老人の村 サガン②
俺はラザルというじいさんに案内され、この村の宿屋にやって来た。俺も名前を明かしたが、ラザルは俺を知らなかった。
トレドールの兵士はたまたまヴェールで警護をしていたから、俺を知っていたのだろう。
「おーい、ハードラー。久しぶりの客だぞい。この御仁を泊めたってくれい」
「何だと?客ぅ?」
「あ、どうも、客です」
俺は出来る限り軽いノリで話した。
「むう、悪いやつじゃなさそうじゃな。ラザルが連れてきたんじゃ、泊めんわけにはいかんじゃろ」
よし、宿屋確保!あとは道具屋があればいいんだがな。
「ハードラーよ、ニースの奴は店を畳んじまったんじゃったかの?」
「どうじゃろの。もうしばらく顔を出しとらんが、何かしらは残っとるんじゃないか?」
「リュウとやら、ニースばあさんの道具屋にも行ってみるか?」
「そうだな、何もなけりゃ出直す事も考えなきゃならんし。案内してくれ」
ラザルに連れられ、道具屋にくるとカウンターに人が立っていた。
「なんじゃ、ニース。どうせ誰も来やせんのにまだ店に立っとるんか?」
「ふん、余計なお世話じゃ。おぬしは家からあの悪魔が襲って来んか、ただ見張っとりゃええんじゃ。それに客ならちゃんといるわい」
「どこにじゃ?」
「ほれ、目の前に。その坊やは客なんじゃろ?」
はは、ばあさんにかかっちゃ俺も坊やか。まあいい、どうやら最低限のものは手に入りそうだ。
「そうだ、客だよ。とりあえずポーションがあれば十分なんだが、買えるか?」
「ふん、品揃えならかつてのヴェールにも負けんわい」
そう言ってニースはメニュー表を差し出した。
ポーション 4ルピー
ミドルポーション 8ルピー
毒消し 5ルピー
寝袋 10ルピー
テント 18ルピー
千里眼の笛 80ルピー
魔除けのネックレス 200ルピー
おお、なかなか言うだけのことはある。大した品揃えだ。ここまでの戦利品で大分ルピーは貯まっているし、しばらくはレベルアップに専念できそうだ。
「助かった。ニースさん、今日はもう疲れたからハードラーさんの宿屋に泊まって、明日出かける前に買いに来るよ」
俺はばあさんに挨拶して、店を出た。
「ラザルさん、ありがとう。あんたももう家に戻っていいぜ。おばあちゃんが心配してそうだからな」
「武器屋もあるんじゃが、いいのか?ヴェールの悪魔を倒してくれるんじゃろ?」
「ああ、それはまた後でいいよ。しばらくこの辺りでレベルアッ……いや、修行を積んでから行くから、必要ならまた声をかけるさ」
俺はラザルと別れ、ハードラーの宿屋に向かった。今日は寝るのが楽しみだ。ここまでくる間に大分戦ったからな。またレベルが上がるはずだ。
「よう、ハードラーさん。しばらくやっかいになるぜ。部屋の用意頼むわ」
「おお、あんたか。もういつでも寝れますぞ。宿代は10ルピー、ほれ、ここにサインしてもらえるかの」
俺はサインし、鍵を受け取ると、そこで簡単な食事を済ませ部屋に向かった。
「へえ、なかなかいい部屋じゃないか」
道具屋の品揃えもそうだが、宿屋も値段なりに部屋が多少はグレードアップしている。俺は装備を外し、用意してある部屋着に着替え寝る準備を始めた。
その時ふと横に目をやると、驚くべき光景がそこにはあり、俺は一瞬言葉を失った。
「な、なんだ?どうなってんだ、これ?」
そこにある光景とは、鏡に写った俺の姿だった。
「これ…………俺、か?」
俺は自分の目が信じられなかった。そこに写った俺の身体にはここに来る前の、あのメタボリックな兆候がほとんど見られなかったのである。
ま、まだここに来て4日しか経っていないはずだ。確かにあの剣のおかげで、かなりの戦闘をこなしてはきたが、まだレベル3だ。
それでここまで変わるものなのか?
確かに身体は随分と楽になったとおもってはいたが、見た目もこんなに変わっていたとは驚きだ。
「は、はは。もし無事に帰って嫁さんがこの姿を見たら、ひっくり返るだろうな」
まあ持ち帰れるのはお金だけで、帰ったら身体は元に戻ってしまうかもしれんがな。
俺は鏡に写った自分の姿に感動し、しばらく鏡を見続けていたが、その内に眠くなりベッドに横たわった。
「そうか、金といえば……」
俺は横になりながら、あのショッキングな事件を思い出した。
それはもちろん始まりの村で起きた、C.v.nストアとかいう店での換金ギャップ事件だ。
100ルピー以上のアイテムを換金して、ようやく一円にしかならなかった。
「ここにもC.v.nストアはあるはずだな。明日道具屋に行く前に探してみるか」
ここまでの戦いで、また多少だがアイテムを見つけている。あの腰袋にどれだけのアイテムが収納出来るか分からんが、いらないものは整理しておいた方がいいだろう。
またいくらにもならんのだろうなと思うと気が滅入ったが、疲れていた事もありいつのまにか俺は眠りについていた。
タータラー、タララッタタララー!!
レベルアップの合図で、俺は目を覚ました。レベルが低い内は、しばらくこいつが目覚まし時計の代わりになりそうだ。
『リュウはレベルが上がった。
体力が4上がった、素早さが2上がった、魔力が2上がった、HPが10上がった、MPが4上がった』
おお、随分なステータスアップだな。
タータラー、タララッタタララー!!
よし来た!結構戦ったから2レベル分くらいいってるんじゃないかと密かに期待していたんだ。
『リュウはレベルが上がった。
体力が2上がった、素早さが2上がった、魔力が1上がった、HPが5上がった、MPが1上がった』
あ、チクショー、今度はたいしたことなかったな。だかこれでレベル5だ。このまま一気に10レベルまで上げて、ヴェールの悪魔を倒してやる。
俺は宿屋を出ると残りの住人に話しかけ、C.v.nストアのありかを聞き出した。
「そういえば、特に他のイベントが発生しなかったな。」
もしかしたら、あまり重複してイベントが発生しないシステムなのかもしれない。まあ、いつも通り断定はできないが。
俺は手に入れた情報に従って、C.v.nストアにたどり着いた。
「よう、また来たぜ」
「いらっしゃい、リュウ。あなた、ここのC.v.nストアにも私がいるって分かっていたような言い方じゃない」
「まあ、なんとなくな。シーラーみたいなのが女神をやってるくらいだから、天界も人手不足なんじゃないかと思ってさ」
「グッ⁉︎なんでそんな……」
ん?図星だったか?
「そ、それで?今日も何か持ってきたんでしょう?」
ごまかしやがったな。
「まあいい。ちょっと待ってくれ。今整理するから」
俺は腰袋からアイテムを取り出し、カウンターに並べようとした。
「あら、あなたウインドウの見かたも知らないの?わざわざアイテム出さなくてもいいのに」
な、なにぃ?そんな便利な機能が……。
「ステータスの見かたは分かるが、そ、そんな便利なことが出来るのか?」
「シ、シーラー様……。まさか、そこまでいい加減になってしまったの?」
あ、そこは誤解を解いておいてやろう。後で恩を売れるかもしれん。
「いや、俺のケースは特別だったんだ。ちょっとイレギュラーが起きてな。シーラーも大分焦っていたようだから、説明がほとんどないままスタートしちまったんだ」
まあ説明する暇がなかったわけでもない気がするが、敢えて言う必要はあるまい。
「そ、そうだったの?あなたよくそれで今まで生きてこられたわね。それならシーラー様も私に言ってくだされば、始まりの村で説明できましたのに……」
「まあ部下に失敗を知られるのがいやだったんじゃないか?」
「なるほど、では代わりにあなたの知らない初期のシステム進行手順と、簡単な世界観だけは説明してあげるわ」
もう分かっている事は、言ってくれれば省略するから、と彼女は語り始めた。