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派遣能力労働者

作者: 漣 時雨

青い空、照りつける太陽、光を反射する白い壁。

立ち並ぶ長方形の建物群。間にある狭い道にはこの村の人だったのであろうモノが立ちふさがる。

関節がうまく機能せず、人形のようにぎこちなく動くモノ。

動きが遅く、決して逃げられない訳がなかった。

そのぎこちない動きを跳躍でかいくぐり、先へと向かう。

目指すは空のサファイアを盗んだ超能力者の元。


協力者と共に走る。見かけに反し足の速い、無骨な男。

特に知り合いというわけではない。

言葉も交わしていない。

そいつが驚いた顔で前を見る。

つられて先を見た。

白い壁の間に、昼間の太陽光をすべて吸収する大きな球が存在した。

真っ黒な球は恐ろしい早さでこちらにつっこんできている。

こちらも全力で飛ばしているわけだから、衝突まで時間がない。

しかし術もない。こちらは低空飛行をしているツバメのように跳んでいたのだ。足もつかず勢いを殺すことはまだできない。

闇の中に一筋光の反射が見えた。歯だ。歯が並んでいる。

きれいに並んだ歯。そいつ等が、こちらを迎えるように、開いた。


腕を引かれ、視界が揺れた。

殺しきれなかったスピードのまま、角を曲がらされたのだ。あの男、判断も早い。

かろうじて壁にぶつかることはなかった。その後ろ、想像以上の早さで黒球が私の入り込んだ建物の隙間を通り過ぎすぎるのが一瞬見えた。


油断をするのはまだ早かった。今度は上へ手を引かれる。

後ろばかりが気になって前にいた亡者に気づくことができなかったのだ。

だが飛び上がった後、後ろから闇が追いかけてくるのが見えた。

「また、来る」

一直線。亡者を無視してこちらへ飛んでくる。

このままでは、私の腕を引く男諸ともあの大口に吸い込まれる。


私が止める。


来るな、拒否する、拒絶。

だめだ、コントロールできない、手を離せ!


全身を駆け巡った拒絶の念が闇に向かって突き出した手から形を変えて発せられる。

闇の固まりとぶつかると、実体を得た念ははじけ飛んだ。

反動を受けて吹っ飛ばされる。


脱臼するかと思うほど強い力の引き合いに気を失いかけた。

一つは先ほどの体当たりを防いだ反動、もう一つは……空中で舵取りを行う器用な、あの男だ。

拒絶が全身を駆け回ったときに、この男の腕にも負担がかかった。それこそ、あの黒い球と同じように私から飛ばされていたはず。

それでも、声もあげずまた私を回収した。

彼の行動とそれを実行に移せるだけの力に少しばかりの恐怖を感じながら、引きずられるまま塔へと進んだ。


かなり急な道だ。念動力を使い高速で進むにも難しい。

所々で向きの調整のため片足をつく。

足への負担がひどい。

さらに速度を出すために踏み込もうとするのだが、それもままならない。


また、来た。

例の影。はるか下方で弾んでいる。

くるりとこちらに反射版が向けられた。

「飛んでくる」

叫びが聞こえたのかちらりと後ろを見た。

つかんでいた腕を引っ張り、男は小脇に抱え出す。

なにがなんだかわからずパニックに陥る。

男と球を何度も見比べ、短い悲鳴を上げることしかできない。

足下へ、白い歯が、来ている。

目が離せなかった。

足下まで一瞬で来た剛速球。


そして、頭上を壁の角が通り過ぎる。

曲がった。

しかし、まるで私の足と糸でつながっているかのように球もついてくる。

男が地を蹴ると、球との距離が離れた。

球の方にも加速のタイミングがあるらしい。少し減速していた。

その様子を見るためか、私を小脇に抱えたまま男は立ち止まり後ろを向いた。

「なぜ止まる!」

興奮状態がさめやらない。私は勢いのまま罵倒した。

球が、加速する。

はやく、はやく逃げてくれ!!

黒い体がみるみる巨体へ変貌する。視界が闇に飲まれる……

その直前、横に圧力がかかる。男の腕がわき腹に沈んだ。

ほんの少しの間、引っ張られていた。遙か左に墨汁の飛び散ったような後がある。

倒した。

あの球は勢いだけで自滅した。



解放されると、塔は目の前だった。


白い土煙のあがる階段を上る。

大きく削られた石段は非常に上りにくい。

隙間から入ってきた太陽光が薄く照らす白い石段を上がったところで広い部屋にでた。

埃が光を浴びてきらめく。

「誰っ、誰誰誰」

まくし立てるように騒がしい声が重々しく静かな部屋に響いた。

ボロ布一枚身にまとった小さい子だ。生え代わりの時期なのだ、小さい歯はひどく足りない。

「静かになさい」

階段を上りきる頃にもう一人の声。

ガラスの入っていない窓辺の背の高い寝床。光を背中に浴びた影の少女がこちらを見据える。

「追っているの?」

能力者を追っている旨を伝えるとそう、と一言声を漏らした。

「この上にいるわ、早く行って」

弱々しい声に感謝の言葉を返し、さらに石段を上がる。


「今の、とらわれの子かな」

ふと声に出してみた。いぶかしげな顔をされただけだ。


最上階。

石枠にほこりまみれの木扉が雑にとりつけられていた。

ぎしぎしと音を鳴らしながら扉を開けると、薄暗い部屋に老婆がぺたりと座っている。

彼女が能力者か?

声を出すまもなく、老婆の服の中から複数の独楽が現れた。

光る独楽はシュシュと音を立てながら周囲に散る。

ネズミ花火を連想したとき、四方で小規模な爆発が次々と起こった。


あたりが煙に巻かれた。

風を呼び込む。

視界が晴れた頃には、男がすでに老婆に見えていたモノの服をつかんでいた。

黒く干からびた四肢がただの木の根にしか見えない。とうの昔に亡者となっていた。

男は周囲を物色する。サファイアが見つからない。

気味が悪いが渋々埃のつもった部屋を荒らすように探した。


存在はこの近くに感じる。だが、いくら部屋を見て回っても姿をとらえることができなかった。

窓辺にいた男はふと、何かに気づいたように脇を通り階段を下りた。

あの老婆はダミー。

ならば、私が追いかけていたのは……?


先ほどは今にも死ぬのではないかとひどく気弱そうに見えた娘が、階段の元で仁王立ちしていた。足下には変にかがんだあの汚い子供もいる。

「やっと気づいたかな?」

うつむきがちに、上目遣いに。光の当たる右側だけが、ニヤリと笑う。

同時に、足が地から離れていた。胸に圧迫を感じ、そのまま後ろへ突き飛ばされた。

後ろの階段が緩い傾斜だったのは幸いした。体を一度浮かせると、段の側面に足をかけ、にらみ合う。

「これ、そんなに大事なものなんだね」

握り拳の中から、こすれる音をたててペンダントがぶら下がった。

ヘッドには大きく青く鈍く輝くサファイア。

空気が揺れた。隣にいた男がいち早くそのペンダントを奪おうと突進していた。

「アハハッ」

ひらりと身をかわす。勢い余った男は窓辺の寝台まで止まることができなかった。

「スピード戦だって君たちの方が不利だよ」

片手を降りかぶり、部屋の中へ勢いよくおろした。

見る見る壁が隆起する。

黒く澱んだ闇が広がる。外で見た、黒い球と同じ、白い歯が四方八方から顔を出した。

男が走ってこちらに来る。明らかに、間に合わない。

右手だけが必死にのばされ、部屋の外へ出ようと……


音も立てず、何も残さず。ただ、すべて、闇に飲まれた。


無意識のうちに彼の右手をつかもうと伸ばしていた手は行き場を見失いそのまま固まっていた。


「君は、いらないの?これ」

娘の声で視線を動かすことを思い出す。

左端でケタケタと笑っている。忌々しい。忌々しい。

思考が支配されていく。これでは、また、ケダモノのように……


ああ、忌々しい……イマイマシイ


先に仕掛けてきたのは子供だった。この子供は娘が私に備えていた、武器か……

だが、理性あるものにワタシハトメラレナイ。

ワタシハ、ワタシハ。


―――gergppphoealgfvnc



暴力的な圧力が私を止めた。

「誰がよしといった?」

あぁ、安心する。その声は……

っ―――?

その声は誰だ?


戻った視界。うつり込むのは……ひどく憔悴したまま閉じこめられた娘と野生児。そして檻のひもを持つのは、あの男。

「しゃべれないのかと思ってたよ」

「それはおまえのほうだ」


「許可がでるまでタガをはずすなと言われているだろう」

気を失っている間に何もかも終わったのか。いや、むしろ何かをする前にこの男が終わらせたのだろう。それは……助かった。

言いつけを破った上、解決もできずに意識を取り戻した等悲惨の極みだ。


男が目前にペンダントを掲げる余裕な姿を見て察した。

「護送車を待てば、任務は終わり、か」

それから、奴は一言も発していない。

たぶん、この先も奴は何も言わないだろう。

任務は終わった。帰ればいつも通り誰からも隔離される。しばらく会うこともない。

あそこに帰れば、次の仕事まで眠れる。

……そういえば前に起きたのはいつだったか。




いや、あそこに入ってまだ間もないはずだ。今回が初仕事だった気もする。


許可……って、なんだっただろう


いいや、もう。

あとは帰って眠るだけなんだから。





……結局あの男、一言も話さなかったな

単調な文しか書けなくなるという面倒なスランプがやってきて、この際だから響きがすっぱりした勢いだけの文章を書いてやろうとして……こうなりました。

この主人公、正直いらない気もしてくる。

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