第二十一話
気が付けば視界にはアカデミーの廊下が広がっていた。
階段を下りたばかりの姿勢だった僕の体は何かの力が僕の髪を後ろに、外套を左に強くなびかせた。
――……っせ………ろって……
びゅう、という音の他に声のようなものも混ざって聞こえた。
一瞬見えた真っ赤な光景に圧倒された僕は、体の力が抜けてしまった。
何かの力が僕を押し続けているためか、立っているのも辛くなりその場でへなへなとうずくまる。
床に座った僕の体は震えている、そしてまったく体に力が入らない。
こんなことは初めてだ。果樹園の果物を食べてしまったのがいけなかったのだろうか。
真っ赤に染まった都のことが頭いっぱいに広がっていた。
あの光景は真っ暗だった、夜だったのだろうか。
だとしたら毎晩あのように火が都を埋めつくしているのだろうか。
そもそも本当にあれは火だったのだろうか。
僕は考え疲れて、これ以上考えるのをやめた。
やがて僕を押していた力は消え去った。
体の震えも次第におさまっていった。
僕は立ち上がって半分脱げかかった外套を整え、落としてしまったバッグを肩に掛ける。
真っ赤な光景が浮かんできそうになったけれど、頭を振ってそれをかき消した。
えーと、次の講義はなんだったかな。
階段を下りる前には覚えていたことなのに、もうすっかり忘れてしまっていた。
事象学、と思い出したところで僕は焦る。
いけない遅刻、と。
慌てて階段そばの講義室に駆け込み急いで席に座った。
黒板の上の時計を見ると12と13の中間から少し13に進んだ場所指し示している。
間に合った、というより食堂を出た時からほとんど時間が経っていなかった。
またあの光景が浮かびかかった。けれども、僕はバッグから事象学の書物を取り出し、講義に集中しようと意識した。




