準備万端、いざヴェールへ!
「今さらだけど、私はシリア。このC.v.sストアの店主をしているわ。この店の説明はもう不要ね?」
俺は頷いた。出来る事なら二度と思い出したくないくらいだ。
それからシリアは初期進行に必要なノウハウを説明してくれたが、ウインドウの見方以外は全て分かっている事だった。
「まあ、私が言えるのはこのくらいね。一応私もこの世界の住人扱いだから、情報に制限がかかっちゃうのよ」
「いや、十分だよ。でも聞かなきゃ生きていけないような情報ってわけでもなかったな」
「あ、それはあなたが全くウインドウを見られないと思ってたから。自分のHPを確認しないでここまで戦ってきたんでしょう?」
「ああ、途中まではな。確かにあの時確認しなかったら、死んでいた可能性はあったかもな」
俺は教わった方法でウインドウを開き、腰袋の内容を確認した。なるほど、これで道具を選択するんだな。
俺がこれまで手に入れたものはーー
エール皮の盾
エール皮のグローブ
コンポジットボウ
竹槍
ブロンズキュイラス
こんなもんか。
「そちらの5点で宜しいですか?」
シリアは急に仰々しく、俺に尋ねた。すっかり住人モードに戻ってしまったようだ。
「ああ」
壺に放り込み飛び出したのは、やはり一円玉だった。
「今度は三円か……。まあ大体100ルピーで一円くらいで間違いなさそうだな」
俺は改めて確認し絶望感が押し寄せたが、なんとか堪えた。
「リュウさまの現世マネーのお預かりはただいま四円です。またのお越しをお待ちしております」
「はあ、一体三百万貯めるのにどんだけかかることやら……」
といってもここにいられるのは一年だけだ。あまり悠長なことは言っていられない。俺の頭の中からギャンブルの事が離れているのは、早いとこ強くなってストーリーを進め、高額換金できそうなお宝を手にしたいからだ。
もちろんこの世界での生活が、楽しめるということもある。ハッキリ言って現世のギャンブルよりよほど刺激的だ。
正直期限がなければ、このままここで生涯を閉じても構わない。だが、そんなうまい話はなく、1年後のジャッジ次第で現世に戻るか地獄に堕ちるか決まってしまう。
この世界を純粋に楽しんでいる余裕はないのである。
そう考えると、モタモタしてはいられない。早いとこレベルアップ作業に移らねば。俺はニースとかいうばあさんが営む道具屋に顔を出した。
「よお、ばあさん。ポーションを持てるだけ貰いたいんだが」
「ほ、よく来たの。ポーションならあと99個まで持てるようだが、ルピーは足りるかの?」
「あ、それはないな。じゃあ買えるだけでいいや」
「んー、なら13個かの。また稼いで来たら買っとくれ」
「まかせな、しばらくは俺の買い物で生活出来るぜ」
俺は準備を整え村を出た。そしてなるべくヴェールには近づきすぎないよう気をつけながら、付近の探索をしながら経験値を稼ぐ。
日が暮れるまで戦いまくり、疲れたら村に帰って寝る生活をしばらく繰り返していた。
そして九日目の朝ーー
タータラー、タララッタタララー!!
よーし、ようやくレベル10になったぞ!さすがにレベルが上がってくると、1レベルに必要な経験値が大分増えてきたな。五つレベルを上げるのに九日もかかってしまった。
『リュウはレベルが上がった。
体力が4上がった、素早さが3上がった、魔力が3上がった、HPが15上がった、MPが6上がった、炎舞剣 壱ノ太刀、バーストドライブを覚えた』
ん?なんだ、最後になんか聞こえたな。バーストなんとかって……。
俺は慌ててウインドウを開いた。
えーと、あ、あった。今まではなかったバトルスキルという項目が見られるようになっている。
何々、炎舞剣 壱ノ太刀 バーストドライブ、MP5消費で通常攻撃に炎の追加ダメージを与える技、か。
どれどれ、ステータスを確認してみるか。
リュウ レベル10
体力 30
素早さ 17
魔力 14
HP 68
MP 17
ふむ、ということはこのバーストドライブってやつが三回使えるってわけか。
魔法を覚えるわけじゃないのかな?まあどう見ても戦士タイプだし、たいして期待はしてなかったがな。
しかし必殺技も覚えたことだし、さすがにそろそろヴェールの悪魔とか言う奴もなんとかなるだろう。
「よし、一度ヴェール方面に行ってみるか」
ヴェール付近のモンスターレベルが分かれば、ボスの強さもある程度判断出来るはずだ。
その前に俺はもう一度ウインドウを開き、持ち物欄を確認した。使い途のなさそうなものは、既にC.v.sストアとニースのばあさんのところでルピーや円に替えてきている。
だが、ヴェールに行く前にさすがに防具を身に付けようと考えたのだ。
これまでは剣の力に頼っていたが、ボス戦ではそうも言っていられない。
「さすがにこの服じゃな……」
俺は今までは最初に着ていた、村人の服をそのまま使っていたのだ。
理由はもちろん剣が強かったこともあるが、それだけじゃない。俺自身既に忘れかけていたが、ステータスとは別に受ける「俺自身」への影響、ダメージを恐れていたからだ。
初めのうちは剣を振るっただけで、恐ろしい筋肉痛に襲われたのである。そこへ防具など装備しようものなら、たちまち動けなくなり無駄な時間を過ごしかねない。
もしかしたら、装備の重さで満足に戦う事すら出来ない可能性もある。
手に入れた鎧や盾を持った時、俺は正直こう思った。
「装備したほうが弱くなったりして……」
しかし今は剣の重さもほとんど感じない。もちろん軽量化の魔法がかかっているが、それでも初めは持つだけで苦労したのだ。
装備に1ターン取られてしまうから、剣だけは頑張って常に装備していたが、防具は諦めていた。だが、今ならなんとか一つくらいはイケる気がする。
「さて……」
俺は再度道具欄を見た。
エール皮の鎧
ブロンズキュイラス
エール皮の盾
ウォームシールド
ウォームヘルム
エール皮の靴
「どれにするか……」
そういえば攻撃力や防御力はまだ見てなかったな。俺はウインドウを開いて項目を探した。
攻撃力 72
防御力 24
やはり防御力はかなり攻撃力と差があるな。しかしステータスに腕力や耐久力みたいな項目がないのに、どうやって決まるんだ?
まあ欠陥だらけのシステムだからな、細かいことは気にしても仕方がない。
俺は順番に装備しながら、防御力の高い装備を仕分けし、更に「俺自身」への影響が少ない防具を身に付けることにした。
「ブロンズキュイラスはまだ無理だな。エール皮とウォーム系はイケるが……」
結局俺はエール皮の装備で統一する事に決めた。少しだけウォーム系の方が防御力が高いのだが、鎧がないしなんとなく虫の殻なのが気味がわるいからだ。
皮製とはいえフル装備はやはり重い。
「うーむ、頭は我慢するか。これ以上は負担がキツイわ」
それでも防御力は53まで上がった。流石に村人の服は防御力低すぎたな。
「ハードラーさん、今日はヴェールに行ってみるよ。もし倒せたらまたここにも若者が戻って来ると思うぜ」
「おお、ついにか?お主ならやってくれると信じておるぞ!」
ふむ、いいなあ、この感じ。現世では絶対に味わえない感覚だ。まあそんな努力もしてなかったんだが。だが、これをクリアすればシーラーの判断も多少はGOODに近づくはずだ。
「じゃ、行ってみるわ」
準備は万端のはずだ。絶対倒してやるさ。
俺は意気揚々とサガンを後にし、我が故郷を奪還すべく、ヴェールへと向かった。