『天使に追われて魔界へ逃げることになりました』
魔王の本音を知った私はあの日からまともに魔王の顔を面と向かって見れなくなった。
最初から魔王は私を自分のものだと認識してダイエットを始めていたのに私はそんなことには全くお構いなしでただ自分の願いを叶えてくれるものだと勘違いしていた。
確かにあの魔猫の敵意を剥き出しにしたあの態度は嫉妬と言うものの現れだったに違いなかった。魔猫は最初から気付いていたに違いない・・・魔王が何を企んでいたかを・・・
魔王は半年が過ぎた今でも飽きずにダイエットに協力していて学校へも毎日付いて来る。
体重が58キロまで痩せた私は半年前の制服にさよならして新しい制服を購入して貰った。
「美乃里~~綺麗になったよね~!やっぱそれって闇野のお陰~?(笑)」
「ちょっちょっと!やだ~!アイツは関係ないよ~(苦笑)」
かなり痩せて変貌して来た私にクラスメイトの中条憂希がニヤニヤ笑いながら私の事をからかっていた。
「だって許嫁でしょ~?毎日やっちゃってんじゃないの?アンタ達~~♪フフフ~」
「やだやだ!!ないない!絶対無いから~~!!もう!憂希ったらエッチなんだから!」
確かにたまに後ろから胸を揉まれたりすることはあってもキスだってまともにしたこと無いんだから憂希の言葉は少し刺激が強すぎて私は顔が耳まで真っ赤だった。
「ウフフフ♪美乃里ってウブなんだね~~!!闇野も良く我慢してるなぁ~!」
「オレ様は美乃里が目標を達成するまでは絶対に喰わないぜ!!クククク♪」
憂希との会話に後ろから突然交わって魔王は意味深なことを言って笑っていた。
「あ~あ!ご馳走様でした~~~!!ほんっと闇野は美乃里にラブラブなんだから!!」
憂希はやってらんな~いと笑って自分のグループのいる廊下へ出て行ってしまった。
「安心しろって!!まだまだオレ様はお前のことは喰わないからさ!!」
「当たり前でしょ?!せめてナイスバディになって合コンでイケメン男子に
モテテからじゃないとアンタになんか喰われてあげないわよ!!」
魔王の言葉に怒って背中を向けると魔王は後ろから私の顔を覗き込んでニヤリと笑っていた。
「そんなに顔を真っ赤にして本当は早く喰われたいんじゃね?クククク!!」
「もう~~!!馬鹿!!顔近すぎ!!みんなが見てるからヤメてよね~~!!」
私と魔王のやり取りを遠巻きにみんなが面白そうに眺めている。
あまりにも魔王が目立ち過ぎて私と魔王の事は最近では学校中で噂になってしまっていて先生たちにも公認のカップルとして扱われるようになっていた。
「それよりもお前さ!そろそろジムに通えよ!!オレ様が良いトコ見つけといたからさ!そろそろ仕上げに入ってもらわね~とな!!それからエステもな!!」
「やだ~!!面倒くさ~い!!今まで通りでいいじゃん!!」
私が反論するとやっぱり魔王は目を吊り上げて両頬を掴んでギュぅっと引っ張り始めた。
「ま~たオレ様に生意気な口聞きやがって!!黙ってオレ様の言うとおりにしやがれ!!」
「いひゃい!!あうううう~!!ごめんにゃはい~!!はにゃして~~!!」
魔王は痛がって藻掻く私の姿を楽しそうに笑いながら掴んだ頬をギュウギュウ引っ張って離してくれない。
「オレ様の嫁になっても生意気な口を聞いたらこうだからな!!覚えとけよ!!」
「よ・・・嫁???今?嫁って言った?!えっ?!え~~~~~!!」
魔王にオレの嫁って言われて頭が混乱中の私は魔王に何度も聞き返していた。
「お前がダイエットに成功したらオレ様はいつでもお前を喰えるように魔界へ連れて帰るって決めたんだ!オレ様の花嫁としてな!!」
「すぐに魂を食べちゃうんじゃなかったの?魔界って?!どうして?」
私が目をキョロキョロさせて驚いていると魔王はお腹を抱えて笑い出した。
「すぐに喰うわけ無いだろ~?こんなにオレ様好みに育ったお前をすぐに喰っちまったらもったいないぜ!!だから魔界へお前を連れて帰るって決めたんだ!!わかったか?!」
「そそそ、それは最初の契約で魂を捧げるって私が約束したんだから好きにすればいいじゃない!!嫌だって言ったって連れて行くんだろうし・・・」
真顔でオレ様好みなんて言われてドキッとして顔から火が出そうだった。
「だから!!お前は最後の仕上げにジムとエステな!!絶対行けよ!!」
「・・・・・・・・・・」
返す言葉もないまま私は学校の帰りにあるジムとエステに強制的に魔王に連れて行かれた。
そんな生活を2週間続けて体重も53キロまで一気に落ちて目標体重は目の前だった。
「あと8キロ・・・本当に魔界へ連れて行かれるのかな?私・・・・・」
お風呂場の鏡の前で大きな溜め息を吐いているとまた頭の上に魔猫が降って来た。
「アンタも良く逃げ出さなかったわね!!しかもかなり魔王さま好みに変貌しちゃってるし・・・これじゃ・・・魔王さまが魔界へ連れて帰るって言うのも仕方ないわね・・・」
「ちょっと!!また~!人の頭の上で偉そうにしないでよね!」
今度は私が下ろす前に魔猫はヒョイッと降りて人型で私に跪いて敬意を示していた。
「魔王さまからの命令で私はアンタの護衛をする事になったの・・・嫌かも知れないけど少しの間だから我慢してよね!!天界が魔王さまの長期の不在に気付いて動き出したから人間界へも偵察に天使が来てるかも知れないって情報が入ったの!」
「それで・・・どうして私が魔猫に護衛されるの?」
魔猫はヤレヤレだわと言って先に服を着るように私に勧めてから魔猫は説明を始めた。
「アンタは知らないかもしれないけど・・・既にアンタには魔王さまの印が付いてるの!!その印を天使に見られたらアンタは天界へ連れて行かれて幽閉されるのよ!!」
「嘘・・・マジで?!どうして?いつの間に印なんて・・・・」
驚いている私を急かすように部屋へ連れて戻ると部屋では真剣な顔をした魔王が待っていた。
「ベルゼブブの使いからの伝達で人間界に天使が降りたという情報が入った!」
「魔王さま!!今すぐ美乃里を連れて魔界へ戻りましょう!!」
魔猫に言われて魔王は少し考え込んでいたがすぐに立ち上がって私に向かって
「天使に見つかったらお前は幽閉されて二度と人間界へは降りて来れなくなる。お前はオレ様の力の源の印が付いてしまったからな!!奴らはお前を見つけたら必ず幽閉する。」
「いつ?いつ?印なんて私に付けたの?いつ?」
私が少し責めるように魔王に問い詰めると魔王は苦笑いをして話し出した。
「お前がオレ様を召喚してオレ様の手を取った瞬間からお前には印が付けられたんだ!!」
「マジで?あの日から?あの日から既に印が付いていたの?・・・」
凄く同様している私を見て魔王は私を抱き寄せてギュぅっと強く抱きしめてからそのまま抱き上げて魔猫に叫んだ。
「仕方がない!!魔界へ戻ろう!!美乃里を奴らに奪われるわけにはいかないからな!!」
そして魔王は私を連れて生まれ故郷の魔界へ戻ることを決心していた。