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孤独の都~空に陽はあり月はなく~  作者: 紫鱗
第一章 不可視
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第三話

 少し歩き、右手に流れる川に覆いかぶさるように建てられている聖堂の正門を横目に通り過ぎる。門扉は開け放たれていた。今歩いている道とは別に、正門からまっすぐに延びる道もあり、T字路を作っている。


 聖堂門前を通り過ぎると、右手には川はなく、川は聖堂から始まっていることが分かる。その先は川の代わりに実をつけた樹々が立ち並ぶ果樹園が続く。樹の種類はひとつだけではなく複数あるようだ。

 顔を上げて見渡せば様々に彩色された果実が色鮮やかさを感じさせてくれる。

 果樹園の甘い香りはとても好きだ、なんだか心が安らぐし、元気も出てくる。


 果実の香りが薄らぐ頃に、最初の交差点に差し掛かる。商店は交差点を渡り右手側の角、果樹園の終わりから道を挟んだ向かい側にある。


 商店は玄関が建物の右側にあることは共通する。違う点は左側には窓ではなく、みぞおちのあたりまでの高さの位置に、幅は両手いっぱい広げてなお少し余る程度で、奥行きは片腕をぴんと伸ばした程度で足りる奥行きのテーブルがある。

 テーブルは家の壁を四角くくり抜かれた底面に載せられていて、テーブルは手のひらから指先までの大きさ程度せり出している。左隅の上に打ち付けられた釘から輪になった紐が吊り下げられていて、紐を通すための穴をあけられた紙が輪の下方にたくさんぶら下がっている。テーブルの左隅にはペンが2本置かれている。そしてテーブル越しに椅子があるのがわかるけれど誰も座っていないように見える。


 僕はカウンターの左隅で紙をちぎり取り、ペンで必要な品を書き、テーブルの真ん中に文末を店内の方に向けて差し出した。


    小麦粉

    バター

    卵

    チョコレート


 俯いて少しして顔を上げる、すると先ほどの紙の文末はこちらに向けなおされ、赤字でこう追記されていた。


    小麦粉    6ö

    バター    1ä1ö

    卵      ×

    チョコレート →


 äは銀貨öは銅貨を表していて、金貨の場合はåになるけれども、あまり大きな買い物をしないのでめったに見ることはない。×は在庫がなく、→は取り扱ってないという意味だ。

 僕は金額を確かめて文末を商店に向けなおし、銀貨2枚を乗せて再びカウンターから目をそらす。もう一度カウンターに目を遣ると3枚の銅貨と皮袋が置かれている。袋を開けて、紙袋に入った小麦粉と薄紙で包まれたバターを確認してから僕は商店を後にした。


 ……あとは卵とチョコレートか。

 卵とチョコレートは別の商店を探さないといけない。僕は店を背に右に向かって進む。

交差点を渡った先を少し歩いたところで、もうひとつの商店を見つけた。

 カウンターの中からは甘い香りが漂っている、果樹園で感じる香りとは違っている。

 僕はその商店で先ほどの商店と同じ要領で「卵とチョコレート」と書いてテーブルの真ん中へ差し出した。


    卵

    チョコレート


 一度目を逸らし、再び目を遣ると先ほどの商店と同じように赤字でこう追記されていた。


    卵      6ö

    チョコレート 1ä


 手持ちのお金を確かめると1銀貨と3銅貨で3銅貨足りない。

 少し考えて僕は値切ってみることにした。


    卵      6ö× 4ö

    チョコレート 1ä× 6ö


 このように提示された金額の後ろに×をつけて希望価格を右に書き記す、そして文末を店内に向けて再び差し出した。目を逸らし、紙に目を遣るとこう追記されていた。


    卵      6ö× 4ö

    チョコレート 1ä× 6ö× 7ö


 これは卵は僕の要求どおり4銅貨、チョコレートは要求より1銅貨高い7銅貨ならどうかという回答になる。僕は紙を店内に向けて1銀貨と1銅貨を乗せて目を逸らし、もう一度テーブルを見ると皮袋が置かれていた。

 皮袋の中を覗いてみる、6つの卵がひとつひとつ綿に包まれていて、破片のようなチョコレートが紙袋に入っていることが確認できた。


 よし、これで全部そろったぞ。

 お使いの品を全て買い揃えた僕は、商店を後にして家へと向かう。

 あ、その前に……

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