『ダイエットは生活改善から始めましょう』
魔王を召喚してから一週間が過ぎようとしていた。私は既に5キロの減量に成功していた。これも全てあの魔王の実力?とでも言えばいいのだろうか?
ダイエットは生活改善から始めると言い出した魔王は私を朝の5時に叩き起こして一時間のウォーキングへ強制的に連れ出した。
ウォーキングから戻ると42°にお湯の温度を設定してシャワーを5分間浴びるように指示された。シャワーを済ませてダイニングへ行くと既に魔王は両親を自分の下僕として従えていて、人間の姿で席に着き闇野有紅と名乗っていた。心配だった食事も母親に魔王が支持してヘルシーなダイエットメニューの朝食とお弁当を用意させていた。
朝食を済ませて部屋で制服に着替えて鞄を持って家を出ようとしていると魔王は顔を引きつらせて私の制服姿を上から下へと眺めた後で首を左右に振ってヤレヤレという顔をしていた。
「見るも無残な姿だな・・・家畜のブタが女子高生の格好をしているようだ!!」
「そこまでハッキリ言わなくても~!!朝からテンション下がるなぁ~・・・」
出かける前にドギツイ言葉を投げかけられて私の胸はキリキリと穴が開きそうな位に傷ついていたが魔王は全くお構いなしでケラケラと笑っていた。
そして、いつもの駅までの近道を使う事を即時に却下した魔王は一番遠回りの道を地図を見て確かめて私に必ず早歩きで行くようにと厳しい顔で命令していた。
「き・・・きっついわ~・・・これを毎日ずっとやるの?あの魔王って・・・かなりのドSかも知れない・・・あ~ん!魔法でちょちょいで痩せれると思ったのに~!」
駅まで歩きながら誰もいないと思って嘆いていると頭の上に何かが突然降って来て目の前が暗くなった。
「やっぱお前なんかに魔王さまが貴重な時間を裂いてダイエット如きに付き合うなんてあり得ないわ~!さっさと魂を魔王さまに差し出して楽になることね!このメスブタ!!」
「ちょちょ!ちょっと!人の頭の上に降って来て偉そうにしないでよね!!」
頭の上に乗っている黒猫を掴んで下ろすと魔猫は尻尾でパタパタと地面を叩いて私に対する怒りを露わにしていた。
「悔しかったらちょっとは真面目に魔王さまの言う事に従って美しい身体を手に入れることね!まぁ・・・お前には何年かかってもムリだろうけどね~フフフフン!!」
魔猫はまた憎たらしい小言を言いたいだけ言ったらすぐに姿をスッと消してしまった。
結局の所は魔猫のお陰もあって私は負けるものかと歯を食いしばり一週間は真面目に魔王の支持に従った結果、5キロの減量に成功した。
だがこの先が肝心なのだと魔王はその手を緩めることはなく容赦無い課題を私に次々と与えてきた。
「う~ん!食事はやはり脂肪燃焼スープというものが効果もある上に健康に良さそうだ。後はお前の運動量だ!夕飯の後のウォーキングを一時間に変更した方が良いな!」
「え~~~~夕食後に一時間も?!見たいテレビ番組もあるのに勘弁して~~!」
私の机のノートパソコンの前で画面を見ながらあれこれ指示を出して来る魔王につい私が反抗したら魔王は目を吊り上げて私の横っ腹の贅肉をギュっと掴んで顔を近付けてきた。
「お前はこのオレ様に口答え出来るような立場では無いだろう?大人しくオレ様の支持に従いやがれ!!このデブッ!!ウスノロ!!」
「痛いッ!痛いですって!!ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!やります!やりますから!そ!その手を早く離して下さい!お願いします!魔王さま!痛~~~~い!」
魔王は加減というものを知らないのか?本当にドSなのか?力一杯に掴まれた横っ腹は真っ赤に肌の色が変わってしまっていた。
「おっ!そうだ!それから寝る前のストレッチな!念入りにバストアップの奴をやっとけよ!絶対だぞ!オレ様は貧乳は好みじゃ無いからな!頑張れよ!!美乃里!」
「ちょっと!それってセクハラだからね!この変態!でも・・・支持には従いますけど・・・」
セクハラ発言よりも初めて魔王に自分の名前を呼ばれたことにドキっとして私は耳の先まで顔を真っ赤にして心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしていた。
「オイ!そんな顔すんのはまだまだ気が早いだろうが!まだお前はメスブタだからな!このオレ様にドキドキするならダイエットに成功して美しくなってからにしろっ!!」
「そそそ、そんなんじゃないもん!なんで私が魔王にドキドキすんのよ!してない!絶対にドキドキなんてしてません!!」
苦し紛れに言い逃れをして私は居た堪れなくなって部屋を出て洗面所へ行き顔を洗って火照った顔を冷やしてしばらく醜い自分の姿に大きな溜め息を吐いて項垂れていた。
目標体重は45キロ・・・まだまだ先は長いし・・・魔王のことだからすぐに人間界に飽きて魔界へ帰ってしまうかも知れない。だからドキドキなんてしちゃいけない!
「そうよ!私は絶対にスリムな可愛い女子高生に生まれ変わって合コンに参加するのよ!」
鏡の前の私に気合を入れて私はそのまま夕食後のウォーキングへ出かけた。
一人で夜道を早歩きで歩いていると後ろから母親の声がしたので振り返ると両親がジャージ姿で追いかけて来ていた。首にはタオルを巻いて私よりやる気満々だった。
「闇野さんに成人病予防の為にも私とパパも美乃里と一緒に夕食後位はウォーキングして来なさいって怒鳴られてね~最近パパも確かにお腹出て来てるし~ジャージに着替えて美乃里ちゃんを追いかけて来たの~」
魔王は私だけではなく両親までも生活改善させようと張り切っているようだ。
そして一時間後にウォーキングから帰ると魔王は部屋で誰かと話しているようだった。
「いつまであのメスブタに付き合うおつもりなのですか?魔界では魔王さまがいなくなられて城内がざわつき始めているのですよ!こんな事が天界の奴らに知られたら大変です!」
「心配無いさ!オレ様は魔界に居てもただ居るだけで全部裏で取り仕切っているのはベルゼブブなんだし!魔猫が心配するようなことはきっと無い!大丈夫だ!放っておけ!」
魔王は少し不機嫌そうな顔で魔猫から視線を逸らして窓の外を眺めている。
「確かに!ベルゼブブ様も魔王さまと同じような事を仰っていますが、私は嫌なのです!あんな何の取り柄もない人間に魔王さまの貴重なお時間を割かれる事が我慢出来ません!」
「おっ!魔猫!さてはお前・・・美乃里にヤキモチを焼いているのか?クククク」
魔王に図星を指されて魔猫はクルリとジャンプして宙を舞いナイスバディなお姉さんに変身して魔王の後ろから両手を絡ませて抱きついて猫撫で声で迫っていた。
「私はこんなに魔王さまをお慕いしているのに・・・意地悪な魔王さま・・・」
「オイオイ!発情期ってか?お前さ!何度も言わせるなよ!オレ様はお前の事は何とも思ってねえの!お前はオレ様の使い魔でオレ様は魔王だ!!それ以上は期待するな!」
魔王はそう魔猫に冷たい言葉を投げつけて首に絡みついた手を振りほどいていた。魔猫は寂しそうに黒猫の姿に戻り何も言わずにスッと姿を消してしまった。
私はそんな魔猫が可愛そうに思えて少し胸が苦しかった。
重苦しい空気が漂う自分の部屋へ帰り辛くなってしまった私は仕方なくリビングで魔王から支持されていたストレッチを5セットやってから部屋へ戻ると魔王の姿は既に無かった。
私は内心ホッとしたもののそう言えば魔王は毎晩どこで眠るのだろうかと今頃遅いんじゃないか?と誰かに突っ込まれても仕方のないことにようやく疑問を持ち始めていた。