざをついて右手のひらを水平にして下向きにし、胸に当てる。もう一方の手は親指を石像へ向け、残りの四本の指は揃えて親指と垂直となるようにして床につけ手のひらを浮かせるための支えにする。

 そうして目を閉じて5分ほど祈りを捧げる。


 立ち上がり、踵を返して立ち去ろうとすると、入り口の門左上あたりに薄明るさを感じた。ランプの炎は赤いけれども、それは白く、ゆらめいている。


 何だろう……


 僕はこれまでに見たことのないその明かりを不思議に思った。

 聖堂内で走ってはいけないと思いつつも、僕は急いでそこに駆け寄る。壁面にもう少しでたどり着きそうといったところで、揺らめいていた白い明かりはスッと壁に溶け込むようにして消え去ってしまった。

 聖堂の外に出て周囲を見渡したけれども、何も見つけることはできなかった。


 ……何だったんだろう


 僕は聖堂に革袋を置き忘れてきたことを思い出し、先ほど祈りを捧げていた場所に置かれたふたつの革袋をつかみ上げた。

 少しお腹が空いていたので、革袋の中のチョコレートのかけらをひとつ取り出して口に入れた。ちょっと苦かったけど甘くて少しいい気分になった。怒られちゃうかな、と思いながら僕は家に帰るのだった。

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