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ゆきだるま とけるまで

作者: questmys

 ある冬の日の話。


 木の根元に掘った巣穴でうさぎが6羽、身を寄せ合って眠っていた。

 けれど末っ子は元気一杯。冬眠の季節が来てもなかなか寝てくれない。

「見て、見て、お母さん。空から白いのが降ってるよ。たくさん降ってるよ」

 寝ぼけ眼のお母さんは応えます。

「あれは雪というものよ。あの白いのが降ってくると冬眠の合図。

 さあ、ぼうや。お眠りなさい。寒い時期は寝てすごすものよ。起きているとお腹が空くわ」

 けれど末っ子は遊びたい盛り。

 翌朝になると我慢出来ずに巣穴を飛び出てしまいました。


 一面真っ白雪化粧。

 飛び跳ねる度に足が埋まって、冷たく感じる。そのことが楽しい。

 末っ子うさぎにとって初めての経験で、おかしくておかしくてしょうがない。今まで感じたことのない変わった感覚だ。


 うさぎ飛び跳ねる。飛び回る。


 やがて辿り着いた大きな木の下。うさぎ以外にも変わり者の子供らが集まっていた。

 シカに、キツネに、リスに、クマに。

 初めての雪に興奮した子供達。集まってわいわい騒いでいる。

 子供達は折角集まったのだからとかくれんぼをして遊ぶことにした。


 最初の鬼はうさぎだった。

 真っ白な世界でシカもキツネもリスもクマもよく目立った。探すのは簡単で、すぐに見つけることができた。


 次に鬼になったのはシカだ。

 真っ白な世界でキツネもリスもクマもよく目立ったが、うさぎは真っ白だった。探すのは難しく、すぐには見つけることはできなかった。だが耳が動いていたのが目に入り見つかってしまった。


 それからキツネに鬼の番が来た。

 真っ白な世界でリスもクマもシカもよく目立ったが、うさぎは真っ白だった。探すのは難しく、すぐには見つけることはできなかった。今度は耳を動かさないようじっとしていたのだが、瞬きをしていたせいで赤い瞳が目に入り見つかってしまった。


 今度はリスが鬼の番だ。

 真っ白な世界でクマもシカもキツネもよく目立ったが、うさぎは真っ白だった。探すのは難しく、すぐには見つけることはできなかった。今度は耳を動かさないようじっとして、目も閉じていたのだが、雪の冷たさでつい震えてしまったのが目に入り見つかってしまった。


 最後にクマが鬼となった。

 真っ白な世界でシカもキツネもリスもよく目立ったが、うさぎは真っ白だった。探すのは難しく、すぐには見つけることはできなかった。今度は耳を動かさないようじっとして、目も閉じ、雪の冷たさも我慢した。するとうさぎは全く見つからなかった。


 最初は「しめしめ」とほくそ笑んでいたうさぎだが、あまりに見つからないので、少し体がかじかんで、なんだか辛くなってきた。シカもキツネもリスも一緒になって探し始めたのに、うさぎのすぐ傍を通っても気付かない。


 うさぎは段々不安になってきた。このままずっと見つからなかったらどうしよう。

 うさぎは段々心細くなってきた。みんなが探すのをやめてしまったらどうしよう。

 うさぎは段々寂しくなってきた。もう見つかったっていいんじゃないだろうか。

 うさぎは段々諦め始めていたのだ。あるいは自信満々であった。見つかるわけがないと確信していた。実際、うさぎが見つかることはなかった。


 シカもキツネもリスもクマも、うさぎを見つけられなかった。耳を動かさないようじっとして、目も閉じ、雪の冷たさも我慢したうさぎは、まるであたりの雪と同じように雪になってしまったように思えた。


 仕方がないのでうさぎは自分から出て行くことにした。一面真っ白な雪景色の中で体の白いうさぎはどうしても見つかることが出来なかったから。

 だからうさぎもずっと隣にいたずんぐりむっくりに気付かなかった。

 立ち上がった拍子にふと視界に入ったそいつに気付いてうさぎは一声「ぴゃー!」と鳴いた。


 シカもキツネもリスもクマもようやくうさぎを見つけることができて喜んだ。そうして、今度はうさぎの隣に見知らぬずんぐりむっくりがいることに気付き大変驚いた。

 ずんぐりむっくりは雪のように真っ白で、お日様に当たるときらきら光って、全く動こうとしないのだ。息をしているかも怪しい。


 うさぎは試しにあいさつしてみた。ずんぐりむっくりは返事をしない。

 シカは警戒するようにそいつの傍をうろついた。ずんぐりむっくりは反応しない。

 キツネはそいつの腹に頭をすりつけ親愛の情を示した。ずんぐりむっくりは驚くほど冷たい。

 リスはそいつの体中をちょろちょろと駆け回った。ずんぐりむっくりは払いのける様子もない。

 クマはそいつの匂いをかいだ。ずんぐりむっくりは降り積もる雪と同じ匂いがした。


 ずんぐりむっくりはまるで雪のようだった。けれど雪はこんなに大きくないし、丸くもない。手は枯れ枝のように細くもない。目玉は石のように硬くもない。鼻は葉っぱのように平たくもない。口は削ったようにへこんではいない。


 こいつはなんだろう、とうさぎもシカもキツネもリスもクマも疑問に思った。

 今まで見たことも聞いたこともない。

 けれどそんなことよりも、体がこんなに冷えていては大変だと、まずは寄り添い暖めてやることにした。ひょっとしたら寒すぎるせいで動けないのかも知れないからだ。


 うさぎは冷たいのを我慢して足下を暖めてやった。

 シカは冷たいのを我慢して胴体を暖めてやった。

 キツネは冷たいのを我慢して首を包んで暖めてやった。

 リスは冷たいのを我慢しておでこを暖めてやった

 クマは冷たいのを我慢して覆い被さり暖めてやった。


 そうしているうちにずんぐりむっくりは汗をかき始めた。だというのに、体は冷たいままだ。そして段々とやせ細っているようだった。


 どんどん、どんどん、汗をかく。

 段々、段々、やせていく。

 みんなで頑張って暖めてやる。

 だからどんどん、どんどん、汗をかく。

 そして段々、段々、やせていく。


 あんなにずんぐりむっくりだったのが。

 今は小さくなってこれっぽっち。

 小さな小さな白い塊。

 やがて最後は消えて無くなる。


 みんなはなんだか寂しくなった。

 体もすっかり冷えてしまった。

 暖かいおうちに帰ってお父さんとお母さんの傍で眠りたくなった。


 うさぎはもう帰ろうかと言った。

 シカはもう帰ろうよと言った。

 キツネはじゃあ帰ろうかなと言った。

 リスは僕も帰るよと言った。

 クマは何も言わずに帰ろうとしていた。お腹が空いて、みんなと一緒にいるとなんだかむずむずするからだ。早く帰った方がいい気がしていた。


 クマはのしのし帰って行った。

 リスはちょこちょこ帰って行った。

 キツネはとことこ帰って行った。

 シカはたかたか帰って行った。

 一人になったうさぎも帰る。ぴょんぴょん跳ねて巣穴へ帰る。


 家に帰ったうさぎはその日あったことをお母さんに話して聞かせた。クマの話が出たあたりで家族全員ぎょっとしていたが、うさぎは構わず話を続けた。

 いなくなったずんぐりむっくりについて話したところで、お母さんから「それは雪を固めて作ったた人形なの」と聞いた。人間という動物が作るのだという。

 うさぎたちが長い眠りにつくころに、人間がたくさんたくさん作るのだけれど、うさぎたちは寝ているのであまり見る機会がないのだという。


「珍しいものを見られてよかったね」とお母さんが言った。

「珍しいものを見られてよかったよ」と末っ子うさぎが答えた。


 話をしているうちに段々と眠くなってきた。

 話したいことはたくさんあったが、ぼそぼそとした声しか出てこない。話したいこともなんだか支離滅裂であっちこっちに話が飛ぶ。

 うさぎのまぶたが落ちてくる。ゆっくり首が垂れ下がる。こっくりこっくり船をこぐ。

 ゆるゆると夢の中へ沈んでいく。


 もう起きてはいられなかった。


 うさぎたちは眠りについた。鼻息立てて眠りについた。

 ずーっとずーっと、たくさん眠ろう。

 次に起きるのは春風が吹いてから。

 ぽかぽかのんびり、暖かくして眠ろう。

 雪だるまがとけるまで。

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