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プロローグ

挿絵(By みてみん)



今日も学校から帰ると制服を脱いで自分の部屋に置かれた大きな姿見の鏡の前で私は大きな溜め息を吐いて部屋着に着替えてもう一度大きな溜め息を吐く・・・


美味しい料理や美味しいお菓子を毎日大量に作り出し家族に食べさせる事が生き甲斐のような専業主婦の甘い母親を持つ私は物心付いた頃からその美味しい料理と美味しいお菓子をお腹いっぱい美味しい美味しいと食べ続けていた結果こんなに醜い肉の塊に育ってしまった。


私は伊部美乃里いぶみのり__もうすぐ体重が100キロの大台に到達しそうになっている16歳ピチピチの女子高生・・・のはずがこの醜い巨体のお陰で既に春から通い始めた高校では、クラスメイトから[デブ美乃里]と呼ばれて甘い青春なんて程遠い生活を送っている。


「悪魔に魂を捧げてでもスリムな身体を手に入れてこの巨体から開放されたい!!」


昨日買った魔術や呪術的なものが色々詳細に書き記されてある分厚い本の頁を捲りながらふと悪魔の召喚方法が記された頁で手を止めて私はつい釘付けになってしまった。


「本当にこのままじゃ人間として終わってるもの・・・悪魔に魂を売ってでもスリムな身体を絶対に手に入れてやるわ!そして夢にまで見た合コンってやつに参加してやる!!」


普段は超ネガティブなはずの私がどうしてだかこの時は変な意味で凄く前向きだった。


「まずは召喚するための魔法陣ってやつを書いて・・・やっぱ時間は真夜中の方が成功率は高いかな~?あとは雰囲気出すために蝋燭も用意した方が良いかもね・・・白い大きな模造紙がクローゼットの中にあったはずだから・・・蝋燭はママに頼んで非常用のを何本か譲ってもらおうっと!」


悪魔を召喚するために必要なものを揃えるだけ揃えて後は真夜中になるのを待って私はさっそく儀式を始めた。


魔法陣の四隅に蝋燭を立てて大きく深呼吸をしてから私は本に書いてある通りの召喚呪文をゆっくりと唱えた。

しかし・・・何度か繰り返し唱えたが特に何の反応も無い・・・私はクスクスと肩を震わせて笑いながら諦めて立ち上がって部屋の灯りをつけようとしたその瞬間だった。


モクモクと黒い煙のような物が湧き上がり部屋の真ん中に置いた魔法陣の上を渦巻いている・・・そして目を凝らして見てみると何かがその渦の中で立ち上がった様に見えた。


「オイ!お前!お前がこのオレ様を召喚よんだのか?」

「ああああ!はい!はい!私です!私があなた様をお召喚よびしました」


煙の中から現れたのは黒い大きな翼を背中に持ち・・・頭から長い角が右と左にバランスよく伸びて突き出ていて漆黒の髪は毛先にウェーブがかかっていて腰まで長く伸びている。涼し気な碧い瞳をした何とも美しい悪魔が私の目の前に仁王立ちになっていた。


「それで?お前の様なメスブタがオレ様に何の用だ?オレ様に食われたいのか?!」

「わっ!私はメスブタではありません!これでも一応人間の女子高生です!!私をこのブタのような姿からスリムな美しい姿にして下さい!お願いします!」


私が召喚した理由をお願いすると心なしか悪魔の目尻がぴくりと上がった様な気がした。


「お前さ・・・マジで言ってんのか?」

「は、はい!マジです!大マジです!この巨体から開放されるなら魂も惜しくありません」


今度は少し口元がぴくっとして悪魔はニヤリと私を見て笑った。


「そうだな!魔界の生活も飽き飽きしていた頃だったし・・・退屈しのぎにお前の願いを叶えてやっても良いぜ!しばらく人間界でオレ様がお前のダイエットを手伝ってやる!」

「え?!え?!あの・・・ダイエット?ですか?!」


悪魔の言葉に驚きを隠せず私が聞き返すと悪魔は私を見てまた目尻をキッと上げて怒鳴った。


「オイオイ!甘ったれるんじゃね~ぞ!!世の中そんなに甘かね~んだよ!!魔法でチャチャっと何とかしてもらえると思ったら大間違いだぜ!!このデブッ!!」

「え~~~~~!マジですかぁ~!!」


悪魔の言葉に膝を付いて項垂れていると悪魔の後ろから小さい黒猫が飛び出して来て私の前にちょこんと座って尻尾でパタパタと私の頬を打ち悪魔に向かって叫んでいた。


「魔王さま!!本当にこんな人間の願いを叶える手伝いをしてやるのですか?このまま魂を喰らってさっさと魔界へ帰ることなんてあなた様には意図も簡単なことなのですよ!」

「簡単だからつまらね~んだろ?!それに人間界で暫く人間の格好で暮らすってのも面白そうじゃないか?そう思うだろ?魔猫マコ?」


その黒猫は悪魔を魔王さまと呼び人の言葉を当たり前のように喋っていた。


魔界へ戻る事を却下された魔猫マコと呼ばれるその黒猫は私に敵意を剥き出しの冷たい目でキッと私を睨みつけてからスッと一瞬で姿を何処かへ消してしまった。


こうして甘い考えで私が召喚した魔王と私の何とも可笑しな日々が始まってしまった。

挿絵(By みてみん)



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